4.元旦那様の護衛を務めることになりました 2
二人とも、明らかに目を逸らすのはやめてほしい。説明はなくても十分すぎる答えに、レリアはまた頭を抱えた。
「どうして数十年に一度の『王太子選』の護衛という超重要任務なんかが回って来て、しかもその相手が元夫なの? 大体、三年前はボロボロにして潰したかった家なのに、今は守りたいってそんなことあっていいのでしょうか!?」
「――仕方がない。国王が変われば、方針も変わる。」
低い声で端的な答えをしたのは、三人目のチーム員ジスランだった。二十七歳というメンバー最年長の彼はレリアたちが騒いでいるのを静かに見守っていた。
彼がベテランなのは年齢だけでない。子供の頃からずっと組織で育ち、あらゆる任務を経験した尊敬すべき存在だ。おそらくこの任務も、もし組織から一目置かれるレリアがいなければ、チーフを務めたはずだ。
整った美しい顔立ちと肩につきそうな長さの銀髪のせいで、彼はよく女性に間違われているが、皆が心の中で頼りにしている存在だし、何よりも周囲を見下したり奢ることがなく、尊敬されていた。
大先輩に対し、レリアはおずおずと問いかける。
「ジスランは子供の頃に王太子選のサポート任務についたことがあるんですよね……?」
「ある。前任者が死んで、私が子役として呼ばれた。」
「そうですか……」
(王太子選。過酷なものになるとは聞いていますが、組織側に死人が出るなんて。これは心してかからないといけませんね)
今回、レリアがエルランジェ公爵家へと出戻ることになったのは、先ほどから何度も話題に出ている『王太子選』の候補者の護衛のためだ。
この王国には、七大公爵家と呼ばれる七つの名門が存在する。
元夫のエルランジェ公爵家をはじめとした、国の中枢に君臨するこれらの名門の中から、国王が崩御した際には新しい王太子が選挙で選ばれることになる。これが『王太子選』だ。
二週間前のこと。二十年近く在位していた国王が崩御し、王太子が新国王となり、王太子の位が空席となった。つまりそれは、選挙の幕開けを意味する。
選挙期間中には候補者への襲撃などの危険が高まるため、それぞれが護衛をつけるのが慣例になっている。レリアたちのように王国庁傘下の組織から選出されることもあれば、私的に自分が信頼できる人間を雇うケースまでさまざまだ。
「元旦那様が王太子候補に選出されたせいで、このような任務が回って来たわけですが……。けれど、エルランジェ公爵家が組織の力を借りたのは意外でしたね」
不思議そうにするレリアに、イヴが身も蓋もないことをいう。
「単純に自分で優秀な護衛チームを育てる時間もお金もなかったんじゃない? レリアがここの夫人だった三年前に、かなり浪費しちゃったから」
「うっ……申し訳ありません……」
どうしたって、この会話は三年前のレリアの馬鹿すぎる振る舞いへと辿り着いてしまう。この四人でいる間でさえそうなのだ。当事者である元夫がここに加わったらどうなるか。考えるだけで申し訳なくて埋まりたい。
加えて、レリアの不安は他にもあった。
「実は、私の実家のことも気になっているんです。おそらく、この王太子選に一枚噛んでくると思いますから」
「レリアを追い出したアルトワ侯爵家? どんなに血筋が優秀でも、今の家には祝福持ちがいないんだろう? 怖くないって」




