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08話 アリスとデート!

「ここ数日の間に、大国が相次いで狙われています」

「勇者のいた国に至っては、王族や臣下が皆殺しにされ、今は国家としての機能を果たしておりません」

「先程、ピーパー国のスタジアムが例の悪魔に襲われ、王子とその親衛隊が全滅したとの情報が入りました」


 とある国の会議場にて、世界を揺るがす事件についての報告がされている。この場にいるのは、国のトップや大臣、情報官達だ。彼らは懸念事項を口にする。


「ソウルと名乗った悪魔は、勇者アリスを捕虜にしているようです」

「現状の報告はいい。その悪魔を召喚した組織の所在と狙いは、まだ分からんのか」

「その前に対策案だ。大国が相次いで狙われているならば、次の標的は我らだろう」


 この国の情報官たちは優秀であった。情報伝達手段が乏しいこの世界において、情報収集の早さがそれを物語っている。そして、優秀な彼らは対策についても考案していた。


「勇者アリス、そしてあのピーパー国のゲスティン王子でさえも敵わない相手です」

「そこで対策案ですが、目には目を。悪魔には悪魔を、というわけです」


 それは、同じ様に悪魔を召喚し、悪魔に悪魔をぶつけるという作戦であった。


「なるほど、合理的だな。兵隊の被害が、最小限に抑えられる」

「問題は、召喚の儀式がいつ完成するかだ」


 その疑問に対し、ご安心を、と言葉を添える情報官。


「勇者の国が壊滅したのを受け、すでに準備は進めております。万全を期すなら一週間、早ければ今日にでも召喚は可能です」


 自国の情報官の優秀さに、舌を巻く大臣達。悪魔と悪魔の壮絶な戦いが、始まるときは近い。




 ■□■□■




 スタジアムの一件が終わった後、俺はアリスのいる宿に戻ってきた。アリスはベッドで、すやすやと寝息を立てている。


 こうして見ると、本当にかわいいと思う。昨日までは、すごい顔をしてビクンビクンしていたからな。


 アリスの頭をそっとなでる。絹糸のような手触りで、青い髪がさらさらと指の間を流れていく。


 そうしていると、どうやらアリスを起こしてしまったらしい。アリスはトロンとした目で、挨拶をしてくる。


「おはよう、ございましゅ」


 ……なんか目がハートマークになっている。顔もぽーっとしていて赤いし、これはちょっとやりすぎたかもな。




 ■□■□■




 拠点にしていた宿の周りは、人っ子一人いない状態だ。というか、もはや街全体が機能していないようだった。まあ、俺が王様殺しちゃったせいなんだけどね。


 というわけで、俺は今日も空を飛んでいる。そろそろ、どこかの街に住処を移したいものだ。


 今日はアリスも一緒だ。創生スキルで作り出した空飛ぶカーペットは、数人乗れるスペースがあるのだ。アリスには大剣も持たせてある。


 アリスは首輪をつけ、犬のようにお座りしてカーペットに乗っている。最初は空の旅に多少驚いていたアリスだが、今は上機嫌で地上を眺めている。こういう楽しそうな顔もするんだな、と俺は思った。




 数時間飛んでいただろうか、ようやく大きな街が見えてきた。俺は前回の反省点を活かす。貴族街ではなく、ちゃんと市民が住んでいそうなところに降りよう。


 目を付けたのは、大勢の人で賑わう市場(いちば)だ。俺は、そこから少し離れた裏道に降りた。


 ちゃんとフードをかぶり、悪魔であることを隠すのも忘れない。よし、これで完璧だ。俺はアリスを連れて、市場(いちば)のメインストリートに出た。




 食べ物のいい匂いが漂ってくる。食材を売り出しているところもあれば、一品物の料理を出している屋台もある。


 そういえば、俺はこの体になってから一度も食事をしたことがない。おそらくは悪魔の体質的に、食事を摂取する必要がないのだろう。


 ただそれでも前世の名残なのか、食欲が胃を刺激してくる感覚がある。俺は久しぶりに食事を楽しむべく、市場を見て回った。




 ……おかしい。市場を歩く人達の目が、なぜかこちらに集中している。


 俺が浮いた服装をしているのか、それともフードをかぶった奴が珍しいのだろうか。いや、ローブ姿の奴はちらほら見かけるし、帽子をかぶった奴もいるからフードだってそんなおかしくないはずだ。


