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これは侵食されていく話。  作者: 柳瀬あさと


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9/11

6、真実の諢丞袖 ―諤ェ逡ー蜿怜ョケ―

 資料を返しに職員室へ向かう途中、納得してない顔で一人の女子が呟いた。


「ねぇ『笑顔クローン』てさ、あれ正直、先生達側の怪談じゃん? それなのに何で調べてもらわなかったんだろう」

 

 その怪談は、生徒側には悲劇の怪談で知れ渡っていた。


 ――守りたい存在がいるなら易々と口にしてはいけない。文字にしてもいけない。口にすればするほど、文字にすればするほど、守りたい存在から遠ざかり意思疎通が出来なくなってしまうから。とある学校の職員室には『守ろう、生徒の笑顔』と書かれた目標のようなものが飾られていた。そして教師達は毎朝と言っていいほど「生徒の笑顔を守ろう!」と口にしていた。口にすればするほど、生徒は笑顔になる。クローンのように同じ笑顔になる。どこでもどんな時でも変わらぬ同じ笑顔になっていき、もう笑顔以外の表情は浮かべなくなってしまった。するとある日『おめでとう! 生徒の笑顔だけは守られた!』職員室のホワイトボードにそんな事が書かれていたとか……――。


 大して怖くもない教訓めいたこの怪談は、私たち生徒側で体験したという人はいなかった。けれど、先生達が私達に「何でいつも笑ってるんだ」とか「笑うな」と言いだしたことで妙な真実味を持って広がった。表情の事を口にしない先生でも、何故か私達を見ると顔色を悪くするようになって、先生達は私達が同じ笑顔に見えるんじゃないか、と噂になったものだ。


「そりゃ言えないでしょ。こんな怪談があるんですよーって言ったら、そんな怪談話が出るって事は実際頭のおかしい先生がいるのでは? って疑われるだけだもん」

「あー、そっかぁ……」


 だが、現実問題として先生達とのやり取りがしづらくなってきたのだ。笑っていないのに注意される事もそうだが、中には質問しに行っただけで怒鳴られたとか、相談しに行ったら逃げられたとか、そんな話も出ていた。

 クローンのような笑顔が見えるという直接的な被害はない。けれど頼るべき先生が、まるで怪談話の中の教師のような言動をして頼れなくなってきている。そんな薄気味悪さにやりにくさを感じていた。


「それなら確かに『笑顔クローン』は調べてくださいとは言いにくいかもだけどさぁ……」


 先生達が実際に何をもってそんな不思議な態度をとるようになったのか。

 せめてその謎を説明してもらいたいのに、気が付けば先生達は不自然なまでに少し目を逸らして生徒達と接するようになって、必要最低限の事しか言わなくなってしまった。


「……罪悪感、かなぁ」


 澪がポツリと呟いた。


「生徒一人死なせちゃったわけでしょ? そしたらやっぱり罪悪感があるんじゃないかな。それと後悔。だから生徒の顔を面と向かって見れなくなった、とかかなって思うんだけど……」

「じゃあ『笑顔クローン』に関しては怪談自体を隠したかったって事?」

「そうだと思う」


 それは納得できる意見だった。ただ、それだと生徒の顔を直視できない説明にはなっても、「笑うな」と言った説明には弱い。罪悪感以外の何か歪む理由があるのではと思った。

 思ったけれど、口を噤んだ。

 職員室について先生に資料を返す。その先生もまた少し目を逸らしていた。小さく「こっちを見るな……」と零しながら。その顔があまりにも苦しそうで、澪が言う通り罪悪感から生徒が見れないなら、表情が歪んで見えるなら、これ以上の追求は可哀そうに思えた。

 だから、口を噤んだ。

 この件は調べるまでもなく納得できる。先生達は罪悪感から私達の顔を見れなくて、それで今ぎくしゃくしている。その事実を公表しないのは卑怯だと思うけれど。それでもきっと『笑顔クローン』に隠れている事はそれだけだ。

