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第二話 交渉

「さあ、始めようとしよう。」

「交渉の時だ。貴様らの命全てを賭けてな。」

【プロローグ - 超常的存在に抗う勇気を】


 誰だ?どうやって私たちの上にやってきた?

 確かに私たちは会話で緩んでいたように見えるかもしれないが、私は背後の不意にも対応できるくらい警戒していた。というか神経が自動的にそこまで研ぎ澄まされていた。なのに、上からやってきた存在に気づけなかった。

 上を見上げたとしても、声の主を観測できない。まるで莫大な影という存在が語り掛けているかのようだ。

「……誰だ?」

「ほう。我と対話を試みるか。面白い。普通の人間ならば恐怖のあまり動かなくなるのにな。」

「……まあよい。名乗ってやろう。絶望して騒ぎ立てるんじゃないぞ?天命より授かりし我の名は"ナイアルラトホテップ"だ。貴様らのような脆弱な人間共でも、我の名程度なら聞いたことはあるだろう。」

 一瞬、理解できなかった。

「は……?」

 やっと処理を終えたとき、私は心の底から後悔した。

 ナイアルラトホテップ。クトゥルフ神話に登場する神の一柱。最悪の邪神。

 なぜ、神話上の神がいる?

 なぜ?

「(小声で)……やばくね?」

「(小声で)…………やばいどころの騒ぎじゃねえよ」

「何をコソコソと話しているかは知らんが、交渉を受けないのか?まあ、それならこの人間を殺すだけだ。」

 そういってナイアルは上から鎖に吊るされた瑠華を下ろしてきた。皮膚の色は生気があるように見えたが、意識はなさそうだった。


【第一節 - 交渉という名の絶望が】

 「…………わかった、交渉を聞こう。要件はなんだ?」

 ひとまず内容を聞いてみないと何事も始まらない。

 だが、瑠華という人質……まともじゃない交渉なのは確かだ。

 どうにかして平和的解決は見込めないものか……

「我の望むことは三つだ。」

「一つ。貴様らのどちらかがここに残ること。」

「一つ。この世界の一連のことを忘れること。」

「一つ。我が退屈しない程度の戦争(ゆうぎ)を今!ここですること。」

「よく考えろ。交渉を呑むのか、呑まないのか。尤も、貴様らに選択権があればの話だな。」

「……は?」 / 「くッ……!」

 最悪だ。最悪を引いた!

 要するに両方死ねということ!しかも呑まなければ瑠華も死ぬ欲張りセットってか!?

