大きな変化と 1
この回だけウィリアム視点です。
◇
人払いがされたウィリアムの私室。
「……さっきのは……未来の詳細か……」
ソファに沈み込み頭を抱えることになったウィリアムは、つい数分前にセス・バローを見送りながら突如として見えた光景を反芻していた。
真っ暗な空に赤が混ざり、轟音と共に渦が生まれる。黒と赤の禍々しい色に染まった空は、莫大な魔力の塊を生み出した。
そこから恐ろしい何かが降りてくる。その何かが何なのかははっきりとは見えない。しかし、自分はその何かから人々を守ろうとして、戦い、死ぬ。
それが、これまでに見えていた最悪の結末の一つのはずだった。
(最悪の結末は、状況によっていくつか種類がある。だが、その内容が変わることも見える範囲が変わることもなかった。……今日までは)
今日ウィリアムが見たのは、いつも見える光景が詳細になったものだった。
空には恐ろしい魔力の塊が浮かんでいて、浮遊しそのすぐそばにいるのは、現在王太子に最も近い候補者、セス・バローだった。ついさっき、この屋敷にお祝いと称して大量のシャンパンを届けた男だ。
地上には王国軍が待機している。王国軍はセスについているのか、それとも対抗しているのかわからない。ただ一つ言えることは、恐ろしい魔力はそれら全てを呑み込み、未来は途切れたということだ。
「一体どういうことなんだ?」
もう一度頭を抱えると、目の前に温かいハーブティーが置かれる。顔を上げると、誰よりも頼りにしている男の顔があった。
「この爺も今しがたお聞きしたばかりで理解が追いついていませんが……坊ちゃん。もう一度落ち着いて整理してみましょうか」
ピエリックの言葉に、ウィリアムはさっき自分が見た『最悪の結末』を繰り返す。
「……今まで、最悪の結末を生み出すのが誰なのか全然わからなかった。だが、状況から、魔物や他国からの侵略によるものと思っていた。それがまさか王太子になる男だったとは」
「それは確かなのでしょうか?」
「断言はできないが、状況から見て濃厚だ。王国軍が動いていたのも踏まえて、彼は王太子になり何かがきっかけで国を滅ぼす」
「左様でしたか……」
二人きりの部屋には重い空気が満ちる。ウィリアムに見えた結末が本当ならば、国自体が何か悪いものの手に落ちる可能性があるということだ。
ゼプテニア王国の国軍の戦力は膨大であり、また、レリアたちのような少数精鋭の変態的な天才部隊も別で抱えている。それらが指揮系統ごと乗っ取られるとしたら、世界が終わると言われても冗談には思えない。
「坊ちゃんがこの結末を見るようになってから、十五年以上でしょうか? 同じ時期と思われる光景で違うバリエーションが増えることはありましたが、見えるシーンはいつも同じでしたね。どんなに新しい情報を得ようとしても不可能でした」
「そうだ。なぜ今回急に詳細に見えるようになったのか」
口ではわからないというふうに振る舞っているが、実際にはレリアが関わっているのではないかと思う。魔法構成を除き、魔力の残渣まで消してしまえるという彼女の祝福は相当なものだ。
ウィリアムも自分の未来視の祝福の特別さは理解していたが、間違いなく、彼女はそれ以上。レリアの存在が自分の見える未来に何らかの影響を及ぼしていても不思議ではない。
「あのお嬢さんに話してみてはいかがでしょう? この爺、坊ちゃんの能力のことは外部に隠し通すよう勧めてまいりましたが、今回は別です。あの方にはお話ししてもいいように思うんですがねえ。それに、レリア様はエルランジェ公爵夫人です」
「……」
(未来視の能力は、誰もが欲しがるものだ。彼女を介して王国庁に伝わる可能性もある。だが)
それ以上に、ウィリアムの気が進まない理由がひとつ。
「……こんな面倒ごとに彼女を巻き込めないだろう。たとえどんなに強かったとしても、知らない方がいいことはある」




