24.元旦那様と再婚ですか……? 2
思わず顔を上げたレリアの視界に、真っ青な顔をしたウィリアムが飛び込んできた。
焦って青いわけではない。怒りが頂点に達した結果、全身に怒りが回って冷たい空気をまとい、そのせいで青く見えるのだろう。こんな状態の人間を見ることはあまりないのだが、念のため確認するべきだろう。
「ウィリアム様、パパになられるのですか?」
「どう考えても違うだろう」
「すみません。早合点でしたか」
「残念そうに言うな」
一方、爆弾発言をしたキャサリンは、レリアとウィリアムが思いのほか打ち解けた様子なのを見て、表情を歪めた。
「私は子供を身ごもっているというのに、ウィリアム様は正式な結婚の申し込みをしてくださらないし、それどころか元妻を家の中に迎え入れるなんて、一体何をお考えなのですか……⁉︎」
頬を膨らませたキャサリンの瞳には涙が浮かんでいる。けれどこれは嘘泣きだ、組織で訓練を受けたレリアにはわかる。嘘泣きの涙にはノーダメージのレリアは、ウィリアムに囁く。
「このように言われていますけれど」
「全部嘘だ。君も本当に馬鹿ではなかったのなら、これくらい見抜けるだろう?」
「馬鹿ではない、をまだ信頼しきれていないと仰っていませんでしたっけ……?」
「この嘘を見抜けないのは、群を抜いた馬鹿だけだ」
(なるほど。ウィリアム様は家政婦長を『群を抜いた馬鹿』と仰るのですね)
ウィリアムの言葉に、レリアはエルランジェ公爵家の内部が本当にぼろぼろになっているのを察した。しかも、三年前のレリアの振る舞いとは全く関係なさそうなところが大問題だ。
この部屋に同席している者は、レリアたち以外全員がキャサリンを信じているように見える。ウィリアムが強い言葉でそれを非難できないのもまた、この奇妙な状況をそのまま伝えていた。
キャサリンはレリアに詰め寄ってくる。
「二人で何をこそこそお話しされているのかしら?」
「ええと、お祝いのお話です。それと、信頼と馬鹿の話も少々」
「はぁ⁉︎ そんなのはいいから、早くこの家から出ていってよ!」
金切り声を上げるキャサリンに対し、ウィリアムは怒りを抑えた声音で問いかける。
「キャサリン。君が身ごもっているというのは本当か? それは誰の子だ?」
「何を言っているの。本当だし、ウィリアムの子に決まっているじゃないの」
「身に覚えがないのは君もわかっているだろう?……それに、お父上も承知しての発言か?」
「……」
怒気を含んだウィリアムの返答に、キャサリンが一瞬うっとなったのが伝わる。遠回しな否の反応に、祝福ムードが漂いかけていたサロンの空気の中に戸惑いが混ざる。
けれど、キャサリンはすぐに持ち直し、ヒステリックな声をあげた。
「お父様だって、ウィリアムの王太子選を応援したいはずですわ。ねえ、だってそうでしょう? 孫の父親が将来国の主になるなんてとんでもない名誉だもの!」
「この国の法律では、王太子選の候補者に婚外子がいた場合、その子供は一切の権利を持てないことになる。ガルシア侯がそれを承知するとは思えないが」
「……! だ、だから私と早く結婚を」
目を泳がせるキャサリンに向けて、ウィリアムは冷静に告げるのだった。
「それは、王太子選の期間中に身ごもった場合も含まれる。後から結婚したとしても、腹の中の子は婚外子のままだ」
「え……?」
キャサリンは目を丸くする。レリアを助けようとそばに立っていたマリアンヌがこそこそと問いかけてくる。
「レリア、そうなの?」
「ありますね、そんな法律。普通なら、子供の権利が優先されて当然ですが、王太子選が絡むといろいろ面倒になりますから。結果次第で貴族の勢力図がガラリと変わることもあります。そこを利用されないようにしているのでしょう」
おそらく、キャサリンはエルランジェ公爵家に入り込むためこんなことを言い出したのだが、まさかこんな法律があると知らなかったのだろう。レリアは周囲の様子を伺いながら小声で付け加えた。
「本当に妊娠されていれば、の話ですけれどね」




