07話 大熱狂! スタジアムでの戦い
宿に帰った後に、アリスの様子を見ると気絶していたようだった。長時間放置してしまったらしい。
ただその日はちょっと疲れたので、アリスをそのままにして、俺は寝てしまった。もちろん振動カプセルは付けっぱなしだった。
「あがががががが あう˝う˝う˝う˝う˝う˝」
で、朝起きたら意識を取り戻していたようで、今は悶絶状態になっている。さすがにやりすぎると、壊れてしまうと思ったので、振動を止めておいた。
アリスは全身が液体にまみれていたので、風呂に入れた。ぐったりしているアリスをベッドに寝かせてやり、俺は宿を出た。
今日こそは異世界の街を堪能しようと思う。
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今日も今日とて、俺は空を飛んでいた。ただ、翼は生やしていない。創生スキルで空飛ぶカーペットを作り出したのだ。
いつまでもパタパタ飛ぶのも芸がないしな。空飛ぶカーペットなら、寝ころびながら移動できるからすごい楽だ。
今日は日差しがまぶしい。フードをかぶり、地上を見て面白そうな場所がないか探す。すると一つの街を見つけ、歓声が上がっている場所があった。
そこは円形の建物で、屋根がなかった。スタジアムという表現がぴったりくる。
そのスタジアムの、客席に囲まれた中央に、闘技場があった。そこには二人の男の姿があった。
一人はレイピアを持ったイケメンだ。
もう一人はバトルアックスを持ち、ヒゲが生えたおっさんだった。
今から試合が始まるのだろう。司会の女性が選手紹介をしていた。
「青の門から入場! 我が国の王子ゲスティン・ピーパー選手! 初出場から十連勝! 爽やかな微笑みが、場内の女性を虜にするぅー!」
その王子とやらの紹介が終わったとたん、場内からことさら大きな歓声が響く。女性の声が圧倒的多数だ。
「赤の門から入場! 斧使いダルマン選手! 通算成績は一勝二敗! どんでん返しなるかー!?」
おっさんのほうは人気がないのか、声援は無い。観客は試合前から勝敗がわかっているかのようだ。
客の目当ては二人の闘いではなく、イケメン王子の姿を見ることのようだ。
俺としては正直、ヒゲのおっさんのほうを応援したくなる。おっさんの背中に、敵地に一人向かう雄姿をみた。
開始の合図とともに、二人の闘いが始まった。結果としてはイケメン王子の圧勝だった。
「勝者、ゲスティン・ピーパー選手‼」
黄色い歓声が再び沸きあがる。闘技場では、イケメン王子へのインタビューに移ったようだ。
「パワーがあるだけで、鈍くさい相手だったね。彼には才能がないよ。僕と違ってね」
相手選手の傷に塩を塗るような発言だったが、なぜか観客達から好感を得ているようだ。なんであんな奴に人気があるんだろう。王子だから人気なのか、それともああいうキャラだから人気があるのか。
ヒゲのおっさんの動きは悪くなかった。だが、闘いは終始イケメン王子の優勢で進んでいた。
そりゃあ、こんなアウェーの中で、平常心で戦うなんて出来っこないだろう。試合が終わった後に、おっさんは肩を落としながら退場していった。
闘いの印象は、俺の目には一方的ないじめのように映った。あのイケメン王子が勝てたのは、観客の声援によるものが大きいと思った。
あいつ一人の力じゃない。
前世で俺をイジメていたグループのリーダーを思い出す。イケメンで、人気があって、女にモテる。
スタジアム中の全員にイジメられたおっさん。俺は、ヒゲのおっさんと自分とを重ね合わせていた。気が付いた時には、スタジアムの真ん中に降りていた。
「な、なんですか突然!?」
司会の女性が驚きを口にする。俺はフードをかぶっているから、悪魔とはバレていない。それでも急に現れたのだから、観客たちが何事かと騒ぐのも無理はない。
そんな場を収めたのは、イケメン王子の一言だった。
「おや、乱入者か。さっきの試合は盛り上がりに欠けたからね。こういうのも新鮮でいいじゃないか」
観客たちは、これが計画されていたイベントとでも思ったのだろうか。思わぬ展開に、場内のボルテージが上がっている。
「フードの少年! 名を名乗れ!」
イケメン王子はそう言った。俺はソウルと名乗った。
そういえばこいつの名前なんだっけ。さっき司会の人が言っていたような気がするけど、忘れちゃったんだよね。
「さあ、司会者さん。試合前の口上を頼むよ」
イケメン王子の促しで、女性司会者のほうも平静を取り戻したようだ。さすがはプロってところかな。
「突然の乱入者が襲来! その名前はソウル! 無謀にも我らが王子に歯向かう彼の実力は、いかほどの物か!」
口上が終わると、観客が再びイケメン王子の応援に回る。
イケメン王子がレイピアを正面に構える。俺はただ徒手空拳でイケメンの様子を見ているだけだ。
油断はしない。すべてはおっさんの仇を取るためだ。こんな卑怯な手を使って勝つ奴を、許してはなるものか。
「っし‼」
イケメン王子は息を吐き出し、距離を詰めてきた。レイピアが、俺に向かって襲い掛かる。
俺はデコピン一発で、レイピアの刀身を折った。折れた剣先が、くるくると空中で回転し、地面に突き刺さる。
「……はへぇ?」
イケメン王子は間抜けな声を出し、そのまま固まってしまった。スタジアムの中が静かになった。
パワーもスピードも、驚くほど低かった。直線的な動きで、なんの工夫もなかった。
アリスと比べたら雲泥の差だ。アリスって結構強いほうだったんだなあ。
俺は連続でデコピンを繰り出し、イケメン王子の体中の骨を折っていく。全身打撲に全身骨折だ。顔もぼこぼこにしたので、イケメンの面影はとっくにない。
観客席から悲鳴が上がる。俺としてはスッキリしたから、そろそろ帰ろうかと思ったんだが。
「王子を害する賊はここか!」
「あのフードの男を取り押さえろ!」
スタジアムの入場門から、兵士がわらわらと出てきた。……王子を倒したら捕まるんなら、そりゃ相手選手は本気出せないわな。やり方が汚すぎる。
さすがの俺も今回は頭にきた。常に冷静な俺を怒らせるなんて、なかなかやるじゃないか。
俺は創生スキルを発動する。
イメージは血の海。
スタジアムにいた奴らが、体内から突然弾け飛び、辺りは血の海となった。ここに、生きている人は誰もいない。
俺は空飛ぶカーペットを呼び出し、寝転がりながら宿に帰った。




