17.三年前の真実 3
ウィリアム視点はこの回までです。
◇
三年前の回想を終えたウィリアムは感慨深げに口をひらく。
「三年前、確かに抜けていて教養が身についていないとは思っていた。あまりにも突飛な言動ばかりするので、間諜ではと一瞬疑ったこともある」
「実際に間諜だったんですねぇ。ははは」
ピエリックの笑いが、全然笑えない。
「確かに、あの頃は急死した父の悪政の名残があった頃だ。七大公爵家でありながら国への忠誠心は低く、二心ありと見られても仕方がなかった。当時の国王陛下が未来の王太子選に備え、悪名高いうちの力を削ごうとしてもおかしくない」
正直、当時のエルランジェ公爵家がまともではなかったことは認める。当時の国王が組織を使って潰そうとしたのも理解できてしまうほどに。
しかし、仮にそうだとしても、誰もが解せぬ問題が浮上するのだ。ウィリアムはそもそもの疑問を口にした。
「だが、馬鹿を演じて内部からめちゃくちゃにする? ……王国庁傘下の特殊組織とはそんな生ぬるい作戦を立てるものなのか……?」
「というか、レリア様の特性や魅力を活かした、彼女にぴったりの作戦を考えたのでしょう。さすがですよ」
ニコニコと目尻に皺を刻むピエリックは、若い頃に件の組織のエースだったらしい。引退後に幼いウィリアムの護衛兼侍従として雇われ、それからずっと一緒にいて今では公爵家の家令としても務めてくれている。
ピエリックは、数十年前はさぞかし有能だったのだろうと思わせる風貌で上品な笑みを浮かべた。
「今回『王太子選の護衛』という、最重要任務のチーフに彼女を選出したのも、きっとなにか狙いがあってのことでしょうな。単純に、能力が高いだけでは上官にはなれませんからねぇ」
「それな……」
「私は同行いたしませんでしたが、ユノ荒野でのレリア様のお仕事っぷりは見事だったのでしょう?」
「ああ、それはもう。あらゆるものを凌駕する力だ。明言は避けていたが、間違いなく彼女は祝福持ちだ」
思わず正直な感想を口にすると、ウィリアムの元妻がお気に入りらしいピエリックは、満足そうに笑うのだった。
「それはそれは。爺は、これからの坊ちゃんとレリア様が楽しみですな」
「だが、彼女の立場は一応は理解するが、普通、馬鹿のふりをしろといわれて、あそこまでやる馬鹿はいないぞ?」
「わはははは。私はあのお嬢さんのそんなところが気に入ったんですよ、坊ちゃん」
上機嫌に笑っている侍従を見ても、特にウィリアムは怒る気にはなれなかった。正直、その気持ちがわからなくもないからである。
それをとっくに見抜いている侍従は、ウィリアムの肩を叩くばかりだ。
「うち以外でユノ荒野に接しているのは、ドラード伯爵領です。当の伯爵家からは何のお礼文も届いていませんが、近くに領地を持つ家々からは感謝の手紙が届いていますね。どの家も元々は別派閥の家です。王太子選の投票時にはきっと、心強い追い風になりましょう」
「……」
彼の言葉は現在の状況そのままだ。怪我の功名、邪神を討伐したことで、エルランジェ公爵家を支持する家が増え、王太子選に有利になることを示していた。
たった一晩でこれなのだ。数日もすれば、間違いなく手紙の数はさらに増えるだろう。
そして、一ヶ月が経った頃には、邪神からの危機を救った英雄としてウィリアムの名前が広がるに違いなかった。正直、英雄は言い過ぎだとは思う。しかし、噂とは誇張されて広まるものだ。
偶然とはいえ、ウィリアムに追い風が吹くことになる。
(あの頃は疫病神扱いの彼女だったが……完全に別人……でいいのか?)
さっき、必死に謝りながら『当時は上からの命令通り、馬鹿な妻を演じてエルランジェ公爵家をめちゃくちゃにしましたが、今回はウィリアム様をお守りする方向に方針転換を……』と言っていたレリアの姿を思いながら、ウィリアムはため息をつく。
王国庁傘下の専門組織に所属し、上官でもある彼女がそんなやわな女ではないというのはわかっている。
けれどウィリアムの脳裏からはどうしても、三年前のレリアが涙を拭う姿と、いつも浮かべていた無邪気な笑顔が離れない。
(三年前、表向きは彼女をこの家から追い出すことになったが、秘密裏に面倒を見るつもりでいた。だが、彼女は忽然と消え、そのまま行方知れずになった。心配していたが……無事でよかった)
こめかみを押さえるウィリアムに、ピエリックは穏やかな笑顔で問いかけるのだった。
「レリア様のこととユノ荒野のこと。両方とも、ウィリアム様は本当にご存じなかったのですよねえ?」
「――もちろんだ。俺にはすべての結末しかわからない」
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ピエリック
人が良さそう&上品な爺。背が高くて背筋も伸びているイケオジ。
ウィリアムは彼に子供の頃のいろんな情報を握られていて頭があがらない。
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次からもとのレリア視点に戻ります。
明日のお昼の12時更新予定です!