 くそッ……さっきまで平和的解決とか言ってた自分を殴りたい気分だ……

「……ふッ」

 上を見上げていると、顔なんて見えないのに、なぜかナイアルが笑っている気がした。こいつ……命を弄びやがって……

 まあ邪神だもんな、当然っちゃ当然か……

「…………それは、何故だ?」

 一応問うてみる。返ってくるかなんてわからないけど。

「理由?そうだな……」

「気分だ。」

「……は?」

「……まじで言ってんのかよナイア…………」

 途中から声は聞こえなかった。腸が煮えくり返りそうな気分だった。

 邪神に正当な理由を求めた私が間違いだった。そうは思っているが、命を気分のためだけに捨てさせるのが、どうしても許せなかった。

「てんめぇ……命を何だと思ってやがる…………」

「なんだ?我に説教のつもりか?」

「そんなことより交渉を呑むかを考えるべきではない……」

「一回黙ってろ……」

「ちょッ宵宮さんッ……!」

「ナイアルラトホテップ様よォ、さっき遊戯をしろっていってたなァ?」

「交渉…………呑んでやるよ。」

「だが……まずは三つ目だ。ソのお前ノネじ曲ガった感性デモ感ジラれルよウニ楽しマセテやル……」

「ナイアルラトホテップ。」

「えッ……宵宮さんッ、何勝手に決めててッ……」

「ごめん燎。だが、こうでもしないと……」

「こノ行き場ノナイ怒リで死ンジマいソウダ…………」

「……フハッ」

「そうかそうか、受け入れるか!」

「ならば望み通りやってやろう!」

 そうしてナイアルは"夜に吠えるもの"に化けて、()()()の前に現れた。

「力の差というのを見せてやるぞ!哀れな愚民ども!」

「ヤァっト姿見せタナぁ……ナイアル。」


【第二節 - 生存と正義のせめぎ合い】

 一発……拳を叩き込んでみる。

 俺は素早くナイアルの後ろに回り、拳を構えた。

「遅い。」

 そして拳を振りかざしたときにはもうナイアルはその場におらず、俺の後ろに回り込んでいた。

「……ア゙?」

「≪電蝕≫」

 ナイアルが謎の言葉をいった途端、体に激痛が走った。

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ゙っ゙!!!!!!!!」

 周りにも同じようなものが落ちたことでわかった。俺の身体に黒い雷が落ちたのだ。

「ぐッ……!?」

 加えてその場に立てなくなった。謎の苦しさが体を走った。

「威勢だけがよくても、やはりその程度か。」

「そこで呪いに蝕まれて野垂れ死ぬがよい。」

「よッ……宵み………………」

 聞こえてくる音も小さくなっていた。初めて"死"を覚悟した。

 こうなるなら、あの八面体に触れなければよかった。

 こうなるなら、あそこで理性を失わなければよかった。

 俺はもう死んじまうのかな。ごめん、燎。ごめん、みんな……


 ……


 死なない?

 いつまでも意識が保っていられる。それどころか、体を走っていた呪いも消えたような……

 どういうことだ?

 でも好都合だ!これなら、ナイアルが発動する呪いすべてを消し去って闘うことができる!

「くそッ!」

「逃げてばかりではつまらないなぁ!もっと本気を出したらどうだ!」

「本当にな」

「え?」 / 「は?」

 ()が一発入れた不意打ちはさすがにナイアルも回避できずにあたっていた。

「呪いが消えている?」

「興味深いな!どうやって消した?」

「よ、宵宮さん……」

「大丈夫だ。私もなんで呪いが消えたのかは知らんが、こうしてピンピン生きてる。」

「貴様らには少々本気を出すべきかな!」

「≪転裏≫」

 この呪術とするを食らった瞬間、体が宙に浮いた。というか重力が逆転したみたいな……

「浮いてる浮いてる!?!?」

「待ってどうなってんのこれ!?」

「高所から落ちて潰れるがいい!」

 ナイアルがそういった瞬間、急に重力の向きが戻った。

 まずい!ここはかなりの高さがある!軽く見積もって7㎞!

 このまま落ちたら死んじまう……こんどこそ死ぬ!

 どうにか生き残る方法生き残る方法……!

 その瞬間、下の空間が裂けた。

 理解する時間もなく、一瞬でそこに飲み込まれた。

 周りは宇宙みたいな空間だった。どうしてこんなところに……

 数秒して、訳が分からないまま外に投げ出されたと思うと、落下の衝撃が消えて着地できていた。

「……ッチ、まだ空間が馴染んでいないのか……」

「まあよい。なら物量で潰そう。」

 そういった瞬間、今度は詠唱なしで大量の弾幕がこちらに向かってきた。それと同時に逃がさないためなのかは知らんが、ナイアルが空に浮いた。何でもありかよクソッ……

「まずい避けろ燎!」

「わかってるわ!」

 幸い物量でゴリ押されているだけなので追尾性能があるわけではないのだが、当たったら死ぬということだけは実感できた。地面に弾幕が当たった瞬間、その部分にノイズが生まれていた。

 おそらく触れたら存在すら消えちまうだろう。

 そうして私たちの攻撃ターンは終わり、防御戦が長く続くこととなった。



 何分か経過したが、一向に攻撃はやまない。

 しかも、避けるためにずっと走ってたので疲れてきた。もう脚が動いているのが奇跡と思える程度には体が限界を迎えていた。

 燎の方を見てみると、なぜか下を向いて、構えている雰囲気だった。秘策でもあったのか?

