旦那様に仕掛けられた罠 10
当時気づかなかった新事実に、レリアは目を見張る。そこには、隠し部屋を埋め尽くすような大きさの機械があったのだった。
「……これは」
驚きがこもったウィリアムの言葉に、調査官は厳しい言葉で応じた。
「魔力で作動する印刷機でしょう。いち個人が保管する魔法機械の範疇を超えた、大変に難しい機械です。きっと、印刷して作られるものも精巧で精緻に仕上がるに違いない。そう――偽札なんかも簡単に作れてしまいますね」
(あの偽造紙幣がどこから来たものなのかずっと不思議でしたが、ほかにも隠し部屋があって、そこで造られていたのですね……!)
あの後すぐに離縁されることになっていなければ、レリアはこの納屋を再調査していたはずだ。
そうすれば、この機械の存在に気付いていたことだろう。けれど今となってはどうしようもないことだった。
一方、状況をすぐに飲み込んだウィリアムは、意外にも動じることはなかった。
「なるほど。隠し部屋も、この機械も、どちらも存在を知らなかったことは、この家の当主として恥ずべきことに変わりはない。エルランジェ公爵家の実情を適切に把握できていなかったという件に関しては認めよう。君のお手柄だ」
「では……」
調査官は、この場で作成したらしい調査記録にサインをするように求めてくる。調査官として、王太子選に関わる任務を拝命し、目覚ましい成果を上げることは出世に直結する。彼の表情からは誇らしさが滲んで見えた。
しかし、ウィリアムは腕組みをして笑うのだった。
「この、大変に素晴らしい技術によって作られた魔法機械の何が問題なんだ? 精巧で精緻な印刷物ができることで、何か国にとって都合が悪いことが起きるのか?」
「! いや……しかし」
勝ち誇っていた調査官は、鳩が豆鉄砲で打たれたようにぽかんと口を開けている。しかしウィリアムはそんなことは気にも留めていない様子で続けた。
「貴殿がたは、我が家がこの機械を使ってよからぬもの――法に反する印刷物を作っていたとお疑いなのだろう。確かに、隠し部屋に収納されていたことを考えればそう思いこんでしまうのは無理もないだろう」
「ならば」
「だが、証拠は? 偽札云々はそちらの推測に過ぎない。推測を超える証拠はあるのか?」
間髪入れずに問いかけられた調査官は言葉に詰まる。
「そ、それは」
「王太子選は国の未来を左右する大切な選挙だ。ゴシップ記事ならば、いくらでも甘んじて受け入れるが、状況的な証拠や憶測だけで法律に反していると断定されては困るな」
「……っ」
ウィリアムが言わんとすることはもっともだ。エルランジェ公爵家を発端として偽造紙幣が流通しているという話は聞いたこともない。
ただ、謎の印刷機があっただけで犯罪まがいの印刷物――この場合は偽札、を作っているとするのはどう考えてもおかしいことだろう。
矛盾点や調査の曖昧さを指摘された調査官は、悔しそうに唇を噛み睨んでくる。
「……わかりました。今回はそういうことにしておきましょう。ですが、他の調査ではそうは行きませんから」
「ああ、何が出ているのか期待している」
ウィリアムが余裕で応じると、調査官たちは皆、悔しそうにして納屋を後にしたのだった。




