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これは侵食されていく話。  作者: 柳瀬あさと


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2/11

1、携帯電話 ―電子くだん―

 夏といえば怪談。別に私はそう思わないんだけど、私の周りはそう思っているらしい。今だって放課後の教室で、わざわざカーテンをひいて暗くしてまで怪談話に盛り上がっていた。そんな事しても外はまだ明るいから、大して効果は無いと思うのだが。


「で、振り向くとそこには、死んだはずの女が立ってたんだって……!」


 私にとってはありがちな終わりは、別の友人達にはありがちではなかったらしく、わざとらしい小さな悲鳴が漏れ出る。


「うっわ、怖っ!」

「やだー! 夜寝れなくなるー!」


 じゃあ聞くなよ。

 その言葉を言う代わりに、私は大きく溜息をついた。するとそれが怪談を語っていた友人の気に障ったのか、つまらなさそうに口を尖らせてきた。


「何よー、一人で盛り下がっちゃって。あんたは何か恐怖体験とか無いわけ?」

「無いね。一切無い。馬鹿馬鹿しいよ、お化けだのなんだのって」

「お、言ったね? じゃあ今度お化け屋敷行く? 新しく出来たやつ」

「は? あれとこれは恐怖の種類が違うじゃん! 関係ないよ! やだよ!」

「嫌なら今から何か一つ怪談話を言いなさい! このクソ暑い陽気を少しでも涼しいものにするのよ! 別に体験談じゃなくても、聞いた話でいいからさ!」


 何だかんだで、私も巻き込みたいらしい。何だかなぁ。

 私は頭を捻る。怪談話なんて興味がないから、知ってる話自体少ない。そのどれもが有名なものばかりだ。話したところで友人たちの反応は冷たいだろう。どうせなら驚かせてやりたい。

 そこで私はふと思いつく。無ければ、作ってしまえばいいのだ。


「じゃあ一つ、とっておきのを話そうか?」


 私はご大層な前振りをして話し始める。友人たちは興味津々だ。

 作ってしまえばいい。とっておきの怪談話を。勝手に。


「あのね、最近ネットで見かけた話なんだけど、凄く携帯電話が嫌いな人がいたんだって。嫌いだから、周りの皆がどれだけ勧めても絶対に持たなかったんだって。けど、ある日、仕事の都合で仕方なく持つ事になったの。それでも嫌いなものは嫌いだから、仕事以外では一切使わないようにしてたんだって。だから、携帯について詳しい事どころか、基本的な事も知らないの。機能なんて最新機種なのに本当に電話機能しか使ってなかったの」


 頭を高速回転させて話を考えながら喋る。今のところ皆の興味を惹き付けたままだ。我ながら、創作の才能があったらしい。


「で、ある日、知らない番号から電話がかかってきたの。そんなの取らなきゃいいのに、その人は真面目に出ちゃったんだって。で、『もしもし』って言ったら、『あれ? 人が出た』って言われたの。その人はイタズラ電話か何かだと思ったのね。それですぐ切ろうとしたら、また何か言われたの。よく聞こえなくて訊き返したら……『あなた、死にますよ』って言われたらしいのね」


 友人の一人が小さく悲鳴をあげる。その顔は多少引きつった笑顔だ。なかなかいい反応。もっと怖がらせるにはこの先どんな話にしよう?


「でもまぁ、それこそイタズラ電話だと思ってすぐに切ったの。で、その事を次の日同僚に話したりしたのね。笑い話として。ところが、次の日もまた知らない番号から電話がかかってきたの。けど、昨日の番号とは違ったから素直に出ちゃったのね。そしたら、やっぱり言われたの。『あなた、死にますよ』って。それからしばらく、そんな電話が続いたの。出なきゃいいのに、けど毎回毎回番号が違うから、気になって出ちゃったんだって。でも、同じ声で同じ内容だから、その人は何人かがグルになってのイタズラだと思ったの。それで、七日経って、七日目の電話が鳴ったの。やっぱり真面目に出たら、いつもの声で、でも、いつもとちょっと違う事を言われたの」


 声を潜めると、友人たちは身を乗り出す。私も身を乗り出す。


「『あなた、死んでますよ』って」


 友人たちは目を輝かせている。


「それで? それでどうなったの?」

「落ち着けって。まだ続きがあるんだから。……で、その人がさすがに頭にきて怒鳴ってやろうとした時にね、急に意識が遠くなって、その人はそのまま本当に死んじゃったの。死因は結局不明だったんだって。それで、その人のお通夜の時、イタズラ電話の話を聞いてた同僚が、その人の携帯の着歴を見たんだって。そしたらそこにはありえない番号が並んでたの。……七つとも全部、42424242424って……!」


 途端、友人たちが歓声にも似た悲鳴をあげたり、身を震わせたりした。


「こっわー! 何それ、ヤダー!」

「何よあんた、怖いの知ってるじゃん!」

「携帯に触れなくなるー!」


 ああ、なんていい反応。頑張って即興で作り出した甲斐があるというものだ。私は「そんなに怖いかな?」なんて言いながら、内心ホラー小説家にでもなろうかなと思っていた。

 ちょうどその時、完全下校の放送が入った。私たちはカーテンをまとめ、使っていた机や椅子を片付けて帰り支度をする。何て無駄な時間の使い方。私はそう思っていたが、友人たちは皆怪談話に満足していたようだ。

 その時、友人の一人の携帯電話が鳴った。あんな話の後なのに、携帯に触れなくなるとまで言ったのに、その友人は歩きながらあっさりとその電話に出た。怪談なんてそんなもんだ。どうやら母親からの電話だったらしく、さっきまでとは違い、だるそうな声で夕飯のメニューの話なんかをしている。それにつられるように、友人たちも歩きながら携帯電話をいじりだす。その時、私の携帯も鳴った。私も母親からの電話で、何の用だろうと思いながら電話に出た。


「もしもし、お母さん? 何?」


 電話の向こうから声が返ってくる。



『……あれ? 人が出た』



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