 きっと、それだけなのだ。






 残りの『電子くだん』と『からだ一匁』を調べようと手分けをした結果、澪と私はまず登校拒否をしている近藤ちゃんに話を聞けないか試してみる事にした。

『からだ一匁』は本当だ、鬼は本当にいる、と訴えているクラスメイト。近藤ちゃん以外にも市原君と滝嶋君もそうだ。親も学校も信じていないし、私含めたクラスの皆だってほとんど信じてない。何か犯罪に巻き込まれ口止めをされている、もしくは酷い事故にあってショックから混乱している。そのどちらかだろうと思っている。


「気付いてくれるかな……」


 澪が近藤ちゃんと繋がってるSNSで連絡を取ると、意外なほどすぐに返事が返ってきた。


『久しぶり、どうしたの?』


 ごく普通の返事に、私達は顔を見合わせてほっとした。登校拒否を始めてからまだ日が短いが、近藤ちゃんの心は落ち着いてきているようだ。


『今大丈夫? 登校拒否の事について聞きたい事があるんだけど平気? しんどかったら無理にとは言わないけど』


 断られたら諦めよう、という気持ちで打ち込んだ内容は、やっぱり『平気だよ』という普通の返事で受け入れられた。


『実際さ、何があって登校拒否してる? ていうか何が嫌でって言えばいいのかな』

『学校』


 即座に返された。その早さに、私達はまた顔を見合わせた。今度は困惑を抱えながら。

 

「んー……どう返そう……」

「学校が嫌って大きすぎてわかんないな……」


 次に送る内容を考えてるうちに追加が来た。


『あいつがいるから学校には絶対に行かない。死にたくない。悪いけど何言われても変わんないから』


 送られてきた内容に、私達の言葉が消える。

『あいつ』とは何なのか決まってる。暴行事件の犯人だ。近藤ちゃんは今までと変わらないように話が出来ている気がする。それならここで詳しく話を聞けば、近藤ちゃん達に暴力を振るった犯人が分かるのではないか。

 澪も同じ思いだったらしく、すぐに返事の文面を作り出していく。


『あいつって誰?』


 近藤ちゃんの気持ちが落ち着いてきてるなら、変にごまかしたりした内容ではなく本当の事件の真相が聞けるかも。逸る気持ちで携帯電話を見つめるが、返事はなかなか来なかった。きっと今近藤ちゃんは勇気を振り絞っているのだろう。


「私さ、この犯人が一番怖いんだよね……」

「わかる。せめて外部犯ならまだいいんだけど」

「そう、そういう事」


 近藤ちゃんと市原君と滝嶋君は酷い怪我を負っていた。その犯人が学校の関係者なら、三人が登校拒否を起こしているのもよくわかる。そしてそんな凶悪犯が学校に潜んでいるのかと思うと、まだ被害にあってない私達だって恐ろしい。けどそれがたまたま入り込んだ外部犯なら、許せないし悲しい事だけど、三人は運が悪かっただけなのではと思える。それなら私達も怖いには怖いけどまだましだ。

 知らずに私達はごくりとつばを飲み込んでいた。数秒、数十秒、じっと画面を見つめ、そしてもしかしたら数分経ったかもしれない時、返事が来た。


『鬼』


 一文字。

 その一文字を見て、私達は大きく息を吐いて落胆した。近藤ちゃんはまだ全然立ち直ってない。


「まだ言えないかぁ」

「よっぽど酷い目にあったんだろうね」

「正体ばらしたら仕返しされるかもとか考えてる可能性もあるし」

「ああ、そっか。そりゃ怖いよね」


 もしかしたら一生口に出せないのかもしれない。犯罪被害者はそういう心の殺され方をしてしまうものだと聞いた事がある。

 そんな事を考えてる間に、澪が『そっか。ごめんね、急に聞いちゃって。実はね、』と入力していた。その続きを入力すようとした時に、近藤ちゃんからまた追加が来た。


『皆も階段降りる時は時間と人数に気を付けてね』


 階段、時間、人数。

 犯人に気をつけろ、ではなく、その三つに気をつけろと言うのは、それはつまり。


「……事件のショックで記憶が変に結びついてるんだと思う」


 澪が表情を消して言う。

 その言葉で、結び付きそうになっていたものを消し去る。

 そうだ、それも聞いた事がある、人はトラウマレベルのショックを受けると心も頭もどこかおかしくなるのだと。さっき自分でも思ったじゃないか。近藤ちゃんはまだ全然立ち直ってないと。だからこの内容は仕方の無いものなんだ。


