渦中のパーティー 2
話を向けられたジスランは、近寄ってきて困ったような表情をした。いつもクールな彼がこんな表情を見せるのは珍しい。
「……そうだな。彼はいつもあんな感じだった。ただ、きちんと子供らしさもあったように思う。恐らく当時からそこまで計算していたような気がする。」
周囲の参加者に聞こえないよう、ジスランは声を潜めて教えてくれた。
「想像以上のくせ者か」
「そのようですね」
そんな会話をしつつ、レリアはウィリアムと共に二次投票の支援者を広げるため、挨拶回りを続ける。三年前のレリアの伝説を知る人間は決して少なくなく、不本意ながらも会話が弾んでしまった。
特にウィリアムは「家を潰しそうなほど馬鹿すぎた妻になぜか惚れてしまったかわいそうな公爵」として認知されているようで、キャサリン絡みの噂を知っているはずの出席者からも女運がないと思われ、同情されていた。
「さっきの伯爵夫人のお言葉。遠回しに女性の趣味が悪いと同情していらっしゃいましたが、あれは間違いなくキャサリン様の件も含まれていますよね? 不名誉な噂も受け入れないといけない王太子選って、やはり無くした方がいいですね」
「一方の君は脳筋だと思われているようだな。まぁそれはそうだ。家が傾くほど問題行動が多かった元妻が、組織から護衛として派遣されて再婚のきっかけになったと聞けば、その結論しかない」
「脳筋、望むところです」
「意外と間違っていない気はするぞ……」
耳元で囁き、苦笑するウィリアムにレリアは首を傾げて見せる。
「普通なら、あの馬鹿っぷりも組織の命令だったと思う人も出てくるはずなのですが……みなさん当然のように私が離縁されてから組織に入ったのだと思っているようです。馬鹿のふりってすごいですよね」
想像と度を超えたとんでもない馬鹿はあらゆる疑いを払拭する、と考えた組織の上層部は大したものだと思う。
そして、まったく色っぽい話はしていないのに、こうして至近距離で話しているだけで、周囲は仲睦まじい公爵夫妻だと思い込んでくれているようだ。
前から薄々感じていたことだが、ウィリアムの妻を大事にする演技が上手すぎる。あまりにも整いすぎたルックスが多大なアドバンテージになっている。これならわざわざ騒ぎにしなくても、社交界の醜聞は消えてくれるのではないだろうか。
「やはり、ウィリアム様の演技力はすごいですね。あと美貌も」
「はぁ?」
唐突で適当な褒め言葉にウィリアムが眉間に皺を寄せる。そこで声をかけられた。
「おや、ウィリアムくんではないか」
「……ガルシア侯」
それは、キャサリンの父でもあるガルシア侯爵だった。事前調査では、彼は出席する予定はないとはずだった。周囲も同じことを思っていたようで、軍部を掌握する重鎮の登場に皆がざわめく。
「ガルシア侯がいらっしゃるぞ」
「王太子選では、ここにいないリュミエール公爵家を支持しているという話だが、なぜここへ?」
「噂が本当なら、因縁の二人だな。例の件のせいでガルシアはエルランジェから手を引いたってことだろう?」
会場の異変を察知したセス・バローもわざわざ遠くから駆けつけてくる。
「これはガルシア閣下。まさかこんなところでお会いできるとは」
「私もだよ。近頃。社交界が騒がしいだろう? 何か原因になっていることはないかと探りに来たんだ」
明らかに、ウィリアムとキャサリンの噂を前提とした言葉だった。そこへ、甲高い声がする。
「お父様、こんなところにいらっしゃったのですね」
煌びやかなドレスを身につけて現れたのはキャサリン・ガルシアである。レリアはウィリアムと顔を見合わせる。その仕草を焦りと受け取ったらしいガルシア侯爵は勝ち誇ったように笑う。
「おお、キャサリン。身重の体でこんなところへ来てはだめじゃないか」
「ですが、この子が生まれたらしばらくはこのような場に来られませんもの。お父様にエスコートしていただける機会はきっともう数えるほどしかありませんわ。だから、無理を押して来たのです」
「キャサリン……誰か、椅子を持て!」
感極まりそうな父親を前にして、キャサリンは膨らんだお腹に手を当て健気に微笑んでいる。ウィリアムは何も言わないで黙っているが、その表情からは『女って怖い』という心の声が聞こえてきそうだ。
レリアはガルシア侯爵親子を見た後、ウィリアムと会場の隅で見守っているイヴに視線を送る。彼らが頷いたのを確認した、広い大広間の中に視線を滑らせた。イヴが指していた方向に、グレゴリオ侯爵家の当主がいるのが見えた。
教会派の家とともに、目立たないようにしながらもこちらの様子を伺っている。
(役者は揃いましたね。――では汚名返上のパーティーを始めましょうか)




