表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/44

第40話 帝都奪還。エルゼ、新たな帝国の「影の支配者」へ

「……眩しい。……これが、お姉様の作り出した『新しい計算せかい』なの?」


 地下プラントから地上へと繋がる大階段。

 膝を突き、うわ言のように呟くソフィアの横を、私はゲルハルト閣下と肩を並べて通り過ぎた。

 

 見上げた帝都の空には、夜明けの光を飲み込むほど巨大な黄金の文字が、毅然として浮かび続けている。

『SYSTEM STATUS:STANDBY. ADMINISTRATOR:ELIZE.』

 それは、この大陸のどんな法典よりも、どんな聖典よりも重い、絶対的な支配の証明。


「……閣下。……皆様、驚いていらっしゃるようですわね」


 広場に踏み出すと、そこには数万の市民、そして武装を解除した帝国兵たちが、波打つように跪いていた。

 中央には、皇帝オーギュストと、皇太后エリザベート。

 帝国の頂点に立つ者たちが、一人の「辺境伯夫人」を前にして、言葉を失い立ち尽くしている。


「……エルゼ・フォン・ザイフリート。……いや、世界の管理者よ」


 皇帝オーギュストが、その重厚な剣を足元に置き、深く頭を垂れた。

「貴様がその気になれば、この国を……いや、人類を消し去ることもできるというのか」


 私は、ゲルハルトの差し出した手を借りて、広場の一段高い演壇へと登った。

 首筋のバーコードは消えたが、私の瞳には、世界を構成するナノマシンの流動が、美しい数式となって流れ続けている。


「……陛下。……大きな勘違いをしていらっしゃいますわ」


 私は、扇をパチンと閉じ、帝都の全住民に響き渡る声で告げた。


「私は神でも、破壊者でもありません。……ただの、非常に執念深い『帳簿係』ですわよ」


 静まり返る広場に、私の冷徹な、けれど透き通った声が響く。


「神の奇跡と称されたあの大穴も、崩れた壁も、すべては『管理ミス』による損失に過ぎません。……。私はこれから、この帝都の全リソースを再編し、損失を黒字へと転換させます。……。文句がある方は、私ではなく、この世界の物理法則システムに直接仰ってくださいまし」


 私は、指先で空をなぞった。

 刹那、天から黄金の光の粒子が降り注ぎ、戦火で崩れた建物や、傷ついた人々を優しく包み込んだ。

 ナノマシンによる超高速の修復と治療。

 魔法を超越した「技術」の輝きが、絶望に沈んでいた帝都を一瞬にして「黄金の楽園」へと変貌させていく。


「……。これが、お前のやり方か、エルゼ」


 ゲルハルトが、私の隣で満足げに口角を上げた。

 彼の纏う鉄の匂いが、システムの冷たい光の中で、私に「人間としての誇り」を思い出させてくれる。


「ええ。……。壊すよりも、直して働かせる方が、ずっと利益が出ますもの」


 私は、呆然とする皇帝と皇太后に向き直った。


「陛下。……レガリア帝国は、本日よりザイフリート領の『特別提携国』として、私の管理下に置かせていただきます。……。王都ラ・ヴァリエールと同様、貴方たちの『贅沢』は、すべて私の帳簿を通さねば認められません。……。よろしいかしら?」


「……。断る権利など、端からないのだろう?」


 オーギュストは苦笑し、皇太后エリザベートは、私の中に眠る「古代の遺志」を認め、満足げに目を細めた。

 

 帝都奪還。

 それは武力による制圧ではなく、世界の「ルール」そのものを買い叩くことで成し遂げられた、史上空前のM&A(合併・買収)だった。


 ◇


 数日後。

 平和を取り戻し、復興の鎚音が響く帝都のバルコニー。

 私はゲルハルトの腕の中で、久々の穏やかな風を感じていた。


「……。結局、貴様は帝国どころか、世界そのものを手に入れたわけだ」


「……。いいえ、閣下。……。私はただ、貴方と一緒にいられる場所を、安全に維持したかっただけですわ」


 ゲルハルトは、私の腰をより強く引き寄せた。

 彼の熱い唇が、私の耳元を掠める。


「……。世界がどうなろうと、俺の『帳簿』は貴様一人で埋まっている。……。逃がさんぞ、エルゼ。……。神の座へ登ろうとしても、俺が地の果てまで引きずり戻してやる」


「……。ふふ。……。期待しておりますわ、閣下」


 私は彼の胸に顔を埋め、安らかな眠りに落ちようとした。

 ――。

 だが、その瞬間。


『――System Alert.……。外部接続を感知。……。発信源:座標(214, -889)……。』


 脳裏に、かつてない警告音が響いた。

 管理者権限を持つ私にしか聞こえない、ノイズ混じりの信号。


『……こちら……探査船……第114便……。応答……願……。……“霧の島”より……生存者……。』


 私の身体が、僅かに凍りついた。

 

 バルガスが言っていた、近づくことすら叶わない「死の海」。

 そこに、このシステムの「外部」から干渉しようとする者がいる。


「……。エルゼ? どうした、震えているぞ」


「……。いいえ。……。ただ、少しばかり『新しい投資先』が見つかっただけのようですわ」


 私はゲルハルトの腕の中で、不敵な笑みを浮かべた。

 

 大陸を統べ、帝国を買い取った。

 ならば次は、海を越え、世界の果てに眠る「真の歴史」を黒字に変えて差し上げましょう。

 

 氷の令嬢の逆襲は、ついに大陸を飛び出し、未知なる航路へと漕ぎ出した。


 第3部:帝都潜入・聖遺物編 ―― 完。

第3部完結! 最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!

「神」や「システム」をも算盤そろばんの具にするエルゼ様。

そして、神になった妻を力ずくで地上へ引きずり戻すゲルハルト閣下……。

二人の絆が、ついに大陸のパワーバランスを完全に書き換えてしまいました!


ジュリアン王太子(現・有能な事務員)も、帝都の倉庫で一生懸命に備品整理をしてくれていることでしょう(笑)。


物語はここから、さらにスケールアップいたします。

次章、第4部『大航海・新大陸編』!

海の向こうから届いた謎の無線信号。バルガスが語った「霧の島」。

そして、エルゼ様の現代知識を凌駕する「別の生存者」との出会い――。


「エルゼ様の無双をもっと見たい!」「新大陸でもゲルの溺愛は健在ですか!?」

と思ってくださった皆様、ぜひ【下部の☆☆☆☆☆】をポチッと押して評価、または【ブックマーク】をお願いいたします!

皆様の熱烈な応援が、エルゼ様の「新造船建造予算」となりますわ!


次回、新たなる航路。海賊王と、霧の向こうの「異邦人」。

お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