創世の揺りかご(ベビールーム)と、1000年目のログイン成功
世界が「再起動」してから、1000年の月日が流れた。
かつての新宿も渋谷も、今や緑豊かな美しい空中庭園へと姿を変え、人々はバグのない平和な物理法則の下で、穏やかな文明を謳歌している。
その世界を遥か上空から見守る、不可侵の領域——「神のペントハウス」。
そこでは、1000年前と全く変わらない姿の三人が、相変わらず騒がしくも甘い日常を過ごしていた。
「……ふぅ。今週の物理定数の微調整は、これで完了だな」
古海縁理は、宙に浮かぶ黄金のコンソールをパチンと閉じた。
1000年という時間は、彼をより深く、神々しい知性を湛えた「バグの神様」へと昇華させていたが、その本質は変わらない。今でも、左右から押し寄せる「過剰な愛情」に常に頭を悩ませる毎日だ。
「王子様……っ! いけませんわ、お仕事が終わったのなら、すぐに私の膝(特等席)へ! 今の私には、王子様の愛のパッチが、いつにも増して必要なんですの!!」
秤珠里が、1000年前よりもさらに艶やかさを増した秘書服(神装)を翻して、エンリの右腕に抱きついた。
その豊かな双丘——1000年経っても重力に一切敗北していない「永遠の質量」が、エンリを力強くホールドする。だが、今日の彼女の体温はいつもより少しだけ高く、その柔らかなお腹は、微かに、けれど愛おしく膨らんでいた。
「そうよ、エンリ。貴方の子供を宿した私を放置して、世界のデバッグだなんて……。私の本能が、寂しくてまたバグを起こしちゃうわよ?」
左側からは、漆黒のネグリジェを纏った真祖リリスが、エンリの首筋に甘く吐息を吹きかけながら擦り寄ってきた。
彼女の平坦で美しかったお腹もまた、今は生命の神秘(魔力)を宿し、穏やかな曲線を描いている。
「……ああ、分かっている。お前たちのバイタル(健康状態)は、僕が24時間体制でフルスキャンして、完璧に最適化しているからな」
エンリは不器用ながらも、左右に座る二人の膨らんだお腹に、そっと掌を当てた。
掌から伝わる、トクン、トクンという二つの小さな鼓動。
世界を再構築してから1000年。彼らが「子孫繁栄プロセス」を完遂し、この奇跡に辿り着くまでに、実に1000年もの月日が必要だった。
「……それにしても。まさか、あの『即落ち仕様』をデバッグするのに、1000年もかかるとはな」
エンリが遠い目をして呟く。
そう、二人のヒロインは、エンリが本気で触れると一瞬で果てて気絶してしまうという「鉄壁の脆弱性」を抱えていた。
エンリはこの1000年間、彼女たちの脳内報酬系を数ナノ秒単位でハッキングし、快感の閾値を極限まで引き上げる「愛の長期アップデート」を繰り返し、ようやく……ようやく、本番のタスクを完遂(ログイン成功)させることに成功したのだ。
「仕方ありませんわ! 王子様の雄としてのアクセスが、あまりにも規格外すぎるのが悪いんですもの! あの1000年続く濃厚な同期(夜)は、まさに宇宙の創世そのものでしたわ……っ♡」
ジュリが顔を真っ赤にしながら、1000年前の初夜(成功版)を思い出して身悶えする。
「ええ……。貴方の指先が、私の魔力回路を一つずつ丁寧にハッキングして、トロトロに溶かしていったあの感触……。思い出しただけで、またすぐに『強制終了』しちゃいそう……♡」
リリスもまた、トロンとした瞳でエンリを見つめ、自身のスレンダーな肢体を彼にねっとりと絡みつかせる。
「……おい、お前たちは今、大事な身体なんだ。あまり心拍数を上げるなと言っているだろ」
エンリは保護欲を全開にしながら、二人の腰を優しく引き寄せた。
「もうすぐ生まれてくるこの子たちは、僕のハッキング能力と、お前たちの物理(質量)と魔法(魔力)を継承した、新しい世界の『ルートユーザー』になる。……教育も大変になりそうだな」
「ふふっ。どんなに凄い能力を持っていても、王子様の愛の重さには敵いませんわ! 私たちが、最高の愛の仕様書(教育)を叩き込みますから!」
「そうね。……でも、子供ができても、貴方の隣は1ミリも譲らないわよ、エンリ?」
「……ああ。分かっている。お前たちとの同期は、この先1万年経っても、終わらせるつもりはないからな」
エンリは、母性という新しい属性を手に入れて、さらに愛が重くなった二人の正妻を、慈しむように強く抱きしめた。
窓の外には、永遠に続くかのような平和な新世界。
そしてペントハウスの中には、1000年越しのデバッグを終え、新しい家族という名の「幸せなバグ」を迎えようとしている、神様たちの終わらない限界同棲ライフが流れていくのだった。




