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馬鹿な女は愛せない、と離縁されましたので……!【書籍化・コミカライズ】  作者: 一分咲
第二部

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ウィリアムと祝福

 王太子選の第一回投票が終わったその日の夜。


 有力な候補者の一人であるウィリアム・エルランジェは護衛兼家令のピエリックをタウンハウスの部屋に呼び、安堵の息を吐いた。


「これでやっと第一関門クリアか。先は長いな」

「坊ちゃんが目指しているところは頂点ですからね。ですが、全く遠くはありません。この爺が保証します」


 穏やかな言葉遣いに釣り合わない、鋭い視線と緊張に包まれた空気。ウィリアムは幼い頃から誰よりも信頼してきた彼に、意味深な眼差しを向ける。


「俺が持っている祝福は、結末しか見えないものだ。途中で辿る道のりが変われば、唐突に未来も変わる。それに期待して進むしかない」

「坊ちゃんもお辛いですね。誰よりも特別な能力を持ちながら、それを誰かに明かすことは叶わない。お若い頃からずっと苦労なさってきて、頭が下がります」


-*-


 ピエリックの言葉通り、ウィリアムは特別な祝福を持っている。その内容とは、この国で特別視される祝福持ちの中でも極めて異端なものだ。


 七歳のある日のこと。突然、不思議な光景が脳裏に降ってきた。


 それは、数年後の自分が魔物の大群に襲われて立ち尽くしている光景。


 恐怖で硬直し逃げることすらできないでいる間に、視界は暗転した。


 気がつくと恐ろしい光景は消えていた。その代わりに、ウィリアムは廊下の壁にしがみつき立っているのがやっとなほど震えていて、全身に汗をかいていた。


 ついさっきまであったはずだった、ウィリアム周辺の窓は全て割れて無くなっていた。魔力の爆発のようなものが起きたのは理解したが、その起点が自分だと気づくまでには数分かかった。


 すぐにピエリックがかけつけ、幼い主人の様子がおかしいと気がついてくれた。何があったのかをそのまま答えると、ピエリックはこれまでに見せたことのない険しい表情を見せた。そうして慎重に告げた。


『ウィリアム坊ちゃん、あなたが見たのは【祝福】によるものかもしれません』と。


 ピエリックは、父エルランジェ公がたった一人の後継を守るために王国庁傘下の組織から引き抜いた護衛だ。


 その組織はあらゆる依頼を請け負っているだけあり、国が公に管理する国軍の力を凌駕しており、普通なら考えられないような知識や魔法を有する人間がいるらしい。


 ピエリックは『私も厳密な見分け方は知りませんが』と前置きした上で、その組織からある石を秘密裏に借りてきて握らせてくれた。それは魔法への適性を測るもので、石が明るく光れば光るほど適性が強く、【祝福】を持つ人間の確率が高いのだという。


(組織では、祝福持ちを見分ける諜報員で当たりをつけることと、石を使った判別の両方を通じて人員をスカウトするということだった。だが、俺の祝福は珍しいタイプのもので見分けるのが難しかったんだろう)


 これはピエリックに教わった超機密情報で、ウィリアムは誰にも明かしたことがない。そして、祝福を持っている可能性を指摘されたウィリアムは、自分の祝福が何なのかすぐに察した。


 ――それは、極めて特異な能力である、未来視だと。


 何もできず、恐怖に怯えて立ち尽くす自分。頭上を飛んでくる魔物の群れ。全身を切り裂くような絶望感。一瞬で暗転する世界。


 ウィリアムが祝福を持っていることは、当然悪名高いエルランジェ公にも報告された。父は大変に喜んだが、同時にウィリアムの能力を独り占めしようと画策し、国には報告がされなかったし、同じような悪人の古い知人に頼んで祝福を隠すよう隠蔽魔法をかけた。


 一方でピエリックに命じ、ウィリアムが数年後に魔物に襲われて死ぬ未来を回避するため魔法の訓練をさせた。ピエリックの方も幼い主人を守るために貴族らしからぬ反則技ともいえる戦い方を教え出した。


『やられる前にやるのですよ、坊ちゃん』

『ピ、ピエリック……?』


 それを教わった日の、貴族としての矜持はどうしようという困惑はいまだに忘れられない。けれど、幼かったウィリアムは素直に『殺られる前に殺る』を覚え、実行できるまでになった。


 そして、国軍の対処が必要になるような上位の魔物を倒せる魔法を習得したある日。ウィリアムの脳裏に降りてくる見慣れた光景が、突如として違うものに変わった。


 見えるのは、もう田舎道の真ん中に立ち尽くし、恐怖に怯えながら魔物を見上げて世界が暗転する光景ではない。



 もっと最悪の――国が禍々しい何かに飲み込まれる光景だった。



(タイミングや状況によって内容は微妙に違うが、新たに見えるようになった未来では、大勢の犠牲者が出る。そして俺は大人になっていて、最前線に出ていた。恐らく国を動かせる立場――王太子などではない)


 その光景の中で、ウィリアムはずっと危惧してきた魔物の襲撃を生き抜き大人になっていて、事態を止めようと奔走していた。


 最初に見た未来を変えたことで、未来は変えられるとわかった。けれど、さらに悪い事態に陥ることもあることも理解した。



-*-


「――皆には言っていないが、俺が王太子選を勝ち抜く理由の一つが未来を変えたいからだ。最初、俺は十歳程度で死ぬはずだった。だが祝福を使った未来視によりその先まで見えるようになった。それが、俺が死ななかったことで起きる未来かはわからないが、変えた未来に責任を持たなくては」


 真剣に話すウィリアムの前に、ピエリックは香りのいいハーブティーを置く。


「最初にご覧になった結末――『魔物の大群に襲われて死ぬ』は見事に回避なさりましたね。坊ちゃんが類まれな魔法の使い手になった時点で、エルランジェ公爵領の結界も強固なものになり、大群自体が発生しませんでした」

「未来が変われば、見える結末が変わることがわかってよかった。望みを繋げられるからな」


「坊ちゃんはお優しくて真面目ですね。国の混乱を防ごうと必死になる高尚な精神には本当に感服します」

「自分まで死ぬんだから、必死になるのは当然だろう? 確かに、誰かに助けを求めたくても見えている未来の内容から、誰のことも頼れないのは正直つらいけどな」


 自嘲気味に笑えば、ピエリックは爺らしく笑った。


「レリア様。祝福の内容をお話ししてみてはいかがかと思いましたが?」

「彼女に?」


 ほんの少しだけ考えたことがあったことを指摘されて、ウィリアムは声を上擦らせた。お見通しのピエリックはひどく楽しげである。


「はいそうです。……まぁ、レリア様でしたら、わざわざお話ししなくてもそのうち察していろいろと吹き飛ばしてくれそうですな、ははは」

「……それが、書斎やこの屋敷でないことを祈りたいところだ」


 話題を逸らすために顔を引き攣らせつつ苦笑したものの、彼女がそんな馬鹿ではないというのはとうにわかりきっている。とにかく、ウィリアムの苦笑で、二人の祝勝会はお開きになった。



連載再開です!

お付き合いいただけるとうれしいです!

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無敵の才女
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