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テロメアの書き換え(不老不死)と、永遠の即落ち仕様

バグのない新世界。新宿のペントハウス。

平和な午後、古海縁理フルミ・エンリはリビングのソファで本を読み、その膝の上では真祖リリスが猫のように丸くなって微睡んでいた。

いつも通りの幸せな限界同棲ライフ。だが、ふと目を覚ましたリリスの真紅の瞳に、どこか暗い、切なげな翳りが落ちていた。


「……エンリ」

リリスは身を起こし、エンリの頬をそっと、壊れ物でも扱うかのように優しく撫でた。


「どうした、魔力酔いか?」


「……ううん。ただ、少しだけ怖くなったの」

リリスは自嘲気味に微笑み、エンリの胸に額を押し当てた。


「私、吸血鬼の真祖だから。この先何百年、何千年と生き続けるわ。……でも、貴方やジュリは人間。どんなに強くて、世界のシステムを書き換えられる神業を持っていても……『寿命』という物理的なエラーだけは、避けられない」


その言葉に、キッチンでプロテイン入りの特製ケーキを焼いていた秤珠里ハカリ・ジュリも、ピタリと手を止めてうつむいた。


「……リリス様の言う通りですわ。人間の細胞分裂には限界(テロメアの短縮)があります。……数十年後、王子様が老衰というエラーで消去ロストされてしまったら、私は……。それに、私のこの完璧な黄金比を誇る質量おっぱいも、いずれは重力という物理法則に敗北して垂れ下がって……っ」


ジュリが自らの胸をギュッと抱きしめ、涙ぐむ。

愛しているからこそ、失うのが怖い。自分だけが取り残されるのが、あるいは愛する人が先に老いていくのが怖い。

人間と人外の間に横たわる、絶対的で残酷な『時間の壁』。


ペントハウスのリビングが、かつてないほどシリアスで重い空気に包まれる。


「……はぁ」


だが、そんな二人の深刻な悩みを前に、バグの王子様は呆れたように深大な溜め息をつき、読みかけていた本をパタンと閉じた。


「お前ら、僕の能力を何だと思っているんだ。ダンジョンのシステムを丸ごとデリートした僕が、たかが『細胞の老化』ごときでエラーを吐くわけがないだろ」


「「え……?」」


エンリは左手袋の指先で、空中にコマンドプロンプトを展開した。


「人間の老化原因は、細胞分裂時のテロメアの短縮と、酸化ストレスによるDNAの損傷だ。……なら、そのパラメーター(仕様)を、リリスの『真祖の核』と同期リンクさせて固定すればいいだけだ」


カタカタカタ……ッターン!


エンリが猛スピードでキーボードを叩き込み、エンターキーをターン!と鳴らす。


「『物理定義・再記述オーバーライド』——細胞分裂リミッター(テロメア)の解除、ならびに肉体年齢の強制フリーズ。……ついでに、ジュリのおっぱいの重力耐性も『無限インフィニティ』に設定しておいたぞ」


ピキィィィィンッ!!


二人の身体を、淡い黄金色の光が包み込む。


「なっ……!? わ、私の体細胞データが、完全に最適化(不老不死化)されていますわ!? しかも、胸の張りが……重力を完全に無視して、永遠にこのパーフェクトな状態を維持できるようになっていますわァァッ!!」

ジュリが自分の胸を揉みくちゃにしながら、歓喜の涙を流して叫ぶ。


「うそ……。エンリの魂と私の魔力が、完全に同じ波長(永遠)で固定されている……っ。これで、貴方もジュリも、私と同じ時間を生きられるの……?」

リリスもまた、信じられないものを見るように両手で口を覆い、ポロポロと美しい涙をこぼした。


「当たり前だ。僕がわざわざ新世界を立ち上げたのに、お前たちが途中でログアウトするようなクソ仕様バッドエンド、放置しておくわけがないだろ」


エンリは眼鏡をクイと押し上げ、フッと不敵な笑みを浮かべた。


「……僕たちはこれから、永遠にお前たちの『過剰なデータ(愛情)』を処理し合わなきゃならないんだ。……せいぜい、長丁場を覚悟することだな」


「……あ、あああ……っ!! 王子様ぁぁぁッ!!」

「エンリぃぃぃッ……!! 愛してる、愛してるわ、私の永遠のデバッガー……ッ!!」


感動が限界突破した二人のヒロインは、もはやシリアスな悩みなど1ミリも残っていない様子で、凄まじい勢いでエンリに飛びついた。


「さあ! 永遠の時間が手に入ったのですから、今すぐ、ここから数百年ぶっ通しで『子孫繁栄プロセス』を回し続けますわよ!!」

「ええ! 私の血も魔力も全部あげる! さあエンリ、私を、私たちを、永遠にドロドロに溶かしてちょうだい……っ♡♡」


右からは、永遠の重力耐性を得たパーフェクトな質量おっぱい

左からは、永遠の愛を誓った真祖の魔力フェロモン


「……ああ、分かった。永遠に時間があるんだ、今日はたっぷり、奥までデバッグしてやる」


エンリも腹を括り、二人の腰を抱き寄せて、そのうなじと耳元へ、同時に熱い吐息と指先を這わせた。

永遠の時間を手に入れた三人。今度こそ、誰も見たことのない極上の熱交換が——。


「ひゃんッ!? ぁ、あガ……っ♡♡ む、無理、エンリの永遠の熱、きちゃ、あァァァァッ♡♡」

「んひゃッ……!! む、無理、脳が、焼き切れ、あッ……♡♡」


ビクンッ!! ビクビクビクッ!!!

ぷしゅぅぅゥゥ……。


……ものの数秒だった。

永遠の時間を手に入れ、感動で最高潮に達していたはずの二人だが、エンリの「能動的な物理アクセス」を受けた瞬間、またしてもキャパオーバーを起こし、幸せそうな顔で同時に気絶シャットダウンしてしまった。


「…………」


静まり返ったリビング。

細胞の老化は止まっても、この「即落ち仕様」だけは全くアップデートされていない二人のポンコツヒロインを見下ろし、エンリは深大な溜め息をついた。


「……永遠に時間があっても、メインプロセス(本番)に進むまでに数百年かかりそうだな、このクソ仕様……ッ!!」


不老不死を手に入れても、バグの王子様の欲求不満(熱暴走)だけは永遠に解決しそうにない。

ペントハウスには今日も、最高に幸せで、最高に進展しない限界同棲ライフの日常が流れていくのだった。

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