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馬鹿な女は愛せない、と離縁されましたので……!【書籍化・コミカライズ】  作者: 一分咲
第二部

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前代未聞の交渉 3

 イヴは笑ってすみません、とばかりに頭を下げ、緩んだ表情を必死で元に戻そうとしている。けれど、彼にとって組織での長い友人であるレリアの振る舞いは、イヴの想像の通りすぎたようで、なかなか成功しないようだ。


 それを眺めつつ、ウィリアムは息を吐く。


「組織でのレリアへの評価は非常に高いんだな。若手であの地位は大したものだ」

「身内に等しい友人のことなので、そんなことはないですと謙遜しないといけないんですが……正直、すごいです。生まれ持った祝福の強さに加えて、頭は切れるし思い切りの良さも持っています。生家で身につけた令嬢教育も加わって、工作員全員の能力を詳細に把握する上層部からの評価はピカイチです」

「だろうなぁ」


 苦笑して見せると、イヴはウィリアムの表情に違和感を持ったらしく、一歩踏み込んでくる。


「俺たちからすると、ウィリアム様がそこまでレリアを心配する理由がわからないんです。一次投票の日も、生家アルトワ侯爵家の父親や兄と再会してもレリアは顔色ひとつ変えなかった。精神面でも安定しているのに、どうしてそこまで心配を?」

「さぁ、なぜだろうな」


 彼女のことだ。母親が生家で殺されたという、自分の最暗部は誰にも明かしていないのだろう。ウィリアムも無理に彼女を調べ上げて知った。


 一方、苦笑というには複雑な、穏やかな笑みを浮かべたウィリアムを見たイヴは、何か腑に落ちた様子だった。


「ウィリアム様は、レリアのことをよく見ているんですね。俺たちが気づかないこともわかっているのかもしれない。俺たちはそれぞれ、人に言えない背景を持っていることがほとんどです。レリアを理解して受け止めてくれる人がいて、友人としてうれしいです」


「女の趣味が悪いと言われたけどな。大体にして、あれだけの能力を持っているのに自己肯定感が低すぎないか? その部分についてはキャサリンを見倣うといいと思うんだけどな」

「確かに。でも伝えたら真面目に見倣いそうな気もするのでやめときましょう。レリアに付き纏われたり、構ってくれないが理由で暴れられたら困るでしょう?」

「…………。ああ」


 キャサリンと同じ行動を取るレリアを想像したところ、別に不快ではなかったため、同意するのが遅れた。それを見ていたイヴは破顔する。


「あはは。ウィリアム様とレリア、かなりお似合いかもしれませんね。応援します」




 ――けれどその日、レリアは戻らなかった。




 翌日、エルランジェ公爵家のタウンハウスには重苦しい空気が漂っていた。


 昨夜、レリアとジスランが金融ブローカーに招待されたサロンから戻らなかったのだ。領地への出発は延期になり、ウィリアムは人脈を駆使して二人の行方を捜索している。


 一睡もせず、一晩中レリアの帰りを待ち続けたウィリアムは、同じように待機しているイヴとマリアンヌに厳しい視線を向けた。


「二人の消息はまだ掴めないのか?」

「それがまだ。王都内であれば容易に掴めるはずなんですが、この感じ、間違いなくバロー公爵家が絡んでいるかと」

「許可をいただければ、バロー公爵家に突撃しますが!」


 怒りの形相のマリアンヌに、ウィリアムは逆に冷静になった。イヴが「物理的なのはやめて。レリアは強いから大丈夫」とマリアンヌに助言する間に、思案する。


(イヴが言う通りだ。セス・バローが絡んでいるのは間違いないが、もし二人が潜入して動いているのであれば、下手に動いてはまずいことになる)


「君たちにはこういうときの連絡手段があるんじゃないのか?」

「おそらく、それをしない方がいいとレリアが判断しているか――連絡できない状況、ということも」

「……っ」


 イヴがマリアンヌの様子を伺いながら気まずそうに教えてくれる。それを聞いて、ウィリアムにも焦りと怒りが湧き上がってくる。


(王太子選を勝ち抜くことは、結末を変えるために外せない。だが)


 おそらく、バロー公爵家へ様子を伺いに行くだけではレリアの無事は確かめられない。となると、強行手段で奪いにいくことになる。


 しかし、王太子選において候補者同士が直接争うことは禁止されている。そういった事実が発覚した場合、当該公爵家はその王太子選において権利を失う。だからこそ、普通では考えられない形で危険にさらされることになり、特別な訓練を受けた護衛をつける必要があるのだ。


(今回、向こうはレリアとジスランを標的にしたからお咎めなしだ。だが、俺の方はセス・バローに対して返還要求をすることになる。場合によっては武力行使だ。となると、完全にアウトだ)


 正義感に満ち溢れた、民衆からの支持も厚いセス・バローらしからぬ計算高さに頭痛がしてくる。


 そんな会話をしていると、慌てた様子でピエリックが現れた。


「坊ちゃん! 出入りの業者から気になる報告がありました! レリア様が男性と一緒にとある屋敷に入っていったと」

「金融ブローカーのサロンとして使われている屋敷だろう? それなら」


「それだけではありません! その業者はうちに取り入るため『ウィリアム様の妻の浮気』を詳しく知ろうとしたようで、二人がその屋敷に入った後出てくるまで待っていたそうで」

「なんだと!?」


 有力な情報にウィリアムだけでなくイヴやマリアンヌも身を乗り出す。ピエリックは真剣な様子で続けるのだった。


「レリア様もジスランさんも、屋敷から出てくる事はなかったようです。ですが、夕方暗くなってから、大きな布袋が2つ運び出され、バロー公爵家の別邸へ入っていったと」


お読みいただきありがとうございます!

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無敵の才女
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