 次の日、市原君と滝嶋君にも連絡が取れて、そしてほとんど同じ内容を返された。


『階段を使うな、使うなら時間と人数に注意しろ』

『絶対に条件を揃えないように』


 ……仕方ない。この返答は、仕方ないのだ。


 学校中調べた結果、『からだ一匁』の被害者だと言っているのはこの三人以外いなかった。酷い怪我をした人や危ない目にあった人はおらず、大きな喧嘩やいじめも見つからず、地域周辺に不審者の情報も無ければ学校付近をうろついていたり侵入した人の情報もない。

 犯人が見つからない。隠されている筈の真実が見つからない。


「なぁ、思ったんだけどさ」


 何日経っても進まない調査に、男子の一人が暗い顔で言った。


「見つからないっていう事実を隠したかったんじゃねぇの……?」


 探しても探しても加害者が見つからない。それは犯人が巧妙というより調べる側の教師や大人達の不出来さや無能さ加減を露呈してしまうのではないか、という予想。だったらそもそもそんな事件もそれに関連する怪談話も無かったことにしてしまえばいい、と。そんな予想。


「そんなの……ッ」


 酷い誤魔化しだ。犠牲者がいるのに無かったことにするなんて、あまりにも心が無い。そう思って反論しようとして、けれどそう言いきれなかった。自分達も見つけられなかったのだ。見つけられず、苛立ちと疲労ばかりが積もってきたこのタイミングでの発言。

 反論の言葉は続かなかった。私の口からも、誰の口からも。近藤ちゃん達を間違いなく可哀そうに思って、いるだろう犯人の事を恐れているのに。どうしても続く言葉が出なかった。

 私達が必死に調べて分かった事は、階段を降りる時に時間を確認したり一人ずつ降りたり三段目を飛ばして降りたりしている、そんな子が多いという事だけだった。






 知らない番号の電話に出てはいけない。それは死を告げる『電子くだん』かもしれないから。『あれ? 人が出た』という電話を一度でも受け取ってしまえばお終い。毎日死を告げる電話が来て、七日後に必ず死んでしまう。

 それが『電子くだん』の話。死んだ女の子の死因と言われる話で、学校中が知っている怪談。

 その『電子くだん』の話が一気に広がったのは、実のところもう一つの『電子くだん』に関する話のせいだ。


 ――ある生徒が友人達と『電子くだん』の話をしていたところ、タイミングよく電話が鳴った。兄弟からの電話だったので何も考えずに電話に出ようとしたところ、一緒にいる友人の一人が「それ『電子くだん』じゃね?」と笑いながら言うのを聞き「じゃ俺今から犬になるわ」とスピーカーにしてふざけて「ワン!」と言ったところ……。


『……あれ? なんだ、犬か』


 兄弟とはまるで違う声でそう言われてぷつりと切れ、続く電話もなかったという――。


 この追加の話が『電子くだん』を一気に広げて信じられるようにした原因だった。そこから電話に出る時は動物の真似をするという対策を立てる子が出てきたり、携帯電話を持たなくなった子や電話機能を一切使用しなくなった子が出てきた。

 それでも、犠牲者とされているのは一人。

『電子くだん』からの電話を受けた、という話はいたるところで聞くが、死んでしまった子以外の直接的被害者は出ていない。

 内容を知れば知る程、人の手でどうにか出来そうな内容だ。そう思ったから私達は手分けして調べた。『電子くだん』の電話を取った事がある、という子が実際にどれだけいるか、本当に話のような電話だったのか。そして、死んでしまった子。彼女は本当に『電子くだん』の電話を受けたのか。

 クラスの子はその調査に皆当たり前のように携帯電話を使っていた。それに気付いて、少し笑ってしまった。


「私が調べた限りだと『電子くだん』の電話受け取った子、冗談で受け取ったって言った子はいたけど実際に受け取った子はいなかったわ。皆友達の友達が受け取ったんだけど~って感じ」

