旦那様に仕掛けられた罠 9
しかし、レリアが納屋を再調査することはなかった。
なぜなら、その数日後に、キャサリンとともに階段から落ち、離縁を言い渡されたからである。
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当時の回想を終えたレリアは、三年前と変わらない『納屋』を前に遠い目をする。
(あの時、私はなぜあんなに怒って悪人にきつく当たってしまったのでしょうか)
彼の振る舞いや、人への責任の押し付け方、薄情さが実家の面々と重なって見えて、ひどく嫌悪したことは認める。けれど、きっとあれは王国庁に報告すべき事案だった。それなのに、報告もせず勝手に制裁を加えてしまった。
完全に冷静さを欠いた行動を思い出して、苦々しい気持ちになる。
(もしかして、ウィリアム様が言われているような悪人ではないと実感したせいもあるかもしれませんね)
当時、レリアは早期から上層部に『エルランジェ公爵家は中身からめちゃくちゃに壊してボロボロにしないといけないような家ではない』と報告していた。
しかし当然、一諜報員に過ぎないレリアの見解が受け入れられることはなかった。任務は全て王国庁の決定によるもの。
現場にいるレリアの意見など、何の力も持たない。
(ウィリアム様は、間違いなく素晴らしい人で、王太子候補に相応しい方です。そのジレンマが、あの時私に謎の行動をさせたのかもしれません……)
そんなことを考えていると、目の前に覚えのある部屋が広がった。レリアはぼうっとしたまま、納屋の内部へと案内されたらしい。
「埃っぽいですね……」
「父が死んでから、誰も出入りしていない場所だ。最近急に目につくようになって、そろそろ整理をしないといけないとは思っていた」
「ですよね」
三年前にエルランジェ公爵家を追い出される直前、レリアはこの納屋に結界を張っていた。建物自体を見えなくする魔法ではなく、そこからなんとなく人の意識を逸らすタイプの結界だったため、今日までウィリアムが踏み込むことなく来てしまった。
しかし、魔法は三年間も継続し続けるものではない。少し前に効力は切れていたとのだと、ウィリアムの発言から理解する。
そんなことを考えていると、ウィリアムはハンカチを取り出して渡してくれた。さりげない気遣いが本当に紳士だ。彼に執着するキャサリンの気持ちがわかる……ことはないが、この完璧さには敬意を表したくなる。
話を戻すと、納屋の入り口を入ってすぐの場所には、記憶と同じ書類に埋もれたエントランスと階段があった。
記憶と違うのは、現在進行形で王国庁の調査官たちが書類を外へと運び出しているということだ。
「これらの書類は?」
「父が個人的に関わっていた事業に関するものだろう。俺が相続したのはエルランジェ公爵家の家督であって、父個人の事業については限定的に相続を放棄したから、何が出てきても問題ない」
「なるほど。さすがですね」
そんな会話をしていると、レリアたちを先導していた王国庁の若い男は振り返ると意地悪い笑みを見せた。
「この先に出てくるものを見ても、そんな呑気な会話ができるでしょうかね? どうぞこちらです」
そうして、三年前にレリアが侵入した書斎部分へと案内する。
(こちらも、あれから変わった様子がないですね)
記憶と同じように、空きが目立つ書架の真ん中に扉があった。記憶と違うのは、隠し部屋の扉が開け放たれ、中が丸見えだということだ。
けれど、そこにはトランクケースの山はない。全て、三年前にレリアが処分してしまったからだ。
「隠し部屋があるのはわかりました。ですが、それの何が問題なのでしょうか?」
冷静なレリアの問いかけに、王国庁の若い調査官は薄い笑みを見せる。
「この先の部屋には、不思議な魔法機械が隠されていました。何かを印刷して大量生産するような……大変興味深い機械なんですよ」
「えっ?」
その言葉とともに、隠し部屋のさらに奥の扉が開く。
(まさか、さらに奥にも部屋があったのですか……!)




