前代未聞の交渉 2
煌びやかな応接室に怒号が響く。
「……っ。お前たち、なんてことをしてくれたんだ! 相手は王国庁の専門部隊に所属する工作員だぞ!? しかも、彼らが護衛しているのはウィリアム・エルランジェ殿。もう一人の王太子選候補者として決選投票になっている方だ! なんてミスを!」
「も、申し訳ございません、セス様」
「謝ってすむ話じゃない!」
床に這いつくばって詫びる部下に、セスが怒鳴り散らしている。
地下室に監禁されているところをセス・バローに見つかったレリアたちは、冷たい石の床の地下室から、ふかふかの絨毯が敷かれた応接室へと連れてこられていた。
予想通り、レリアたちの居場所は王都にあるバロー公爵家の別邸だったらしい。セスに見つかる前と後とで随分と待遇の差がすごいな、と他人事に思いながら、レリアはセスと手下の人間のやり取りを引き続き見守ることにする。
「な、なんとお詫びすればいいか……! 手違いで、王太子選の敵となる家を炙り出す手紙がエルランジェ公爵家に届いてしまったようでして! 指定したサロンに現れたこちらの方々を不審者として捕縛・監禁してしまいました……っ」
「それでも、彼らがエルランジェ公爵家の関係者だということぐらいすぐにわかるだろう!?」
「申し訳ございません。あのサロンからの炙り出しを担当していたのは王国庁から派遣された護衛ではなく、この方々のお顔を存じ上げず……!」
「にしても、これは私の王太子選での支持獲得に連動するとんでもない失態だぞ!?」
「申し訳ございません! エルランジェ公爵家の護衛のお二人にも深くお詫びいたします!」
状況を完璧に説明する叱責と謝罪のやり取りに、レリアは首を傾げた。
(バロー公爵家には私たちと同じ王国庁から派遣された護衛がついています。彼はそれとは関係がないから、私たちだと気づかなかったと言っている。まぁ、わからなくはないです。秘密が外に漏れるのを防ぐため、情報統制を徹底しているのだと思えば)
だが、微妙な違和感に引っかかりもする。
(ですが私たちが捕らえられてからほぼ24時間です。そんなに長い間、セス・バローさんが気が付かなかったなんてこと、あるでしょうか?)
レリアは地下室の隅に置かれた食事の存在を思い出す。仮に毒などが入れられていたら、と考える。それは、こういった任務に着く工作員として当然の流れだ。
毒は魔法では消せない。以前、屋敷内で遅効性の毒を盛られたことがあった。あの黒幕はガルシア侯爵だと思っていたが、まさかここへ繋がっていた可能性もあるのではないか。
(セス・バローさん。全く油断できないですね)
そんなことを考え、表情を険しくするレリアに、部下の叱責を終えたセスは向き直った。そうして頭を下げる。
「この度は本当に申し訳ないことをした。何とお詫びをすればいいか」
「王太子選という特殊な状況下ですから、想定内です。ただ、主人に詳細な報告はさせていただきます」
「……わかった。だが、その前に貴殿に相談したいことが」
「相談? 敵陣営が準備した舞台に立つことはいたしませんわ」
さらりと答えるレリアの言動は、セスにとって予想通りのようだった。彼らしい自信に満ちた笑みを浮かべ、続ける。
「相談は君にとって悪い話じゃない。単刀直入に言う。……こっちの陣営に移らないか?」
◇
「レリアは? もう間もなく出発だが、その前に領地に戻ってからの屋敷の配置について相談したいことがある」
午前中の面会から戻ったウィリアムの問いに、イヴが従順に応じた。
「実は、今朝届いた手紙に不審な点があり、急ぎその調査に出ています。出発までには戻ると聞いているのですが」
「急ぎ調査? ……どんな手紙だ?」
「金融ブローカーからのダイレクトメールです。先日、屋敷に貼ってあった呪いの紙と同系統と判断し、ジスランと共に顧客を接待するサロンへ行っています。今日の午後には王都を離れる予定なので、その前に調査を終えておきたいと」
外出の内容に、ウィリアムは一抹の不安を覚えたものの、レリアが誰と行動しているのかを聞いてほっとした。
「ジスランと一緒なのか。それなら大丈夫か」
安堵を顔に出せば、イヴがおかしくて堪えきれないという様子で笑う。
「組織の人間から見て、レリアはとびきり強くて頭もまわるタイプです。ベテランのジスランと一緒じゃなくても大丈夫、そんな風に心配されるのはウィリアム様ぐらいですよ」
「だが、アンバランスだろう? 不意に動けなくなることもあるような気がするんだ」
応じれば、イヴは驚きに目を丸くした。
「レリアのこと、よくわかっているんですね。当然三年前の任務のことを聞いてはいますが、そこまで踏み込んでお考えとは。意外でした」
「でなければ再婚を申し込んだりしない」
「……ですね。出過ぎた真似を」
イヴは戸惑ったような表情で笑う。チームの一員として話していたのが、まるで友人について語るような声音になった。それから、少し間を置いて再度問いかけてくる。
「ウィリアム様は、レリアを本気で妻にしたいとお考えなのですね」
「ああ。本人にも最初からそう言っている」
「レリアはなんと答えているんですか?」
こう聞かれては、ウィリアムは苦笑しつつ正直に答えるしかない。
「……女の趣味が悪い、と同情された」
「……くっ。レリアらしいな。あ、いや」
わたしは、何もかも持っているのに、恋愛面だけ不幸に見舞われるヒーローのことが好きです。




