20.元旦那様との作戦会議 1
夫の愛人の動向を問うレリアに、マリアンヌが頷く。
「ええ。ウィリアム様に縁談を断られた後も、誰かと結婚することはなくガルシア家にいるみたい。詳しく知りたいのなら、イヴに調査してもらったほうがいいと思うけど」
「そうですか。キャサリン様のお父様、ガルシア侯は国軍のトップだったなと思いまして。それでいて、エルランジェ公爵家とは密な関係にあります。……そうですね、やっぱりイヴに後で頼んだほうがよさそうです」
レリアはそう言いながら、マリアンヌの魔力で巻き上げられた後で床に落ちた枯葉を拾い上げる。窓を開け、それを捨てた。枯葉はひらひらと風にのって飛んでいく。
ため息をついて、レリアは冷めた笑みを浮かべるのだった。
「この屋敷の皆様のお気持ちは理解します。ですが――王太子選の護衛を妨害することがどういうことなのか。当主の意思に背いているというのがどれだけ罪深いことなのか。そのどちらも、ご存じないのかもしれないですね」
その後、呼び出しを受けた掃除メイドたちによってレリアの部屋はきれいに片付けられた。皆が顔を蒼くして手早く作業してくれたが、その中で一人だけ不満そうな者がいた。
(なるほど。この方は、上級使用人でメイドたちを管理する立場の家政婦長ですね。彼女が独断で行動しても、誰も何も言えません)
恐らく、レリアの部屋はこの家政婦長の嫌がらせによって荒らされたのだろう。打ち合わせのためにレリアの部屋にやってきたイヴが、その様子を見て怒りを露わにしたものの、レリアはこれも止めた。
(もし、動機が王太子選に関わることだったら、安易に動かないほうがいいですから)
部屋がまともな状態になると、今後の打ち合わせのために全員がレリアの部屋に集まる。そのうえ、この家の主人までやってきた。
「ウィリアム様」
「入ってもいいか」
「もちろんです」
レリアは微笑んで立ち上がり、現時点での主君である彼に自分の椅子を譲ろうとする。しかし、ウィリアムはそれを手で押し留めると、自分は出窓に寄りかかった。
あたりまえに席を女性に譲るという紳士らしい振る舞いに、じっと見ていたマリアンヌが目を丸くしたのがわかる。けれど、ウィリアムにとっては当たり前のことで、そんな空気を気にも止めない様子だった。
「昨日は遠路はるばる、ご苦労だった」
「お言葉、痛み入ります」
レリアが上品に微笑んで応じれば、ウィリアムは目を瞠った後で、こめかみを押さえる。
「やはり……あれは夢じゃなかったのか」
「え?」
思わず聞き返したレリアに、ウィリアムは苦々しい表情で続けるのだった。
「なぜそんなにきちんとした言葉遣いをしているんだ……」
「? 何をおっしゃっているんですか? 当たり前のことですけれど? 私はれっきとした社会人ですし」
「……『れっきとした社会人』、君の口から出ているとは信じられない言葉が……」
どうやら、ウィリアムは馬鹿すぎた元妻と目の前のレリアの狭間で混乱しているらしい。申し訳ないと思いつつ、ここはもう現実を受け入れてもらうしかない。
「私は三年前からずっとまともです。心中お察ししますが、どうか気持ちの切り替えを頑張ってくださいね」
「誰のせいだと思っているんだ。しかもあのおかしさは常識の範囲を大きく超えていたぞ?」
「それも組織の戦略の一つでして」
「確かに。ありえないことばかり起きすぎたせいで、君を間諜だと疑い調べることはしなかったな……っ、三年前のことを思い出して、頭が痛くなってきた」
「心中お察しします」
「察さんでいい」
本気で狼狽する元夫に心底同情すれば、その背後でイヴとマリアンヌが顔を見合わせて吹き出しているのが見える。
「レリアってそういうとこ、あるよな」
イヴが笑いながら溢した言葉で、ウィリアムはさらに頭を抱えたようだった。
「やっぱり馬鹿なんじゃないか……?」
「違います」
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レリア
もともとの図太さを発揮しつつあります。
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