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第36話 仮面の舞踏会。暗殺者の毒を「自作の解毒香」で笑い飛ばす

「……。エルゼ、この仮面を今すぐ引き裂いてやりたい」


 帝宮の巨大な大広間。数千のキャンドルが揺らめき、豪華絢爛な仮面を纏った貴族たちが、まるで極彩色の鳥のようにワルツを踊っている。

 私の腰を抱くゲルハルト閣下の手は、公衆の面前とは思えないほど強く、執着的だった。


「閣下、社交の場ですわよ。……。それに、この仮面は私の『バーコード』を隠すのに丁度いいのですから」


「……。隠しきれていない。貴様の首筋からは、あの不気味な光が漏れ出している。……。この場にいる奴ら全員の目を潰したくなるほどにな」


 ゲルハルトの瞳は、仮面の奥で昏く燃えている。

 彼は今日、あえて私のドレスの香りに合わせた『特製のポマード』を髪に付けていた。それは、私が「暗殺対策」として調合した、特定の気体を吸着・分解する触媒(Catalyst)を配合したものだ。


「……。来ますわよ」


 ワルツの旋律が、不自然に転調した。

 オーケストラの中に紛れ込んだ黒鷲派の構成員が、合図を送ったのだ。


 刹那。

 会場の四隅にある巨大な香炉から、紫色の煙が噴き出した。

 それは、マギウス教国に伝わる禁忌の毒『沈黙の百合』の粉末。肺に入れば数秒で呼吸を止め、心臓を麻痺させる即効性の神経毒だ。


「な……っ!? なんだ、この煙は!」

「息が……っ、苦し……」


 周囲の貴族たちが次々と床に崩れ落ち、悲鳴と混乱が渦巻く。

 毒を撒いた犯人――給仕に化けた暗殺者たちが、仮面の下で勝ち誇った笑みを浮かべ、私とゲルハルトへと襲いかかってきた。


「――死ね、魔女殿!」


 暗殺者の短剣が、私の喉元に迫る。

 だが、ゲルハルトは動かなかった。抜刀すらしていない。

 

 彼はただ、冷笑を浮かべて暗殺者を見つめていた。


「……。閣下、お掃除をお願いしますわ」


 私が扇を優雅に広げた瞬間。

 暗殺者たちの動きが、ピタリと止まった。


「が……っ、は……!? な、なぜだ……。なぜ貴様らは倒れない……!?」


 暗殺者たちは、喉を掻き毟りながら床に這いつくばった。

 彼らが吸い込んだはずの毒は、私の周囲数メートルに展開されていた「見えない防壁」によって無害化されていた。


「化学を学ぶべきでしたわね。……。貴方たちが撒いたアルカロイド系の毒は、弱酸性の蒸気と接触すると瞬時に結合し、重い結晶となって床に落ちるのです。……。私が事前に会場中に振りまいておいたのは、新作の『ルーム・フレグランス』……。その正体は、高濃度のクエン酸と界面活性剤を混合した、中和(Neutralization)のための霧ですわ」


 私は、震える暗殺者の喉元に扇を突き立てた。


「貴方たちが苦しんでいるのは、私がゲルハルト閣下の衣服に忍ばせた、別の香りのせいですわよ。……。閣下の香りに反応して揮発する『催涙成分』……。毒を撒こうとした貴方たちだけが、より深くそれを吸い込むように計算しましたの」


「エ……ルゼ……貴様……っ!」


 暗殺者たちは、涙と鼻水にまみれ、無様に床を転がった。

 毒を撒こうとした者だけが、毒よりも無様な姿で晒される。これ以上の「適材適所」な罰があるかしら。


「……。終わったか。……。エルゼ、もういいだろう」


 ゲルハルトがようやく剣を抜き、逃げようとした黒鷲派の貴族たちを一瞬で制圧した。彼の圧倒的な武力と、私の圧倒的な知略。

 帝都の夜会は、一瞬にして私たちの「独壇場」へと書き換えられた。


 混乱が収まり始めた会場で、私は捕らえられた一人の暗殺者の前へ歩み寄った。

 その人物は、他の男たちとは明らかに違う動きをしていた。最後までゲルハルトの殺気をいなし、私に肉薄しようとした執念。


「……。貴方、誰ですの? その仮面を剥ぎなさい」


 私が冷たく命じると、ゲルハルトがその人物の仮面を乱暴に引き剥がした。


「……っ!?」


 仮面の下から現れた素顔を見て、私の心臓が、かつてないほどの不快な拍動を打った。

 そこにいたのは、マギウス教国の内乱で死んだと聞いていた、私の腹違いの妹――。

 私を「冷徹な人形」と呼び、家族をバラバラにした元凶の一人、ソフィアだった。


「……。久しぶりね、お姉様。……。その首筋の光、とっても似合っているわよ」


 ソフィアは、血を吐きながらも、狂気的な笑みを浮かべて私を睨みつけた。


「……。お姉様は選ばれたのね。……。『世界を壊すためのパーツ』に。……。マギウス様は仰っていたわ。……。お姉様が完成する時、この世界は一度、綺麗な『ゼロ』に戻るって……!」


『――System Loading:15%。個体接触を確認。プロトコル、フェーズ2へ移行。』


 脳裏に響く無機質な声とともに、首筋のバーコードが熱く爆発するように発光した。

 私は、意識が遠のく中で、必死に私を呼ぶゲルハルトの叫びを聞いていた。


(……。ソフィア。……。貴女まで、この『システム』の一部なのですか……?)


 華やかな舞踏会は、最悪の再会とともに、崩壊への序曲を奏で始めた。

第36話、お読みいただきありがとうございました!

「毒入り香炉」の罠を、化学の中和反応で笑い飛ばすエルゼ様。

物理的に毒を叩き落とすという、理系令嬢ならではの解決法、楽しんでいただけましたでしょうか?


しかし、物語はここで衝撃の急展開!

死んだはずの妹・ソフィアの再登場。そして彼女が語る「マギウス様」という謎の存在。

エルゼ様の首筋のバーコードと、ソフィア、そしてマギウス教国……すべての点が、一つの「線」に繋がり始めます。


「エルゼ様の化学無双にスカッとしたと思ったら、不気味な妹が出てきた……!」「システムの進行度が怖い……!」

と思ってくださった皆様、ぜひ【下部の☆☆☆☆☆】をポチッと押して評価、または【ブックマーク】をお願いいたします!

皆様の評価が、エルゼ様の「人間としての意識」を保つための演算資源となります。


次回、狂信の影。マギウス教国の逆襲と、消えたゲルハルト。

初めて、エルゼ様とゲルハルトが分断される!?

お楽しみに!

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