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22 砂岩の雑兵

評価いっぱい入ってた……ウレシイ……ウレシイ……

「アレン!」


 私は吹き飛ぶアレンを気にしながらも、急ぎ魔術を構築する。属性は水。三枚重ねの壁。組成は分けて……くそっ、間に合うか。


『水の織壁よ(ウィ・ヴァルアス)!』


 眼前に壁状の水が顕現する。そこへ、腹に響くような振動と鈍い破砕音が響く。

 大きく広げ、それぞれ別の特性を持たせた三つの水壁。大人の腕程の太さはある厚みを更に三つ束ね、強度を増しているはずのそれに、私の体半分はあるであろう岩が突き刺さっていた。鈍角を描く先端がめり込み、第二層を突き破って三層に差し掛かろうとしたところで、己の速度と体積によって圧壊している。

 第二射を警戒して、もう一つ同じものを形成する。そうしてからようやく、私はアレンの吹っ飛んでいった方に目を向けた。


 『ひかるくん』に照らされたアレンの体は倒れていて、体は液体で濡れている。その横には、私のところに飛んできた岩の弾丸のと同じものが、こちらも液体を付着させて転がっている。

 だがそれは赤ではない。飛び散っているのはアレンの血などではなく、色のない粘ついた液体だ。

 ……こっちもなんとか間に合ったか。うめき声を上げながら身を起こすアレンの姿を見て、ほっとする。

 

「ぼさっとしてないで構えろ! 敵襲だッ!」

「い、つつ……おっさん、いったい何が……」

「それはあとだッ! 来るぞッッ!」


 再び鈍い音と重い衝撃が響く。予想通り、水の壁に刺さった岩弾は先程のものと合わせてその数を二つへと増やしている。砕けた破片が崩れて、地面へと落ちていく。

 そして、岩弾の飛んできた闇の中からからそいつが"ぬらり"と姿を現した。


 身の丈は大人よりもやや大きい程度。たまごをごつごつとさせたような大きめの胴体に太くて短い手足が付いている。鉤爪を思わせる三本指は先が丸まっているが、捕まえたものを文字通り容易くひねり潰せる(・・・・・・)であろう。顔のようなものはない。岩で出来た体を引きずるように歩く度に脚部の一部がぱらぱらと崩れて、地面へと描いた線を伸ばした。

 アレンが身を起こしながら叫ぶ。


「魔物か!」

「『砂岩の雑兵(ドガルス)』だ! 手足の付け根を狙え!」


 投げるように荷物を降ろし、返事を待たずに走り出して『ひかるくん』の遥か先に居る砂岩の雑兵(ドガルス)の元へと向かう。

 ちっ、遠い。余分な魔術領域を使わぬよう水の壁を解除し、走る、走る。

 またも岩弾が私を狙って飛んでくるが、速度を殺さぬよう最低限の動きで躱しながら前へと進む。この角度ならアレンには当たらないだろう。ええい、なびく前髪がうっとおしい。


 疾走(はし)る、疾走(はし)る。私の足が力強く地面に叩きつけられ、前進のためのエネルギーを生み出す。反発し、更に体は加速する。もっと、もっとだ!

 そして私は思いっきり踏み切って全力で跳躍し、凝縮した『風よ(ヴェア・ムト)』を自らの(・・・)背中に(・・・)受け(・・)、飛翔した(・・・・)。


 轟、という音すら背後に置き去りにし、私の横を凄まじい速さで景色が流れていく。体だけではなく意識まで果てしなく加速する中、私は砂岩の雑兵(ドガルス)から魔術を構築しようとする気配を感じた。


 だが……こちらのほうが早い!

 口を大きく開き、喉が枯れんばかりの咆哮をする。


「どっせえええええええええええええい!!!!!」


 体を横に倒し両足を揃え、速度を全て威力へと変換し、私は渾身の蹴りを砂岩の雑兵(ドガルス)の最上部へとぶち込んだ。

 砂岩の雑兵(ドガルス)は体がぐらりと傾き、やつが発動した魔術は見当違いの方へと飛んでいく。片足は浮いて、著しくバランスを崩していた。

 私はすかさず着地して、手に掴んでいた短球鎚(ショートメイス)を振り下ろして追撃を試みる。しかし砂岩の雑兵(ドガルス)が振り回した腕で防がれた。がすっ、という鈍い音とともに軽い痺れが私の腕に走る。こちらの追撃は防がれたが、まだやつの体勢は崩れている。