「やっぱりね」


 クラスの中でも中心的な女子が調べてきた結果を澪に言う。私も澪も、いや、クラスの皆が予想していた結果だった。『からだ一匁』と違って『電子くだん』は本当は犠牲者のいない噂に噂を重ねただけの話だと予想していた。怪奇現象が、怪異が人を殺すなんてありえない。それを思えば、犠牲者とされている一人だって周囲が勝手に当てはめただけなんじゃないかと思ったのだ。


「……いた。俺の後輩、マジで電話出てた。ていうか犬の振りして電話出た奴、後輩だった」


 それなのに、そんな事を言う男子が出てきた。


「え、当事者? 嘘、じゃあその着歴調べれば犯人たどれるじゃん!」


 澪が驚きながらも、逆にこれで問題が解決するのではと意気込んだが、報告してきた男子はしかめっ面で首を横に振った。


「無理。もう着歴消えてた。本人消した覚えは無いって言ってたけど、結構その着歴色んな奴に見せたらしいから、誰かに見せた時に消されちゃったんじゃないかって……」


 手掛かりはあっさりと消えてしまった。がっくり来てるところに、少し顔色を悪くした女子が来た。


「……ねぇ、待って。あの、まったく同じだったんだけど……」


 どういう事かと訊けば、別のクラスの友達でやはり電話を受けた子がいたらしい。こちらも犬の真似をして回避したと言うが、同じように着信履歴を友達で回し見していたら消えてしまっていたという。

 立て続けの同じ情報に、聞いていた私達は背筋に嫌なものが走ったのが分かった。きっと偶然だ。いや、これは、犯人が証拠を消している?

 犯人が電話を受けた子の傍にいるなら、電話を受けた子同士で何か繋がりがあるかもしれない。そう考えて調べたが繋がりは何もなかった。電話を受けた子は学年が下の男子が一人と、同学年別クラスの女子が一人。二人に交友関係はなく、委員も部活も全くの別で住んでいるところもかけ離れていた。

 まったくの無関係な生徒で全く同じ現象が起きる。

 これが偶然ではなく必然なら、犯人はどんな存在でどのように動いているのか。それが思いつかない。


「……これ、愉快犯とかじゃないの?」


 澪の発言にその場にいた皆が目を瞬かせた。


「『電子くだん』ってさ、死んじゃった子の死因の話として広がったじゃん? だから私は皆が恐怖とか意味の分からなさから逃げるために怪談に縋りついたのかなって思ってたの」

「よくわかんないんだけど、そんなことあるの?」

「あるよ。人間は知らない事と訳の分からないことを嫌がるからね。それが真実かどうかはともかく納得できる理由を欲しがるもんなの」


 冷静な澪の発言に皆感心して「へぇ」とか「そうなんだ」とか声を出す。その表情はさっきまでより柔らかい。


「でも、死んじゃった子の死因として広がった話に便乗して、悪ふざけしてる子がいる気がする」

「それが着歴消した子ってこと?」

「うん、それと『なんだ犬か』って電話した子。単独犯かグループ犯かはわからないけど」

「でもそれだったら先生達も無視しないで真っ先に怒りそうだし調査しそうだけど……」

「だから、その愉快犯が表に出せない子だったんじゃないの? それか、先生だったとか」


 強い眼差しの澪を見ると、それが真実のような気がしてきた。


「表に出せない子って誰だよ。やっぱ権力者の子とか?」

「その可能性もあるけど……表に出た場合、学校の評判が一気に下がっちゃうような子とか」

「優等生って事か!」

「そう、東大とか狙ってる人いなかったっけ? あと、スポーツ推薦とか」

「特進にいたかも。スポーツ推薦は確かあれだろ、本選いけたら確定だったけど予選敗退したから駄目になったって」

「あ、そうなんだ。じゃあ特進の子……」

「特進だったら頭もいいしそういう細工できるんじゃないの? ねぇそいつらじゃない?!」

「待って待って、まだ最悪のパターンで先生って可能性もあるから!」

「俺、特進に知り合いいる! 聞きに行こうぜ!」


 澪が出した可能性に皆は一気に飛びついた。先生だったらこれ以上の調査が難しくなるかもしれないが、特進コースの生徒だったら同じ子供同士だ。どうにかなるかもしれないし、話し合いによっては自白してくれるかもしれない。そんな一縷の望みを持って私達は昼休みに特進コースの教室へ向かった。


