渦中のパーティー 1
新聞でキャサリンの子供がらみの醜聞が回ってから数日。噂はあっという間に広がり、支持者からの問い合わせも増えている。
一次投票後の勢いが夢だったのではと思ってしまうほど、一気に不利に動いていく戦況に、皆が怒りを抱えていた。
「なんだっていうの! こんな形で足を引っ張るなんて最低じゃない! 正々堂々と勝負しなさいよ! 返り討ちにしてやるのに」
「命を狙われたほうがましで守りやすいっていう判断は、俺たちの戦力の偏りを示しているよな」
周囲の調度品を巻き込んで怒りを表明していたマリアンヌに、イヴが冷静な分析で応じた。程なくしてがちゃんと花瓶が割れる音がする。ジスランがそのかけらをため息をつきながら拾い上げた。
「マリアンヌはもっと感情を制御する訓練が必要だな。」
「んっ」
図星を指されてマリアンヌが気まずそうに顔を歪めたところで、レリアたちの部屋の扉が開く。顔を見せたのはウィリアムだった。扉をしっかりと閉じ切る前に、ウィリアムは話し始める。
「今度、ある伯爵家主催のパーティーがある。元は行くつもりはなかったが、状況を鑑みて参加することにした。おそらく候補者も数人来るだけでなく、太い支援者も集まるだろう。つまり、君たち全員に護衛してほしい」
「承知いたしました。至急手配を」
レリアが返事をすると、ウィリアムが続ける。
「この機会に汚名を払拭したい。ただ、パーティーへの参加は当日まで内密にしておく。醜聞を広めたと推測されるガルシア侯爵が不参加だと聞いているが、俺が出席すると聞いて出てこられたら面倒だ」
「彼が出席してしまっては、風向きが変わりませんものね。さすがウィリアム様です」
レリアはパチパチと拍手をしてから、部屋の扉をしっかりと閉めた。組織の人間でなければ気が付かないほどの、特に注意した小さな足音が遠ざかったのを確認する。そうして施錠し、防音結界を張った。
「さて。スパイの方にきっちりと餌は撒きましたね! では早速当日の段取りを相談しましょうか?」
◇
パーティー当日。正装をしたレリアはウィリアムのエスコートでとある伯爵家を訪れていた。
「舞台はサマートン伯爵家のタウンハウスですね」
「ああ。二次投票に残っているどの四家とも特段深い繋がりはない。それもあって、支持を広げるのにうってつけのパーティーだ」
「イヴからの情報では、二次投票に残っている4家が出揃うと予想していました」
「まあそうだろうな」
にこやかな表情を浮かべ、顔を近づけあって話していれば、二人はどこからどう見ても仲睦まじい公爵夫妻にしか見えない。けれど、会話の内容は全く色っぽいものではないのだった。
二人から一歩離れた場所ではジスランが周囲を警戒していて、会場の隅にはイヴ、マリアンヌが待機してこちらに目を光らせている。もし何かがあっても十分に対処できる手筈を整えていた。
「……これは、ウィリアム・エルランジェ殿」
急に声をかけられて顔を上げると、そこにはセス・バローがいた。同じように王国庁から呼び寄せた護衛を従えて、手にはシャンパングラスを持っている。彼も王太子選のためにこのパーティーへ参加しているのだろう。ウィリアムが表面的な笑みで公爵らしく応じる。
「セス・バロー殿。先日の素晴らしい贈り物に感謝する」
「いやいや、あんなもの大したことないだろう。私たちは王太子選という枠組みの中では敵対しているが、この国の発展と幸福を願う一国民であるという点では同志だからな」
「素晴らしいお考えだ」
ウィリアムが笑顔を浮かべながらも感情のない声で同意する。周囲からはセスに対する尊敬の視線が集まってくるのを感じた。
(セス・バローさん。評判通り、大衆から評価を集めるのがお得意そうな方です。呪いの紙を我が家に貼り付けたのが彼陣営だとしたら、なかなかやり手ですね……?)
レリアの視線の先にいるセスは、堂々としていて為政者の顔をしている。彼が次期王太子だと疑わない人が多いのも納得だ。そんなことを考えていると、エルランジェ公爵夫妻の背後に視線を移したセスの悠然とした表情が、一瞬だけ揺らいだ気がした。
(……?)
けれどそれは一瞬のこと。すぐに表情は元に戻ったが、揺らぎにはウィリアムも気がついたようだった。
「……近くにお知り合いでも? 貴殿のことだ、挨拶をしなければいけない相手は多いでしょう。私どもはこれで」
「ありがたいことだよ。ではまた、王太子選の会場で」
二人は形ばかりの別れの挨拶を交わし、離れる。大勢の護衛や取り巻きと思われる貴族たちに囲まれて去っていくセスを見送ってから、レリアは首を傾げた。
「今の表情は何だったんでしょうか」
「わずかだが動揺していたな。本人は俺たちに気づかれていないと思っているだろうが」
「やはりああ見えて油断できないお方ですね」
ウィリアムに応じつつ、レリアはあることを思い出した。
「そういえば、ジスランは二十年前の王太子選でセス・バロー陣営に加わっていますよね。子供の頃もあんな感じだったのでしょうか? 正義感に満ち溢れながらも、どこか狡猾さを思わせる感じの」




