5.元旦那様の護衛を務めることになりました 3
イヴの言葉はもっともではあった。
このゼプテニア王国では、ごく稀に【祝福】という特別な能力を持つ人間が生まれる。このチームでいうと、レリアとジスランが祝福持ちで、敵なしである。
加えて、アルトワ家の戦力はきちんと把握し分析済みだ。普通なら全く怖くないのだが、レリアの心配は別のところにあった。
「怖いというか、あの家の方々に変に首を突っ込んで死なれたら後味が悪くて……」
レリアの実家アルトワ侯爵家は、歴史上で何度か王太子選の護衛を務め、勝利へと導いたことがあるらしい。祝福を持つ人間が生まれやすい血筋だからこその栄誉であり、それが一族の自慢だった。
しかし現在は特に秀でた人間が家にいない以上、王太子選の護衛任務を務めるのは厳しいはずなのだ。だが、アルトワ家はプライドの高さからそれを公にしていない。
本来、祝福は外から見ただけでは普通の魔法と区別がつかないこともあるので、世間を騙すことは難しくない。そのため、アルトワ家は、見栄のためだけに実力に見合わない護衛を受ける可能性があった。
いや、あの家ならきっとそうするだろう。プライドや外面を何よりも大事にする家だ。
(私が実家にいた頃、お兄様は、外ではあたかも自分が祝福を使えるかのように振る舞っていましたね。真実味を持たせるために、皆で偽装のお手伝いをしていました)
具体的にどんな手伝いをしていたかというと、兄の『自分は魔力量に特化した祝福を持っていて、強力な攻撃魔法が使える』という設定のもと、あまりにも膨大な魔力をコントロールできなかった兄に怪我をさせられてしまったという理由で腕に包帯を巻かされたりしていた。
継母などは、そのほかに化粧品を使って顔にせっせと傷跡を作ったりしていた。今になって思い返せば一家揃ってなかなかの奇行だが、当時は本気だったのだ。
(どう考えても無理があったけれど、今でもあれを演じているのでしょうか……)
ちょっとイカれている生家を思い出し、なんとも言えない気持ちになってしまう。
加えて、そこまでして欲しかった祝福を憎きレリアが目覚めさせていると知ったらどうなるのか。考えただけで面倒である。遠い目をし、わずかに首を振ったレリアは懐から一枚の封書を取り出した。
「……実は、こんなお手紙が届いていまして」
それは、『レリア・アルトワ』という、今のレリアが絶対に使わないファミリーネームつきの名前が書かれた手紙だった。
差出人はアルトワ侯爵。レリアの父親だ。
「組織が偽装のために借りてくれているアパートメントに届いたお手紙なのですが、中には『実家に帰ってこい』と書かれていました。六年前のことと三年前に離縁されたこと、どちらも広い心で許してやるから、家族で仲良く暮らそうという夢物語がここに」
「はぁ!?」
「何よそれぇ!? ふざけるんじゃないわよ!」
「……」
イヴとマリアンヌが声を荒げ、静かに話を聞いていたジスランも眉間に皺を寄せる。
レリアが家を出た経緯に加え、三年前にエルランジェ公爵家から離縁された後、家の門を跨がせなかったことを知っているのだから当然だった。そうやって怒ってくれる同僚の気持ちを温かいと思いつつ、レリアは窓の外を見つめる。
「王太子選が始まるにあたり、私から元旦那様やエルランジェ公爵家の情報を聞き出したいのでしょう。彼は王太子の有力候補ですから」
「……ねえレリア、この任務がなかったら家に戻ってた?」
マリアンヌからの意外な問いに、レリアは目を丸くする。
「どうしてですか?」
「だって、レリアはアルトワ侯爵家の話をするとき目が怖くなるんだもの。もちろん、家に戻るっていうのは家族の一員になるっていう意味じゃなく、復讐のために戻るって意味よ? 自分に酷いことをして追い出したっていうアルトワ家の人間を許せないのは当然だと思うから、私は何も言わないけど」
「……そうですね」
レリアは、穏やかに微笑んだ。自分でも表情が固くなっているのはわかる。けれど、どうしても許せない思い出が胸に蘇って、上手く笑えない。
(確かに、アルトワ家の人間は許せません。でも、それは私に濡れ衣を着せて追い出したからではないのです……)
それは三年前、エルランジェ公爵家をめちゃめちゃにするという任務中に知った真実が関係している。この仲間たちには話していないことだ。
「……」
レリアの表情がわずかに暗くなったのを感じとり、そしてその理由を話すこともないと察したイヴは、話題を変えるように鼻で笑う。
「にしても、危なかったな。もしウィリアム・エルランジェ公爵に『馬鹿な女は愛せない』って離縁されてなかったら、レリアも王太子妃候補だったのか。笑える」
「ふふふ。元旦那様、人を見る目が確かでしたね。離縁して正解です」
元夫を手放しに称賛し、今度は上手く笑えたところで、馬車は屋敷のエントランスに到着したのだった。
――この後、ウィリアム・エルランジェとの再会が待っている。