 一気に畳み掛ける! 私を掴もうとする腕をかいくぐり、その流れに逆らわぬよう受け流す。そしてその付け根へと体重を載せた短球鎚(ショートメイス)を叩き込む。やつは浮いた片足を少しだけばたつかせたが、何とか崩れ落ちずに堪えた。

 間髪入れずに、軸足を狩るようにして一撃。倒れない。やつは体を傾けたまま、私を捕まえようと手を伸ばしてくる。それを叩き落とし、付け根に一撃をぶち込む。

 そこへ、剣を腰溜めに構えたアレンが突っ込んできた。


「そっちの腕をやれっ!」


 言いながら武器を剣に持ち替え、私はこちら側の腕の付け根に切っ先をねじ込む。アレンも少し上向きな突きを腕の付け根に向けて鋭く放った。

 重い抵抗と手応えが、じいんと私の手に伝わり、一瞬の間を開けて軽くなる。私たち二人に押されたやつの体が弧を描きながらゆっくりと傾き、どごんという音とともに大地を揺らす。そのまま地面に押し付けながら手首を捻り、更に剣を深く突き入れると、腕の付け根にはびしりと大きな亀裂が走った。岩で出来た二本の腕が地面へと落ちる。

 私はすかさず足の付け根にも数撃打ち込み、胴体と切り離した。攻撃手段どころか移動すらも出来なくなった本体は、しばらく体を揺さぶるようにして震えていたが、それもやがて動かなくなった。


「はあ……はぁ……はあ……っ」

「ちょっと危なかったな」

「これで……はぁ……ちょっとかよ……はぁ……」


 今の戦闘音を聞きつけた敵が現れることを警戒しながら、アレンへと返す。


「もし二体以上現れたら面倒だった。万が一と思って渡しておいた保険も役に立ったし、よかったよ」

「俺には、何がなんだか……はぁ……っ」


 アレンが汗を流しながら疑問を呈す。まぁアレンからすればそうだろう。


「いきなり衝撃があって、気付いたら倒れてた」

「お前はあいつの岩弾を喰らって吹っ飛んだのさ。ただし、直撃ではないがね。もし当たってたら吹っ飛んだのはお前の頭だけだったろうさ」

「よく無事だったな、俺……」

「保険と言って渡しておいた『ひかるくん』があったろう? 岩弾がアレンに当たる直前、あれを肥大化させて受け止めて爆散し、衝撃を逸らした。間に合ってよかったよ」

「そか。ありがとう、おっさん。また助けられたな」

「気にするな。今は同じ依頼をこなす仲間だ」


 片眉を上げながら答え、先程投げ捨てた荷物を回収して、下面についた汚れを数回払ってから背負い直す。


「ともあれ、お前も疲れただろう。予定を変更して、今日はこれくらいにして帰るとしよう」

「おっさん、俺はまだいけるぞ」

「無茶するなと言われたばかりだろう、アレン。マルグレットやサーシャに怒られたいのか?」

「ぐ……いや、それは」

「今日はおとなしく帰れ。初めてのダンジョンで自分が思ってるよりも疲れてるはずだ。肉体的にも精神的にもな」

「……ん、わかった」


 渋々ながらも納得し、アレンはこちらを見た。気分を変えようとしているのか、わざとらしいくらいに明るい声で話す。


「いやぁ、だったらさっさと帰ろうぜ! 俺、腹減っちまったよ!」

「さっき食ったばかりだろうが」

「あんなん飯のうちに入らねえよ。そりゃ腹は多少膨れるけどさ、それだけだ」

「お前も私みたいに少しはいい干し肉を食ってみたらどうだ。そこまで日持ちはしないが、お前の食ってたカチカチのよりはまだマシだぞ」

「なっ! そんなもんがあったのかよ! ずるいぞ!」

「街に戻ったらお前にも店を教えてやるよ」


 アレンと話をしながら、来た方向を目指す。道中で私が死体に振り掛けた粘液生物を軽く様子見してみたが、流石にまだ目に見えての効果は発揮していなかった。時間経過の賜物か、流石に血の匂いは若干だが薄れているな、うん。

 蝙蝠(こうもり)たちもまだ起きる様子がない。飛び回っている数が少し増えたぐらいか。まぁ誤差だな。気にせずに入り口を目指す。


 やがて、『ひかるくん』以外の光源が遠くから洞窟内を照らしているのがわかる場所に出た。どことなくアレンもほっとしている気がする。強がってはいても、内心ではやはり疲れていたのであろう。強情な奴め。


 こうして私たち二人は、大した怪我もなく無事に『碧岩(へきがん)の庭』初日を終えた。

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