旦那様からの心配と 2
マリアンヌを見送った後で、レリアは思案する。給仕をしてくれたメイドの挙動不審さから考えて、毒を盛ったのは彼女に間違いないだろう。
しかし当然、メイドの背後には真犯人がいることもわかっている。
(彼女は怯えていました。ということは、毒を入れろと命令されて、断れない人物ですね)
そんなことを考えながら、カップを持ち上げて底を覗き込む。そこには、溶けたチョコレートの拭き跡がついていた。これが『毒入り』の目印なのだろう。
念のため、マリアンヌに注がれた紅茶のカップの底を見てみる。こちらはきれいだった。ついでに紅茶も一口飲んでみると、こちらは問題なくおいしかった。
「――つまり、狙いが私ということははっきりしました。困りましたね……」
ため息をつくと、扉がノックされてイヴとマリアンヌが入って来た。
「レリア⁉︎」
大丈夫か、と大騒ぎしそうなイヴの口に、人差し指をあてる。
「大丈夫です。この程度ならまだ効きません。組織で慣らしたことがある範囲ですので、問題ないです」
「……よかった……まさか、あの訓練が効く日が来るとは」
「そうよ。驚いちゃった。でもレリア、毒は厄介よ。だって魔法を使っても解毒が難しいんだもの」
安堵して膝をつくイヴとマリアンヌを前に、レリアは頷いた。
「しかも遅効性の毒ですから、じわじわと私を殺し、病気か何かで衰弱したように見せたい人の仕業ですね。……それにしても、ウィリアム様ではなく私を狙うなんて。深読みは必要でしょうか?」
苦笑するレリアの前、イヴは持って来た手帳からいくつかの試験紙を取り出し、カップに残った紅茶の中に沈めている。
「……わかった。やっぱり、これは『ロストリアノン』だ。解毒薬を持ってるし、二度目があったときのために追加の薬も手配する」
「イヴ、ありがとうございます」
「だけど、これを持って来たのはメイドだって? 誰の差し金だろ?」
その場で組織への手紙を書きながら、イヴは不思議そうにしている。けれどレリアには心当たりがあるのだった。
「キャサリン様の腹心、家政婦長ではないでしょうか」
「レリアの部屋を荒らしたのもその女だったわよね。目立つ嫌がらせができなくなったからって、今度は毒を盛るって本気⁉︎」
息を巻くマリアンヌを見て、レリアは苦々しく笑うばかりだ。
「さすがに、彼女の独断ではないでしょうね。キャサリン様の命令で動いているというのも違う気がします。だって、キャサリン様は三年前も私に階段から引き摺り下ろされてしまうような少し間抜けなところがありましたし、そんな度胸はないでしょうから」
「じゃあ、誰なんだよ? 家政婦長を操れる人間」
苛立ちを隠さないイヴの質問に、レリアは鋭い眼差しを送る。
「……今はまだ犯人を追い詰めるべきではありません。きっと、王太子選に関わることですから、この情報はウィリアム様を守ることに役立てるべきです。この件は他言無用。いいですか?」
「わかった。従うよ」
「ありがとうございます」
不満そうなイヴとマリアンヌに向け、レリアは冷静に応じるのだった。
その日の夜。表向き、レリアは高熱を出して自室に閉じこもっていた。枕元に小さな灯りが燈る中、ベッドに横たわる。
開け放たれたままの窓越しに夜の空気を見つめていると、コンコンと扉が叩かれた。護衛チームのメンバーとは違う気配に、レリアは僅かに緊張する。
「……はい?」
「俺だ。高熱で臥せっていると聞いた。入っていいか? 使用人も一緒だ」
「!」
ウィリアムが尋ねて来たことを知り、レリアはベッドの上に起き上がった。
こんな展開ですがおしらせです。
本作の書籍化とコミカライズが決定しました……!
いつも読みにきてくださる皆様、ありがとうございます!
ウィリアムの度肝を抜いていくレリアと、頭をかかえるウィリアムをコミカライズで読めると思うと、本当に私がうれしいです。
物語はまだまだ続きますので、ぜひ引き続き応援していただけますように……!
お祝いに☆☆☆☆☆から評価押していただけると喜びます!




