レリアと祝福 3
「私はアルトワ家の正当な血を引く人間です。私がお父様やお兄様にない祝福を目覚めさせていてもおかしくないのですよね」
「ま、待ってくれ。そんなはずは」
目を泳がせておろおろする兄に向け、レリアは微笑むばかりだ。
「六年前、あなたはパニックになった私に酷い怪我をさせられたでしょう? 倒れてきた本棚の下敷きになったと言っているけれど、その本棚が倒れたのは何故だと思います?」
「あ、あれは、お前が本棚を蹴ったから――」
「違うわ。追い詰められた私に祝福が目覚めた瞬間、魔力が爆発したからです。窓が割れたのも、家具がめちゃくちゃになったのも全部、魔力が爆発したから。それなのに、あなたは自分が魔法の練習で失敗したせいだと言い張って……騎士への適性を認められ、そこから騎士学校に高待遇で入学する足がかりにしましたよね」
ため息をつけば、ヘクターは後ずさった。
「それは」
「そ、そうだったのか? へクター、お前はかわいい妹になんてことをしたんだ」
レリアが祝福を持っているという事実をやっと飲み込んだらしい父親は、しらじらしくヘクターを責め始めた。けれど、レリアはアルトワ侯である父にヘクターに対する以上の冷たい瞳を向ける。
「お父様も同罪です。あなたは私が祝福を目覚めさせたことこそ気づきませんでしたが、お兄様の嘘は知っていた。……そして、お母様のこと、私が何も知らないとお思いですか?」
「は? 何の……ことだ……」
さっきの言葉に続き、これも嘘だとわかる。あまりにも目を泳がせ、心許ない様子のアルトワ侯を見ていると、心の中にやりきれない感情が浮かんでくる。
(第二夫人だったお母様は、アルトワ侯爵夫妻に殺された。実行したのはお継母様かもしれないけれど、捜査を拒んで隠蔽したのはお父様よ。お母様はどうしてこんな人たちに殺されないといけなかったの)
けれど、今は大切な王太子選の第一回投票日だ。こんなところでウィリアムを放って騒ぐわけにはいかない。
現に、まだこの攻撃の犯人は見つかっておらず、数百人の貴族と王国庁の人々がこの部屋から一目散に避難している状態なのだ。
(ジスランがいるのでウィリアム様の安全は保証されますが……私は定位置に戻ってマリアンヌと一緒に犯人を探さないと)
頭ではわかっているのに、なぜか体が動かない。母親を死に追いやった人間が目の前にいると思うと、怒りの感情に全てが支配されてしまいそうだ。
母の死に関わる真相を知ってから、レリアが彼らに会ったのはこれが初めてのこと。
恨んではいるものの、任務が関係すれば気持ちを切り替えられると思っていたのに、自分の見込みは甘かったのかもしれない。
少し気を抜くだけで、怒りと悲しみで視界がぼやけそうだ。今はそんな場合ではないとわかっているのに。
(ですが、私はしっかりしないといけません)
自分の役目を確認すると、顔を上げて前を向く。一方の父と兄は現在の状況をまるでわかっていない様子で、レリアをこの場に引き留めようとしてくる。
「とにかく全部水に流してやるから、アルトワ家に帰ってくるんだ。そうだ、再婚の噂を聞いている。アルトワの娘であるお前は、家長の許可なしに結婚などできないだろう」
(この人……)
かつて父だった男はまるで何もわかっていないようだ。自分を長く支配下に置いてきたこの男が、心底憎い。
レリアが男を睨みつけ、怒りを露わにしようとしたその瞬間。
背後から冷ややかな声がした。
「水に流す、はお前たちが口にしていい言葉じゃない」




