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07話 大熱狂! スタジアムでの戦い

 宿に帰った後に、アリスの様子を見ると気絶していたようだった。長時間放置してしまったらしい。


 ただその日はちょっと疲れたので、アリスをそのままにして、俺は寝てしまった。もちろん振動カプセルは付けっぱなしだった。




「あがががががが あう˝う˝う˝う˝う˝う˝」


 で、朝起きたら意識を取り戻していたようで、今は悶絶状態になっている。さすがにやりすぎると、壊れてしまうと思ったので、振動を止めておいた。


 アリスは全身が液体にまみれていたので、風呂に入れた。ぐったりしているアリスをベッドに寝かせてやり、俺は宿を出た。


 今日こそは異世界の街を堪能しようと思う。




 ■□■□■




 今日も今日とて、俺は空を飛んでいた。ただ、翼は生やしていない。創生スキルで空飛ぶカーペットを作り出したのだ。


 いつまでもパタパタ飛ぶのも芸がないしな。空飛ぶカーペットなら、寝ころびながら移動できるからすごい楽だ。


 今日は日差しがまぶしい。フードをかぶり、地上を見て面白そうな場所がないか探す。すると一つの街を見つけ、歓声が上がっている場所があった。


 そこは円形の建物で、屋根がなかった。スタジアムという表現がぴったりくる。


 そのスタジアムの、客席に囲まれた中央に、闘技場があった。そこには二人の男の姿があった。


 一人はレイピアを持ったイケメンだ。


 もう一人はバトルアックスを持ち、ヒゲが生えたおっさんだった。


 今から試合が始まるのだろう。司会の女性が選手紹介をしていた。


「青の門から入場! 我が国の王子ゲスティン・ピーパー選手! 初出場から十連勝! 爽やかな微笑みが、場内の女性を虜にするぅー!」


 その王子とやらの紹介が終わったとたん、場内からことさら大きな歓声が響く。女性の声が圧倒的多数だ。


「赤の門から入場! 斧使いダルマン選手! 通算成績は一勝二敗! どんでん返しなるかー!?」


 おっさんのほうは人気がないのか、声援は無い。観客は試合前から勝敗がわかっているかのようだ。


 客の目当ては二人の闘いではなく、イケメン王子の姿を見ることのようだ。


 俺としては正直、ヒゲのおっさんのほうを応援したくなる。おっさんの背中に、敵地に一人向かう雄姿をみた。




 開始の合図とともに、二人の闘いが始まった。結果としてはイケメン王子の圧勝だった。


「勝者、ゲスティン・ピーパー選手‼」


 黄色い歓声が再び沸きあがる。闘技場では、イケメン王子へのインタビューに移ったようだ。


「パワーがあるだけで、鈍くさい相手だったね。彼には才能がないよ。僕と違ってね」


 相手選手の傷に塩を塗るような発言だったが、なぜか観客達から好感を得ているようだ。なんであんな奴に人気があるんだろう。王子だから人気なのか、それともああいうキャラだから人気があるのか。


 ヒゲのおっさんの動きは悪くなかった。だが、闘いは終始イケメン王子の優勢で進んでいた。


 そりゃあ、こんなアウェーの中で、平常心で戦うなんて出来っこないだろう。試合が終わった後に、おっさんは肩を落としながら退場していった。


 闘いの印象は、俺の目には一方的ないじめのように映った。あのイケメン王子が勝てたのは、観客の声援によるものが大きいと思った。

 

 あいつ一人の力じゃない。


 前世で俺をイジメていたグループのリーダーを思い出す。イケメンで、人気があって、女にモテる。


 スタジアム中の全員にイジメられたおっさん。俺は、ヒゲのおっさんと自分とを重ね合わせていた。気が付いた時には、スタジアムの真ん中に降りていた。




「な、なんですか突然!?」


 司会の女性が驚きを口にする。俺はフードをかぶっているから、悪魔とはバレていない。それでも急に現れたのだから、観客たちが何事かと騒ぐのも無理はない。


 そんな場を収めたのは、イケメン王子の一言だった。


「おや、乱入者か。さっきの試合は盛り上がりに欠けたからね。こういうのも新鮮でいいじゃないか」


 観客たちは、これが計画されていたイベントとでも思ったのだろうか。思わぬ展開に、場内のボルテージが上がっている。


「フードの少年! 名を名乗れ!」


 イケメン王子はそう言った。俺はソウルと名乗った。


 そういえばこいつの名前なんだっけ。さっき司会の人が言っていたような気がするけど、忘れちゃったんだよね。


「さあ、司会者さん。試合前の口上を頼むよ」


 イケメン王子の促しで、女性司会者のほうも平静を取り戻したようだ。さすがはプロってところかな。


「突然の乱入者が襲来! その名前はソウル! 無謀にも我らが王子に歯向かう彼の実力は、いかほどの物か!」


 口上が終わると、観客が再びイケメン王子の応援に回る。


 イケメン王子がレイピアを正面に構える。俺はただ徒手空拳でイケメンの様子を見ているだけだ。


 油断はしない。すべてはおっさんの仇を取るためだ。こんな卑怯な手を使って勝つ奴を、許してはなるものか。




「っし‼」


 イケメン王子は息を吐き出し、距離を詰めてきた。レイピアが、俺に向かって襲い掛かる。


 俺はデコピン一発で、レイピアの刀身を折った。折れた剣先が、くるくると空中で回転し、地面に突き刺さる。


「……はへぇ?」


 イケメン王子は間抜けな声を出し、そのまま固まってしまった。スタジアムの中が静かになった。


 パワーもスピードも、驚くほど低かった。直線的な動きで、なんの工夫もなかった。


 アリスと比べたら雲泥の差だ。アリスって結構強いほうだったんだなあ。


 俺は連続でデコピンを繰り出し、イケメン王子の体中の骨を折っていく。全身打撲に全身骨折だ。顔もぼこぼこにしたので、イケメンの面影はとっくにない。


 観客席から悲鳴が上がる。俺としてはスッキリしたから、そろそろ帰ろうかと思ったんだが。


「王子を害する賊はここか!」

「あのフードの男を取り押さえろ!」


 スタジアムの入場門から、兵士がわらわらと出てきた。……王子を倒したら捕まるんなら、そりゃ相手選手は本気出せないわな。やり方が汚すぎる。


 さすがの俺も今回は頭にきた。常に冷静な俺を怒らせるなんて、なかなかやるじゃないか。




 俺は創生スキルを発動する。

 イメージは血の海。


 スタジアムにいた奴らが、体内から突然弾け飛び、辺りは血の海となった。ここに、生きている人は誰もいない。




 俺は空飛ぶカーペットを呼び出し、寝転がりながら宿に帰った。

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