7、逵溷ョ溘?荳榊惠 ―繧ィ繝斐Ο繝シ繧ー―
私達は知らないことや理不尽さに恐怖し、理由を欲しがり、納得したがっている。そして納得してしまえば受け入れてしまう。
きっと納得したいだけなのだ。納得して安心したい、納得して教訓にしたい。それが真実であろうとなかろうと。
「……何もわからなかった」
放課後、先生が見張るように教室に残っていたから、皆でゆっくりと廊下を歩きだす中、澪がぼそりと呟いた。
隠されている何かがあると思ったのに見つからなかった。見つからない事に疲れてしまった。調査してる私達を余所に、周囲はすっかりわからないものを受け入れていた。
納得は出来ていない。だけど、楽になる方法はわかってしまった。受け入れてしまえばいいのだ。この何か隠されているようで何も隠されていない、奇妙に歪んだ違和感のある日常を。
「俺はもういいよ」
澪と同じようにぼそりと言ったのは瀬戸君だった。知り合いである田上君に突きつけられたのが効いたのか、午後はずっと考え込んでいた様子だった。
「もうさ、田上達と同じでいいや。そうだよ、俺達に被害はないんだから、何か隠されていたとしても本当に怪異があったとしても、もうどうだっていいよ」
「私も……」
続いたのは『電子くだん』を熱心に調べてた女子。
「私はさ、逆にこれもう本当に怪異があるんだなぁって思ったよ。だっておかしくない? 調べても何も出てこなくて! それどころか『電子くだん』から電話来たって子は出てきて! 近藤達は『からだ一匁』は本当だって言い張るし、先生達は私達と目を合わせようとしない! それで学校中に対策方法ばっかり広がって当たり前みたいにみんな知ってて? おかしいじゃん、流石に! 本当に誰かが犯人ならどこかで絶対ボロが出てるよ、でもそんなの無くて、変な状況ばっかりあって、みんなそれを受け入れて……これが怪異じゃなかったら何だっていうの?!」
皆の足が止まる。薄々考えてはいた事。今の学校の状況は、怪異があると考えた方がきっと納得できてしまう。
「で、でも、じゃあ何でうちの高校ばっかりこんな事になってるの?! 怪談ブームは確かに珍しいかもだけど、でもそんな学校昔から幾つもあったでしょう?! なんでうちの高校ばっかりこんなに怪異があるの?!」
澪が叫ぶ。どうしても認めたくなくて、認めたら何かが終わる気がして、必死に叫ぶ。怪異を認めた子もその声に押し黙る。説明出来る人なんて何処にもいない。
「多分、本当に偶然だったんじゃないかな」
友人の呟きに皆が注目する。俯く友人は何処か諦めたような疲れたようにも見えて、けれどその顔ははっきりと見えなかった。
「よくさ、こういう話で聞くでしょ? 神は人が信仰するから存在できるとか、名前を付ける事で存在を固定するとか、皆に知られ足り信じられたりすると強くなるとか。ほら、ホラー小説とか都市伝説とかでよくある説明。それが正しいかどうかなんて知らないけど、でも、皆似たような事言ってるでしょ? だったら多分、そういう事なんだよ」
確かに聞いた事はある。ホラー小説じゃなくても、ファンタジー小説とかでもよく聞く設定だ。
だけどそれが今、どう関係するのか。
「どういう意味?」
澪の呟きに友人は続ける。ぽつぽつと真実を話すように、確信に満ちた声で。
「本当に偶然だったんだと思う。携帯電話なのかメールなのかもしくは手紙なのか、手段はともかく……多分『知らない人からの連絡に出ると死を予告され死ぬ』っていう怪異がいたんだよ。似たような話はよく聞くでしょ? だけど今までの説明は完全に一致してなかった。第一声が『あれ? 人が出た』から始まって七日目に死んで痕跡が不思議な事になる。多分、本当に偶然、偶然にも正しく怪異を説明してしまった。話として落とし込んでしまった。名前を付けてしまった。それを皆で怪談話として広めてしまった。だから固定されて強い存在になった。始まりは、こういうまったくの偶然だったんじゃないかな」
皆、静かにその声を聞いていた。
それは今の学校の説明じゃなかった。ただの予想。一つの考えに過ぎなかった。
「……偶然?」
クラスメイトの男子が、笑うのに失敗したような声を出す。
「つまり、あれか? 犯人も呪いも無くて、俺達が怪談をしたから怪異が生まれて、怪談を続けるから余計に怪異は強くなって、だからつまり……もう今更、解決方法は無いって、事か……?」
悪意なんて無くて、意図なんて無くて、ただ偶然。
偶然、怪異は生まれてしまった。そして知らずに自分達で広めてしまった。
これはただの予想で一つの考えだ。わかってる。だけど、今の私達はその考えに納得してしまった。
納得して、だからこそ、最早打つ手など存在しなくなってしまったのだ。
どれ位続いたのかわからない沈黙を壊したのは小さな声だった。
「じゃあ私達、どうすればいいの……?」
着地点があやふやになってしまった私達は、誰かのその小さな声でのろのろと頭を動かし始めた。
大人が何か隠しているのだと思っていた。何かしらの犯人がいると思っていた。けれど隠してる事も犯人も何も存在しなくて、ただただ怪異だけがあるというのなら、特別な力なんて持ってない物語の主人公でもない私達に何が出来るのだろう。
「卒業したら離れられるよな」
縋るような声が廊下に響くと、皆その事ばかりに意識が行くようになる。卒業。つまりこの学校から逃げられる事。
そうして私達は自然と話し合った。もう誰も怪異を消し去ろう、この胡乱な毎日を解決しよう、とは考えていない。怪異とどう付き合っていけば被害が出ないのか、どうすれば安全なまま逃げ切れるのか。それを考えるようになった。
幸いにも私達は知っている。『電子くだん』と『笑顔クローン』と『からだ一匁』の発生条件も対策方法も。今までの日常の噂で、ここまでの調査で、すべて知識として知っている。その知識を利用すれば、少なくともこの三つの怪異とは関わらないで済む。
「出来るだけ、怪談話のアンテナを張っといた方がいいよね」
今ある怪異以外も出てくるかもしれない。そしたらその情報も仕入れて遭遇しないようにしなければならない。
怪談を聞く事はするけれど、けれどもう、私達は怪談話をしない、と決めた。
それは恐怖からの逃避であり、同時にわずかながらの抵抗だった。
恐らくこの学校はもう救うことが出来ないのだろう。学校中に「怪談話をするな」と言っても無理だ。それは先生達だって散々やったけれど駄目だったのだから。自分達が実感を持って調べて辿り着かなければ、きっと危機感なんて持てやしないのだ。私達だってそうだったのだから。
人の死に悲しみ恐怖するのは仕方の無い事だ。けれどそこから先をきっと私達は学校全体で間違った。その悲しみと恐怖を怪談話なんかで誤魔化したり逃げたりしてはいけなかったのだ。きっとただ素直に悲しみ恐怖するのが一番良かった。きっとそれが正しい乗り越え方だった。怪談なんて、流行らせるべきじゃなかった。
逃避や面白半分の好奇心で語られた怪談が偶然にも本物の怪異を固定するだなんて、誰も想像出来るわけがなかったけれど。
「……皆で無事に、卒業しよう」
自分達ではどうしようも出来ない事もある。どうしようも出来ない事と付き合わなければいけない事もある。
諦めと戒めを抱えた澪の言葉に、誰もが静かに、けれど強く頷いた。




