旦那様からの心配と 3
なぜか今日三回更新します。朝昼夜です。
その日の夜。表向き、レリアは高熱を出して自室に閉じこもっていた。
枕元に小さな灯りが燈る中、ベッドに横たわる。開け放たれたままの窓越しに夜の空気を見つめていると、コンコンと扉が叩かれた。護衛チームのメンバーとは違う気配に、レリアは僅かに緊張する。
「……はい?」
「俺だ。高熱で臥せっていると聞いた。入っていいか? 使用人も一緒だ」
「!」
ウィリアムが訪ねて来たことを知り、レリアはベッドの上に起き上がった。実は、高熱を出して寝込んでいるというのは嘘だ。本当のところは微熱がある程度で、寝込むようなものではない。
レリアたち組織の人間は毒に慣らされているため、微量を摂取したぐらいでは問題ないのだ。だから、今この瞬間に誰かがウィリアムを狙って攻撃をしかけてきても、万全の体制で戦える自信がある。
(毒を盛った犯人が判明するまで、ウィリアム様にも内密にしておく予定でしたが……)
けれど、勘のいい彼のことだ。近いうちに気づかれる可能性があるのなら、人払いした状況で伝えておく方がいいだろう。レリアはすぐに決断し、おずおずと答える。
「お見舞いはウィリアム様だけで結構です。使用人の方には下がっていただいてください」
「……わかった」
少しの間を置いて扉が開く。ウィリアムが姿を見せた。なんだか心配そうな顔をしていて、不思議な気持ちになる。
しかし、ウィリアムの方も微妙そうな顔をしている。使用人を追い払って彼だけを部屋に入れたことが解せないのだろう。
ウィリアムとは再婚をする予定になっているので、彼が一人でレリアの部屋を訪ねたとしても何の問題もない。けれど、この対応はさすがに予想外だったのかもしれない。
困惑顔のまま、ウィリアムはベッドサイドのテーブルに持ってきたトレーを置き、椅子に座った。
「休んでいるところに申し訳ない。体調が悪いと聞いて」
テーブルに置かれたトレーの上には、水差しとグラスとフルーツが載っている。おそらく、この部屋の扉の前で使用人から受け取ったのだろう。
当主が、護衛のために食べ物と飲み物を運んでくる。なかなか珍しい光景だが、彼の侍従兼家令であるピエリックへ普段の振る舞いから察するに、彼にとっては造作もないことなのだろう。
王太子候補でありながらも、人としてよくできた存在の元夫を見上げ、レリアは微笑んだ。
「よかったです。皆にはきちんと体調不良だと伝わっているのですね」
さっきまでおでこにのせていたタオルを外してウィリアムの手にあて、それが冷たいままであることを示す。すると彼は顔を引き攣らせた。
「まさか、嘘なのか?」
「はい。ですがこの屋敷には今日の昼、私に毒を盛った方がいらっしゃいます」
「は? 毒?」
声を荒げかけたウィリアムに対し、レリアは片手の人差し指を立て口に押し当てる。彼は眉間に皺を寄せてわかりやすく困惑したが、レリアは続けた。
「標的は、明確に私でした。少量を体内に入れることになりましたが、わざとですしほとんど効いていません。今寝込んでいるふりをしているのも、成功したと思い込ませたいだけですので、他言無用を貫いてください。そして、報告が遅れたことをお詫びします」
理路整然としたレリアの言葉に、ウィリアムは面食らった様子だった。冷静さを欠いた様子で問いかけてくる。
「いや、全容が見えてくるまでは報告を遅らせたということぐらいはわかるが……身体は本当に大丈夫か?」
「はい、全然平気です」
「じゃあ次の質問だ。自分が名指しで狙われて、なぜそんなに冷静でいられるんだ」
(えっ)
完全に予想外の問いだったので、レリアは目を瞬く。
「えっと……お仕事ですから?」
当たり前のことすぎて、考えたこともなかった。目を丸くしたレリアを見て、ウィリアムの方も一瞬固まった。それから、何かを悟ったように深く息を吐く。
「あのなぁ……自分が死ぬかもしれなかったんだぞ」
「あっ、申し訳ありません。ですよね、ウィリアム様の信条は伺っていたのにこんなことになってしまって返す言葉もございません」
そうだ。彼は王太子選のあり方を変えたいと言っていた。それこそが選挙を勝ち抜こうとする動機に違いない。なのに、自分の陣営に死人が出るのを嫌がらないはずがないのだ。
レリアは自分の鈍さを反省する。
(私にはクライアントに対する配慮が足りませんでした。結果的に大丈夫でさえあれば、ウィリアム様が気にされるはずはないと思ったのですが……誤りです。だめですね)
けれど、彼の困惑の理由はレリアの想像する答えとは大きく違ったようだ。頭上でウィリアムの怒気を孕む声が聞こえた。
「君は馬鹿なのか」
一部のエピソードをまとめました。
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