「無いね」


 そして、あっさりと否定された。


「それさ、こっちでも話出てたんだよ。誰かの仕業だろって。で、探偵じゃないけどちょっと勉強の合間に色々予想だけはたてたんだ」


 瀬戸君の知り合いだという特進コースの田上君は、廊下の壁に寄りかかりながら馬鹿にしたような顔で言った。


「理屈の上ではやろうとすれば出来ると思うよ? 着歴表示弄ったり削除するウィルス作って感染させてそれ確認した上で電話受信……まぁ本物じゃなくて全部そんなように表示させる、かな。そういうウィルスとか作ればいけると思うよ。でも現実問題うちのクラスにその手のスキルのある奴はいない。先生達だってそうだ。手品と同じだよ、トリックはわかってもそれを実行できる技術はない。何より、何のメリットもない」


 田上君は溜息をつく。


「もうとっくに先生達にそこら辺疑われたんだよ、俺達は。配布パソコンの中身も携帯の中身も家のパソコンまで調べられた。個人面談までされた。で、そんな事をされてる間にも『電子くだん』の電話受信したって奴は出てきた。当然受信した奴の携帯も調べて、で、まったくの白。実行後に自己削除までするウィルスか? それとも完全に人力の悪戯か? どっちにしてもそれをやる事で俺達のメリットは何だ? 娯楽か憂さ晴らしかわからないけど、そんなもんの為に内申落とす可能性作って貴重な勉強時間と休憩時間を削る馬鹿はうちのクラスにはいないよ」


 言うだけ言って教室へ戻ろうとする田上君に、瀬戸君が「じゃあ特進の奴らはどう納得したんだよ?!」と言い募る。それに対しても冷めた声と表情が返ってくる。


「別に。お前らの今までと同じだよ。瀬戸だって普通に学校きて塾行ってるじゃん。それだよ。何か馬鹿やってる奴らはいるらしいけど俺達は関係ありません、だよ。納得もクソもあるか。つか何でそんな必死になってるの? 仮にウィルスが本当で怪異も本当だとしても、対策もわかってるならどうだっていいじゃん。ちなみに俺らは犬の真似じゃなくて相手が喋るまで黙ってるってやり方だけどね」


 俺達は何も影響ないよ、と言い残して、今度こそ田上君は教室へ戻っていった。

 私達は何も言い返せなかった。

 先生達の言った事が信じられなくて、自分達で調べようって動き出して、でも所詮子供で別に大して賢くもない。私達が思いつく事なんて大人やもっと賢い人たちがとっくに調べてた。調べた上でどうでもいい、別にこれでいいと受け入れて。それでも対策をしてるのがおかしかった。きっと本当は全然どうでもいいわけじゃないんだ。これでいいわけじゃないけど、この現状を受け入れている。自分に被害が無いなら構わないと。

 それなら、私達だって……。


「……実はさ、本当に死んだ子の呪いだったりして」


 特進の教室から私達の教室へ戻る途中、誰かが笑い混じりに言った。


「無いと思う」


 別の誰かが疲れたように呟く。


「死んじゃった子の事さ、調べたの。そしたらその子、死ぬ前は錯乱気味だったけど八つ当たりしたり恨んだり道連れにしようとしたりって様子はなかったっていうし、それに……」


 私達の教室に辿り着く。昼休みがもうすぐ終わる。午後の授業が始まって終われば、また先生が「残らずに早く帰れ、怪談はするな」と注意するのだろう。もう日常になってしまった注意事項。確かに私達も受け入れていた。自分達に被害が無いから。


「死んじゃった子の幽霊、見たとか聞いたとか言う子、一人もいないよね?」


 被害なんて無い。ただ違和感のある日常があって、それを受け入れつつあった。

 その日常の中で呪いだ何だと言う事はあっても、死んでしまった子の幽霊やその子がどんな子だったかなんて、学校中の誰も話にすらあげていなかった。

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