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馬鹿な女は愛せない、と離縁されましたので……!【書籍化・コミカライズ】  作者: 一分咲
第二部

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渦中のパーティー 3

 感極まりそうな父親を前にして、キャサリンはお腹に手を当て健気に微笑んでいる。ウィリアムは何も言わないで黙っているが、その表情からは『女って怖い』という心の声が聞こえてきそうだ。


 レリアはガルシア侯爵親子を見た後、ウィリアムと会場の隅で見守っているイヴに視線を送る。彼らが頷いたのを確認した後、広い大広間の中に視線を滑らせた。イヴが指していた方向に、グレゴリオ侯爵家の当主がいるのが見えた。


 教会派の家とともに、目立たないようにしながらもこちらの様子を伺っている。


(役者は揃いましたね。――では汚名返上のパーティーを始めましょうか)


 レリアが微笑んだのを見て、ウィリアムが親子に向け反撃の口火を切る。


「いい加減にしてくれないか。俺はエスコート以外で君に指一本触れたことはない。このことは、誰よりもキャサリン・ガルシア自身が最もよく知っているはずだ」

「まだそんなことをおっしゃるのね……ひどいわ」


 父親が準備させた椅子に座ったキャサリンは、瞳を潤ませる。それを見た周囲からは同情の声が上がった。「無責任だ」「ああ見えて非道な男だ」「どちらを信じるかなんて考えるまでもない」――そんな声に、うんざりする。


(愛人がいるのが当たり前で、子どもを認知する文化だからこその感想ですよね。妊娠を偽装する人がいるなんて、想像もしていない方々です)


 自分もその文化に救われて教育を受けられた身ではある。けれどレリアはにっこりと笑った。


「キャサリン様の妊娠を証明できるお方はいらっしゃいますか?」

「何を……無礼な! この膨らんだお腹が何よりの証拠だろう!?」

「そうですわ……ひどい……きちんとお医者様にもかかっていますし、そのお医者様が作ってくださった妊娠の証明もありますのに……うっ」


(なるほど、お医者様が作る診断書でガルシア侯爵も騙されたと)


 一方、ハンカチで顔を隠し、本格的に泣き出しはじめてしまったキャサリンを見て、ガルシア侯爵はさらに激昂する。


「お前! こんなに動揺させてもし娘とお腹の子に何かあったらどうしてくれるんだ!? 王太子選でのエルランジェ公爵家はもう終わったようなものだが、それだけじゃない! このままでは七大公爵家でい続けることも難しいだろう!」


 顔を真っ赤にして怒鳴り散らすガルシア侯は、娘の妊娠を信じているようだった。けれど、その後ろ。椅子に座ってハンカチで顔を覆ったキャサリンの口元にほんの少し笑みが見えた。大したものだ、と素直に称賛したくなる。


(キャサリン様はガルシア侯まで騙してこの偽の妊娠を演じ続けています。エルランジェ公爵家の評判を貶めたいガルシア侯と、全てをめちゃくちゃにしてでもウィリアム様を手に入れたいキャサリン様の思惑が一致したからこそ、このような妄言を)


 そんなことを考えていると、ウィリアムが忌々しげに言った。


「……キャサリンが妊娠中だと言い張っている限り、俺たちに無理な取り調べはできない。イコール、王太子選での負けを意味するからだ」

「あたりまえだろう。身重の娘を長時間拘束させてたまるか」


 歪んだ笑みを浮かべたガルシア侯に向け、レリアは笑った。


「では、お医者様の方はいかがでしょうか?」

「……えっ」


 ガルシア侯爵の後ろで笑っていたキャサリンの表情が固まった。レリアは続ける。


「我が国では、お医者様は教会に属しています。普段、ガルシア侯爵家ではグレゴリオ侯爵家が統べる教会が管轄するお医者様を主治医としていますね。ですが、今キャサリン様が見ていただいているのは、グレゴリオ侯爵家が関知しないお医者様です」


 完全にガルシア親子の味方になっていた会場内に、ざわめきが生まれた。「どういうことだ?」「教会に属さない医師って、闇医者だろう」「本当だとしたらやばいんじゃないのか?」そんな声が聞こえてくる。


 ガルシア侯爵は顔を真っ赤にして声を張りあげる。


「何を根拠にそんなことを! 闇医者との繋がりを示唆するなど、これ以上ない我が家への冒涜だ! 大体、キャサリンはいつもの主治医に診てもらっている。先生のお弟子さんが毎週我が家へ診察に――」

「そのお弟子さん、本当に身元は確かなのでしょうか?」


「あたりまえだ。キャサリンが主治医のお弟子さんだと」

「主治医の方と一緒に屋敷へ来られたことは?」

「……それは、まだ」


 レリアの重なる問いに、自分でも違和感を持ったのだろう。ガルシア侯の怒りはトーンダウンしていく。最初は言いがかりをつけるウィリアム側が全面的に悪だと判断していたところに、わずかな迷いが見えるようになった。レリアは頃合いと判断した。


(今ですね)


「今日ここにその主治医の方をお呼びしています」

「えっ」


 キャサリンが立ち上がると同時に、イヴが一人の男を連れてきた。


「ガルシア侯爵閣下。キャサリンさんを診ている医者はこの方ですね」

「ああ、そうだが……」


 ガルシア侯が戸惑いながらもすんなり頷く一方で、キャサリンが唇を噛むのが見えた。


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9/4完結しました!
無敵の才女
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