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あたたかいがらくた  作者: 正式ユウ
第一章 覚めぬ夢を追いかけて
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第一話    『早起きと悪い夢』

オルタンス軍 特殊部隊専用寮


 時計の針が六時を指す少し前、その場所のある部屋から鈍い打撃音のような音が聞こえた。

 それから数分が過ぎて時計の針が六時を指したころ、隣室や離れた部屋からも目覚ましの鐘の音が響き渡るが、先ほどの部屋だけは妙に静かだった。

 そのことが気になって、ずっと早くに起きて暇を持て余していた一人の男――キョースケが、少し開かれていた隙間から部屋を覗き込む。


 本来、窓から朝日が差し込んで多少は明るいはずの部屋だが、肝心の朝日はカーテンで遮られており、部屋の中は見事に暗かった。

 部屋の暗さに目が慣れるまで少し待つ。慣れてきたところで部屋を見渡してみれば、床や机の上など、部屋中に紙束が散乱していた。

 男はそれらを踏まないように避けながら窓まで向かう。途中、何枚か踏んだような気もするが気のせいということにしておく。というより、気のせいということにしておかなければ、きっと、恐らく、いや確実に、この部屋の主に怒られるからだ。


 男が閉じられていたカーテンを勢いよく掴み、その勢いで全開にすると、眩い朝日が部屋に差し込んだ。

 改めて明るくなった部屋を見渡して、発見したその主の姿――コウを見て、キョースケはつい呟いた。


「何やってんの」


 キョースケの紫色の瞳が捉えたのは、ベッドから逆さまに落ちているコウの姿だった。

 コウは本当に寝起きなのか、それとも状況が理解できていないのかはわからないが、その赤い瞳を何度も瞬かせている。


 ―――こうしてたら年相応なんだけどなぁ。


 暫しお互い無言のまま見つめあっていたが、コウが小さく「首が痛い」と呟き、キョースケが「そりゃそうだ」と返したことで、静寂は消え去った。



 ◆



「いやあ、朝から驚いたわ。まさかあのコウ先生があんな体制で寝てるなんてさ」


「そうだな」


 心底面白いと言いたげな表情と声で笑いながら隣を歩くキョースケに適当に返事をしつつ、コウは己の首に手を当てる。動かすとやたら痛いが、そっとしておけばどうにかなるだろうと思い、首から手を離した。


 ―――驚いたのは俺の方だと言いたいんだが。


 細かい内容は思い出すことはできないが、とにかく奇妙で気味の悪い夢から覚めたかと思えば眩い光に照らされ、しかも見える世界は逆さまだ。それに加えて日々の疲れからか身体中が痛む中、何故か特に首が痛いという事実。


 目が覚めてキョースケに話しかけられてから少しの間はまだ意識は完全に浮上しておらず、その時の状況を確認するために思考を巡らせれば、すぐにコウはベッドから落ちてしまっているのだと理解することができた。

 だが時すでに遅し。コウの友人にして上司である男、キョースケに目撃されてしまっていた。起床から覚醒まで、完全に。


「面白いもの見れて満足したし、今日は頑張るか!」


 そして、その結果がこれである。

 このキョースケという男は、楽しいことや面白いことが好きだ。今のキョースケを見ると、そういうことを求めて生きていると言っても過言ではない。


 どんな状況でも笑っていたり、他の上司と深刻に真面目に会議をしていてもおちゃらけているような奴だ。

 ―――いや、後者はいいと思う。

 真面目な時は真面目なのだが、普段はどうしてこんなに阿呆なんだ、とコウはつくづく思っている。


 かく言うコウも上司の不幸を願ったり、仕掛けたりしているため、案外そちら側だったりするが本人は気付いていない。


「ていうか何であんな体勢で寝てたの?疲れてんの?」


「疲れさせてるのは誰だよ」


「俺だわ」


 今、衝撃の事実に気付きました――と言いたげな驚きの表情をするキョースケ。口角が微妙に上がっているから、きっと笑いを堪えようとしているのだろう。


 コウが「わかってんのかよ」と言うと、キョースケは綺麗なウインクをして少し高めの声で「ごめーんね、許しててへぺろ」と言うが、コウはそれを見て顔を顰める。


「気持ち悪い」


「あ、相変わらず辛辣……まあ、本当に疲れてるならちゃんと言えよ。今日の任務も無理して着いて来る必要はないし。もちろんお前がいてくれた方が助かるけどさ」


 普段はふざけていたとしても、それでも、このキョースケという男は、仲間を思いやり、助けようとすることができる男なのだ。

 だからキョースケはこの場所で信頼できる者の一人であり、従う気にさせられる上司であり、心を落ち着かせることができる仲間なのだとコウは思う。


 ―――友人、と言うには烏滸がましいかもしれないが。


「バーカ。怪我を気にせず前に突っ走るお前含めた阿呆どもを止めれんのは俺だけだろ。俺はそんなヤワじゃねえよ」


「さっすが、『鬼のコウ先生』はかっこいいねぇ」


 ひゅう、と口笛を吹いて茶化すキョースケをコウは見事に無視した。

 そんなこんなで、いつものように軽口を叩き合いながら目的地へと続く廊下を歩いていれば、窓の向こうが騒がしいことに気付く。

 立ち止まって窓から外を覗いてみると、多くの兵士達が広場に集っているところだった。おそらく今から任務前の朝の訓練なのだろう。


 コウは現在は軍医であるため、朝の訓練に参加する必要はないのだが、ごく稀に参加するように言われることがある。もちろん、全て無視しているが。


「キョースケ、射撃場行くぞ」


「えっ、今日の任務の準備は?」


「そんなの、どうせ後でもできるだろ」


 唐突にコウが進路を変更する。その歩は射撃場へと向かっていた。

 ―――兵士達を見て触発されたわけではない。ただ、少し別のことに集中して、あの気味の悪い夢から解放されたかっただけだ。


 コウが振り返れば、口角を釣り上げて今にも笑い出しそうな表情のキョースケ。

 なんとなく苛立ちを覚えたので、コウは無視をした。

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