旦那様に仕掛けられた罠 3
「レリア?」
ウィリアムに声をかけられて、ハッとした。気がつくと調査官が目の前に来て、こちらを値踏みするように見ている。
レリアより少し年上程度に見える、王国庁勤めのエリートとしては若いこの男とは初対面だ。彼は三年前のレリアに課せられた任務の詳細をどれぐらい知っているのだろうか。
(最近配属された方でしょうか。この振る舞いから推測すると、過去の記録は書類でしか知らない方のようですね)
そんなことを考えていると、男はウィリアムに問いかける。
「こちらは、レリア・アルトワ? 王国庁の傘下組織から派遣された護衛担当の」
「ああ。最近運命的な再会をして、再婚することにした」
「……そうでしたか」
調査官の、ウィリアムの言葉を全く信じていない声音に背筋がぴんと伸びた。
彼が、レリアが三年前にここで『馬鹿を演じて家をめちゃくちゃにする』という任務を担当していたことを知っていれば、この再婚を虚偽と見るのは当然だろう。
(今度は私が王太子選をサポートする側に回り、戦略のためにウィリアム様に手を貸していると思うのは当たり前のことです)
これは仕方がない。任務の一部と割り切ってやるしかないようだ。
かつて完璧な馬鹿を演じていたレリアは、今度は完璧な『再婚相手』になりきるため、健気に微笑んだ。そうして、ウィリアムの右腕を軽く掴み、夫を見上げる。
「私たちの再婚話がこんなところまで回っているのですね。どこまでお話しすれば良いのでしょうか。やっぱり、馬鹿すぎる妻をあなたが忘れられなかったところから? それとも、私の能力の凄さに驚かれたところ? もしくはギャップにクラッときたとか?」
「……嘘が一つもないな……」
「えっ」
適当に合わせてくれればよかったのに、ウィリアムは呆れながら苦笑している。嘘が一つもないのだから、ギャップにクラッときたところまで含まれるのか。
いや違う、嘘が一つもないというところまで含めて、目の前の調査官を欺くための嘘なのだろう。けれど、ウィリアムの声音があまりにもそれっぽかったせいで、レリアはうっかり赤面した。
その反応が逆にリアルに見えたのか、王国庁の調査官は目を泳がせて黙る。一方のウィリアムは、相手をこちらのペースに持ち込めたと判断し水を向けるのだった。
「それで、何か見つかったのか?」
「あっ……ええ。隠し部屋が見つかりました」
「は?」
調査官の言葉があまりにも予想外だったらしいウィリアムは眉間に皺を寄せる。しかし若い調査官は得意げに続けた。
「こちらの納屋の奥に隠し扉があり、その奥に興味深いものが置かれていたんですよ。エルランジェ公爵にもぜひ確認していただきたい」
「隠し部屋? そんなものは知らないが」
「ははは。嘘がお上手ですね。本当に知らなかったとは言わせませんよ?」
知らない情報に困惑するウィリアムに対し、調査官は詰め寄ってから身を翻して進路を開け、手で入口をさし示し中へ入るように指示してくる。
けれど、ウィリアムは『隠し部屋』が何のことか本気でわからないようだ。しぶしぶ従いながらも、戸惑いを隠せない様子が伝わってくる。それを見て、レリアは回想するのだった。
(ウィリアム様が気づかないのは当然です。だって私も三年前にあの部屋を見つけたのは偶然でしたから……!)




