刃に走るヒビ
読んでいただきありがとうございます。
第18話は、
これまで「壊れない存在」だった
刃殻種・レクスに初めて異変が走る回です。
ほんの僅かなズレ。
ですが、王座を争う戦いにおいては
見過ごせない違和感でもあります。
そして同時に、
準決勝のカードが発表され、
決勝への道筋がはっきりと見え始めます。
それでは、第18話をお楽しみください。
違和感は、ほんの一瞬だった。
刃殻種・レクスは、戦場の中央に立っていた。
足元には、
殲滅された対戦相手の残骸。
動くものは、何もない。
(……終わりだ)
いつも通り。
完璧な処理。
想定通りの勝利。
――の、はずだった。
「…………」
レクスは、骨刃をゆっくりと振る。
違和感。
刃の軌道が、
ほんのわずかにズレた。
(……?)
もう一度、振る。
今度は、問題ない。
正確無比。
寸分の狂いもない。
だが。
(今のは……何だ)
疲労はない。
損傷もない。
魔力循環も、正常。
それでも。
(確かに、遅れた)
コンマ以下の誤差。
戦場では問題にならない。
だが――
王座を争う戦いでは、致命的になり得る。
《勝者:レクス》
宣告が響く。
観客は湧くが、
レクスの耳には届かない。
(……捕食者)
脳裏に浮かぶのは、
ヴォルグの姿。
腐蝕の湿原。
限界を踏み越えた、あの動き。
(削っているのは、あいつのはずだ)
(俺は……)
――削っていない。
余計な力は持たない。
無駄な魔力は溜めない。
常に最適解だけを通る。
それが、殲滅者の強さ。
(なのに)
刃に、ヒビが走った。
物理的な破損ではない。
感覚の問題。
“完璧である”という前提が、わずかに揺らいだ。
「……くだらない」
レクスは、そう切り捨てる。
一瞬の誤差。
偶然。
環境要因。
いくらでも理由はつけられる。
だが――
心の奥で、否定しきれない声が囁く。
(もし)
(もし、あの捕食者と当たったら)
(この刃は、同じように振れるのか?)
答えは、出ない。
転送が始まる。
待機エリアへ戻ったレクスは、
すでに集まっていた他の勝者たちを一瞥した。
そして。
粘体の姿を見つける。
ヴォルグ。
輪郭は不安定。
核の光も、揺れている。
(……壊れかけだ)
誰が見ても、そうだ。
なのに。
(目が、死んでいない)
それが、腹立たしかった。
《宣言する》
上空に、魔法陣が展開される。
《本戦・準決勝カードを発表する》
空気が、張り詰める。
生き残りは、四体。
《第一試合》
光が、二つの名を映し出す。
ヴォルグ vs 魔獄巨人《ザ=グラナ》
(……重い相手だ)
耐久・破壊力特化。
正面衝突型。
捕食者には、
これ以上ないほど厄介。
レクスの視線が、
自然とヴォルグへ向く。
《第二試合》
残る二つの名が、浮かび上がる。
レクス vs 虚無穿ち《ネスロア》
(……来たか)
空間干渉型。
刃の精度が、問われる。
――誤差は、許されない。
《勝者二体が、決勝へ進出する》
歓声が、爆発する。
だが、
レクスの意識は静まり返っていた。
(決勝だ)
(もし、互いに勝てば)
視線が、再び交わる。
ヴォルグは、何も言わない。
だが、その核は、
確かにこちらを向いている。
(捕食者)
(壊れかけの、王候補)
レクスは、骨刃を握りしめた。
(……壊れるのは、どっちだ)
刃に走った、目に見えないヒビ。
それは、
殲滅者が初めて感じた――
“不確定要素”だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
今回描いた「ヒビ」は、
物理的な破損ではなく、
完成されていたはずの思想への揺らぎです。
・削らない強さ
・最適解だけを通る戦い
それが本当に“王に至る道”なのか。
その疑問が、
レクスの中に初めて芽生えました。
一方、
ヴォルグは明らかに壊れかけながらも、
王座への歩みを止めていません。
次回からはいよいよ
準決勝が始まります。
捕食者と殲滅者、
二つの道は決勝で交わる――
その前段階として、
それぞれの「限界」が試されます。
感想・評価・ブックマークなどいただけると、
本当に励みになります。
それでは、次話でまたお会いしましょう。




