旦那様からの心配と 5
「よく問題を起こすとは思っていたが、悪い人間じゃないとは思っていた。いろいろ困ることをしでかしても……根の部分が善良に思えていた」
レリアの方も、ウィリアムがいい人間だと見抜いていた。だからこそ置き土産をしたし、最後の方は組織からの任務に消極的になりすらした。
けれど、これはあまりにも様子がおかしいのではないか。
(あれだけのことをしでかした私を善良な人間だと思うなんて……ウィリアム様はどうかしていませんか……?)
レリアの困惑をよそに、ウィリアムはまだ続ける。
「三年前、寝室を別にしたのも、何をしても干渉しなかったのも、君が屋敷で心地よく過ごせればいいと思ったからだ。能天気に駆け回り、屋敷を破壊する君を皆は呆れて見ていたが、俺から見た君は、心の傷が癒えていない少女のようだった。――無条件に守ってやりたいと。君は傲慢に思うかも知れないが、そんなふうに思っていたんだ」
ところどころ中傷されているような気はするものの、それでも彼がレリアを好意的に見てくれていたのは伝わってくる。
(もちろん、それでも私は任務を遂行したとは思いますが……)
けれど、父親に見捨てられ家から追い出され、組織で育ったレリアは、こんなふうに一歩踏み込まれたのは初めてだった。
もちろん、組織で出会った仲間は優しい。ジスランこそ上官のような関係だが、年齢が近いイヴやマリアンヌは親友と言っていい存在だ。でも、それも訓練を共にし、組織という独特の場所があってこその関係なのだ。
(ウィリアム様は、馬鹿を演じる私を一人の少女として接してくださっていたと。私の人生で、そうやって尊重されたことはあったのでしょうか)
ついさっきまで軽く応じていたことが嘘のように、感情が高ぶっている。
さっきまでは真っ直ぐに彼を見つめることなど簡単だったのに、なぜか今は恐れに似た困惑で雁字搦めになって、視線を動かせない。部屋を静寂が飲み込んでいく。
それを破ったのは、ウィリアムの方だった。じっと考え込んでいたウィリアムは、ふと思いついたように漏らしたのだ。
「多分、俺はずっと君に惹かれていたんだろうな。今わかった」
「え?」
「じゃなきゃ説明がつかない。三年前、あんな突拍子のない行動ばかりする妻を庇い、今だって意味不明な怒りに焼かれてる。理由は一つしかない。俺は、君を好ましいと思っているんだ。三年前も、今も」
何を言われたのかわからなかった。
(惹かれていた……? ウィリアム様が……私を好ましいと思っている? え? え?)
聞こえた言葉を頭の中で繰り返すものの、意味が全く入ってこない。
惹かれている、好ましい。三年前も、今も。
ぐるぐると言葉だけが脳裏を駆け巡る。そこから導き出される答えは、レリアにとって触れたことがないものだ。家族からは与えられず、遠くから眺めていたそれは、いつしか自分とは無関係のものになってしまっていた。
答えの端っこを掴みかけた瞬間、この場ではふさわしくないとわかっているのに、正直な言葉が口をつく。
「ウィリアム様、趣味が悪すぎません……?」
「それだ」
思わず本音を漏らしたレリアに、ウィリアムは極めて不機嫌そうに顔を寄せた。視界いっぱいに夫の端正な顔立ちが広がってびっくりする。
けれど、ウィリアムのこの行動は冗談ではないようだった。青い瞳は真剣にレリアだけを映している。
「自分を軽んじるのをやめろ。俺は誰であれ、君が軽んじられることが不愉快だ」
「――!」
耳朶に響く、低く熱を帯びた言葉に息を呑む。