 悪魔だとバレたわけでもないだろう。それだったらみんな逃げ出すはずだし。


 俺は首をひねりながらも、一つの屋台の前で足を止めた。そこで売っていたのはシンプルな串焼きだった。焼いた肉を串に刺して、塩だけを振りかけたものだ。


 異世界特有の変わった料理も味わってみたいが、久しぶりの食事は親しみのあるものがいい。俺は店主のおじさんに、串焼きを二人前頼んだ。一つはアリスの分だ。


 これは一種のデートみたいなものだしな。二人で一緒に食べてみたいのだ。


「あ、あ、あいよ。に、二人前ね」


 ん? なんか店主の引きつった顔が気になったが、どうやら注文は通ったようだ。周りの人々も、見てはいけない何かを見たかのような顔をしている。一体どうしたというんだ。


「いや、兄ちゃん。ここは人間の奴隷も認められてはいるけどよ。いくらなんでも、犬っころみてえに歩かせるのは、ちょっとなぁ」


 俺は店主のその言葉に、ハッとした。そう、俺はアリスに首輪をつけて、四つん這いで歩かせていたのだ。


 前も一緒にいたときは、四つん這いで後ろを歩いてきたから違和感がなかった。何がデートみたい、だ。これじゃただのアニマルプレイじゃないか。




 俺はアリスを立たせた。これで、目立つ事はないだろう。一安心だ。


「はいよ、串焼き二人前ね。合わせて400カヘーだよ」


 金など持っていない。まだ安心するのは早かった。


 ……どうするか。当然ここから逃げることもできるし、金を要求してくるこの店主を殺すのも簡単だ。


 だが、俺は決めたじゃないか。異世界を堪能しようと。今までと同じようにやっていては、いけないのだ。


 俺は、横の食品売り場を見る。店の人とやりとりしている買い物客の手には、コインが数枚握られていた。


 この国の通貨の単位はカヘーだ。一体あのコインが何カヘーになるのかは知らない。とりあえず一枚あたり100カヘーだろうと予測する。


 俺は創生スキルを使用した。

 イメージは四枚のコイン。


 俺はそれを串焼き屋の店主に渡す。これでいいだろうか。


「はいよ、400カヘーちょうどね。毎度あり」


 はい、俺天才。でもまさか、創生スキルをこんなことに使うとは思わなかったぜ。




 俺はアリスに、串焼きを一本手渡した。するとアリスは、一心不乱に串焼きにかぶりつく。


 食事の行儀が悪い子なのだろうか。まあそれも愛嬌かな。だが、俺は重大なことを忘れていたことに気付く。


 今までアリスにご飯食べさせてない……。ここ数日、アリスで遊ぶことに夢中で、すっかり忘れていた。そりゃあ数日ぶりの食事となったら、かぶりつくのも当然だ。


 でもさ、お腹すいたの一言くらい、言っていいんだぜ? 俺はアリスにご飯をいっぱい食べさせるため、市場の中を練り歩いた。




 ■□■□■




 国の重鎮たちが集まる会議場に、一人の情報官が入ってくる。


「例の悪魔ソウルと勇者アリスの姿を、市場にて発見しました」

「今はまだ手出ししてこないようですが、いつ行動を起こすともわかりません」


 その報告に、国のトップが口を開く。


「……すぐにでも、悪魔を召喚せよ」

次回、ヒロイン2人目登場。

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