「逃げてばかりではつまらんな。もういい、ここで死ね。」

「≪黒虚廃汚(こっきょはいお)≫」

 ナイアルが放った弾幕は膨張し続けてこちらに向かってきており、今の私に回避ができるか不安だった。

 しかし、燎が動こうとしない。

「おい燎!はやく避けねえ――」

「≪esplosione≫」

 私が燎を引っ張ろうとしたとき、燎が突然喋った。その刹那、ナイアルの弾幕が爆発してその破片が明後日の方向に飛んでいき、私たちに当たらなかった。

「!?」

 しかし、燎が突然前を向いたかと思うと、急に驚いた表情をした。

「おい燎……なんださっきの?」

「私もわからん……突然、頭の中にさっきの言葉が響いたと思ったら気付いたらこうなってた」

「………………?」

 訳が分からん……まじで何が起こってんだ?

 すると、ナイアルが突然攻撃をやめ、空から降りてきた。

「ふむ……?能力……ユガンスクの野郎が何かしやがったか?」

 それを聞いても理解が追い付かなかった。


【第三節 - 宣戦布告】

「面白い!あやつ、まだ我を止められる気でいるのか!世界を滅ぼしたのかが誰か忘れたようだな!」

 何言ってんだこいつ……ユガンスクってなんだよ、それに世界を滅ぼしたとは……?

「今回はこれで終わりとしてやろう。貴様ら二人がその能力を使い熟した後を見てみたい!」

「だが……忘れておくなよ。我はいつでも貴様らを殺せる。せいぜい藻掻くことだ。運命という大きな渦から。」

 そうしてナイアルは瞬き一つの間に消えてしまった。

「でもこれって……」

「私らの勝ち……?」

 私たちはナイアルの猛攻から生存することができた。もう走れる体力なんで残ってないけど……

「とりあえず瑠華を解放してここからでよう、話はそれからだな。」

「おっけー」

 そうして瑠華のもとに行き、燎の爆破で鎖を断ち切り、瑠華をキャッチして起こした。

「おーい瑠華ー」

「…………あれ?確か愛海ちゃんが…………」

「起きたか」

 そうして、愛海にしたように今までの状況を説明した。

 もちろん、瑠華は理解が追い付いていない様子だった。なんなら頭パンクしてそうだった。

 私たちにも理解できてないから当然っちゃあ当然だが……

「まあとりあえずここから出よう!」

「……?あぁあ?うん」

「お二人さーん、なんかまた新しい八面体があったで」

「まじで?」


【最終節 - 合流】

 そうして燎の案内に従って進んでいくと、言った通りに八面体があった。

 しかし、それは緑色だった。

「これなんなん?」

「あー、転送する物体的な?私らがここに来たのもこれに触れたからやし」

「行くぞー」

「まあ触れろ瑠華!」

「え?」

 そうして瑠華を(半ば無理矢理に)八面体に触れさせた。

「な、なんこれ気持ち悪ッ!」

「ああそりゃそうか…………」

 その後に私も触れて、また新しい世界へと向かった。


 目が覚めたら、また同様にX,Y,Z軸がある世界ではあったのだが、まあ全体的に緑がかっていた。

「あれ……なんかロボットない?」

「え?」 / 「え?」

 燎の指す方を見ると、たしかにロボットのようなものがあった。にしてもなんかATMみたいな形してんなあ…………

 それで私たちはロボットの方に歩いて行った。走りたいのは走りたいが、もう脚がパンパンなんでね、無理だよ

 その途中、何か大きな音がしたと思って振り返ってみると、そこには悠月、愛海、円花がいた。

「うおっ!?」

「わっ!」

「ほい」

「おお来たかお前ら」

 次回!第四話「覚醒」!

 乞うご期待!

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