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第38話 鉄の愛、爆発。エルゼを奪われた怪物の「帝都蹂躙」

「――邪魔だと言っているのが、聞こえないのか」


 地響きとともに、帝都中央広場を囲む白銀の防壁が、巨大なガラクタのようにひしゃげた。

 それは魔法による爆縮ではない。

 ただ、一振りの大剣――ザイフリート領主ゲルハルトの怒りが叩きつけられた結果だった。


「ひっ、あ……ああっ!? なんだ、あの怪物は……!」

「聖騎士団の『多重重力結界』を……素手で引き裂いたというのか!?」


 マギウス教国の信徒たちが、恐怖に顔を引きつらせて逃げ惑う。

 そこには、かつての冷静な「鉄の辺境伯」はいなかった。

 瞳は血のような深紅に染まり、纏う大気は周囲の石畳を粉砕するほどの重圧を放っている。ゲルハルトは、己の腕を噛みちぎる魔導兵器を素手で握り潰し、一歩、また一歩と地下の禁域へと突き進む。


「……。エルゼ。待っていろ。……。神だかシステムだか知らんが、貴様を泣かせるものはすべて、俺がこの手で灰にしてやる」


 咆哮が空を震わせ、帝都の空を覆っていた教国の紫の帳が、その衝撃だけで霧散した。


 ◇


『――警告。エラー個体:ゲルハルトの接近を感知。……。排除成功率、54%へ低下。……。致死性攻撃(Lethal Strike)のチャージを開始します。』


「……。やめて。……。彼に触れないで!」


 帝都地下、冷たい基盤が剥き出しになった電子の通路。

 私は、自分の右手が勝手に虚空を掴み、光り輝く粒子を生成し始めるのを、左手で必死に抑え込んでいた。


 首筋のバーコードが、焼き切れるような熱を発している。

 私の視界には、現実の景色に重なるように、無数のデータウィンドウが展開されていた。

 ゲルの体温、心拍数、破壊した構造物の総質量――それらがすべて「排除すべきバグ」として処理されていく。


「お姉様、無駄よ。……。お姉様はもう、この世界の『計算機』の一部なの。……。愛なんていう非効率なバグ、システムが許すはずがないわ!」


 私の背後で、ソフィアが愉悦に浸りながら叫ぶ。

 彼女が掲げる錫杖が光るたび、私の意識が「エルゼ」という輪郭を失い、冷徹な『管理者』へと溶けていく。


(……。だめ。……。私は、あの人の帳簿を、まだ閉じてはいません……!)


 脳裏に浮かぶのは、北の地で二人、不器用に過ごした日々。

 鉄の匂いのする彼の手。私の計算をいつも狂わせる、あの傲慢で甘い口づけ。


『――強制同期:32%。……。目標との距離、500メートル。……。迎撃プロトコル、フェーズ3へ移行。』


 突如、通路の壁が変形した。

 古代の防衛機構。浮遊する無機質な球体が、侵入者であるゲルハルトを抹殺するために一斉に射出される。


「閣下……逃げて……っ!」


 私の叫びは、防衛機構の駆動音にかき消された。

 だが、その直後。


 ドォォォォォォォォン……!


 分厚い地下の隔壁が、内側から爆発した。

 瓦礫の煙の中から、血まみれの大剣を担ぎ、全身から紅い魔力を吹き出す「怪物」が現れた。


「……。見つけたぞ、エルゼ」


 ゲルハルトだった。

 鎧はボロボロに砕け、皮膚の至る所から血を流している。だが、その瞳に宿る熱量だけは、地下の冷たい光を圧倒していた。


「ゲル……ハルト、閣下……。……。だめ。……。来ないで……!」


 私は絶叫した。

 私の意志とは無関係に、私の周囲に浮かぶ光の槍が、彼を「致命的なエラー」としてロックオンしてしまったのだ。


『――ロックオン完了。……。個体:ゲルハルトを抹殺(Kill)します。』


「……。ああ、やってみろ」


 ゲルハルトは逃げなかった。

 防衛機構のレーザーが彼の肩を焼き、光の槍がその足を貫こうとしても、彼はただ、私へと真っ直ぐに歩みを進める。


「神になろうが、ただの部品になろうが関係ない。……。貴様の魂がどこにあろうと、俺はそこまで手を伸ばして、貴様を奪い返す。……。たとえ、この手が、この命が、貴様の『システム』に消し去られようともな!」


 ゲルハルトが大剣を捨て、両腕を広げた。

 

「……。さあ、撃て。……。貴様の『正解』が俺を殺すというのなら、喜んで死んでやる。……。だが、俺を殺した後の帳簿の帳尻、貴様一人で合わせられると思うなよ!」


 光の槍が、一斉に発射された。

 まばゆい閃光が地下室を包む。


「あ……あああああ……っ!!」


 私は、自分の指先から放たれた死の光が、愛する男の胸へと突き刺さるのを、ただ叫びながら見つめることしかできなかった。


『――エラー。……エラー。……。個体:エルゼに、深刻なロジック・エラーを検出。……。感情エネルギーが、システムの規定値を大幅に突破(Overflow)しました。』


 閃光の中、私は感じた。

 私の首筋のバーコードが、ゲルの熱い血を浴びて、パリン、と音を立てて砕け散る感覚を。

第38話、お読みいただきありがとうございました。

執筆しながら、ゲルハルト閣下の「重すぎる愛」に胸が締め付けられました……。

「帳尻を一人で合わせられると思うなよ」という台詞、理系令嬢エルゼ様にとって、これ以上の殺し文句(あるいは生存への呪い)はありませんわね。


システムという無機質な理屈を、ただの「執念」でぶち壊しに来る男。

エルゼ様の放った光の槍は、果たしてゲルを貫いてしまったのか。

そして、バーコードが砕けた後のエルゼ様に、一体何が起きるのか――?


「ゲルハルト閣下、カッコよすぎて涙が出た」「エルゼ様、システムに勝って!」

と思ってくださった皆様、ぜひ【下部の☆☆☆☆☆】をポチッと押して評価、または【ブックマーク】をお願いいたします!

皆様の熱量が、システムの暴走を止める最強のパッチになりますわ。


次回、聖遺物起動。この世界の「真実」へのカウントダウン。

いよいよ、物語の核心へ。

お楽しみに!

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