原点回帰(レガシー・コード)と、三位一体の神罰
「……ぐ、っ。……あぁ、そうか。……そういうことか」
自我が焼き切れ、ノイズに染まりかけていた古海縁理の脳内に、一つの冷徹な『最適解』が閃いた。
ジュリが自身の論理回路を外部メモリとして接続し、リリスが魂を削って消去の波動を食い止めている——その極限の愛が、エンリにコンマ数秒の「思考の空白(凪)」を与えたのだ。
「……ハッキング(高度な書き換え)が概念の壁で弾かれるなら。……余計な中間言語(論理)をすべて排除して、この世界の最も原始的な『物理定数』だけで直接殴り飛ばしてやる……!」
エンリは鼻から流れる血を拭いもせず、虚空に浮かぶ無数の高度なコンソールを、すべて手で薙ぎ払って強制終了させた。
代わりに彼が指先で描いたのは、物語の最初期に使っていた、あまりにもシンプルで、あまりにも暴力的な『一行の物理記述』。
「ジュリ。……僕に、お前の『重すぎる質量(愛)』をすべて貸せ。……解析はいらない、ただの『重さ』だけでいい」
「は、はいっ……! 王子様、私の……私のすべて(質量と熱量)を、貴方の指先に……一括送信いたしますわァァッ!!」
ジュリがエンリの背中にしがみつき、その豊かな双丘と自身の存在そのものを、物理的な『無限の重圧』へと変換してエンリに流し込む。
「リリス。……お前の魔力で、僕の記述に『本能的な強制力(呪い)』を付与しろ。……避けることも、消すこともできない、絶対の確定事項としてだ」
「……ふふっ、分かったわ。私の魂、全部あげる。……貴方の記述が、世界の理を置き去りにして、真の神へと突き刺さる『絶対の真実』になるように……ッ!」
リリスがエンリの右腕に自身の血と魔力を塗り込み、その細い肢体がさらに薄く透けていく。
三人の魂が、一つのベクトルへと収束する。
高度なハッキングではない。それは、世界が生まれた瞬間に設定された「重力」と「密度」という、あまりにも原始的な暴力の再定義。
「『物理定義・再記述』——基本定数:【無限】」
エンリが、バグ・ゴッドの巨大な胸部に向けて、右手袋を突き出した。
原点回帰——【事象の地平線】!!」
ドォォォォォォォォォォンッ!!!!!
瞬間、バグ・ゴッドの目前に、直径わずか数センチの『超極小の点』が出現した。
それは、ジュリの愛の質量と、リリスの魔力の呪い、そしてエンリの物理定数の固定によって生み出された、この世界で最も原始的な破壊——【特異点】だった。
『……なっ!? 概念が、消去のコマンドが、吸い込まれて……消える!? バ、馬鹿な! 高度な論理防壁を無視して、ただの「重力」が、神である私を侵食するなどォォッ!!』
バグ・ゴッドの巨大な身体が、抗いようのない物理の根源(初期技)によって、中心の一点へと無理やり圧縮されていく。
どれほど高度なバグ(論理エラー)であろうと、この世界に「存在」している以上、物理的な密度と重力からは逃げられない。
「高度なバグ(エラー)なら、原始的な重み(質量)で潰せばいい。……それが、この世界の最初のルール(仕様)だろ」
エンリが指先を握り込む。
——ギチギチギチ、パキィィィィンッ!!!
『あ、あああああああッ!! 世界が、私が、一点に……ッ! 救世主の……分際でェェェッ!!』
神様の断末魔と共に、数百メートルに及ぶ巨像は、自身の重みに耐えきれず自壊し、エンリが作り出した特異点の中へと完全に吸い込まれ——消滅した。
嵐が止み、ルート階層に絶対的な静寂が戻る。
「……ふぅ。……処理完了だ」
特異点を閉じたエンリは、膝から崩れ落ちそうになった。
だが、彼が地面に着く前に、二人のヒロインが彼を左右から支え、そのままベッドのように包み込んだ。
「……王子様! 素晴らしい、神の理すらも『ただの重力』でねじ伏せる初期技の輝き……! まさに、私の愛の質量が勝利を導いたのですわ!!」
「……ええ。私の魔力も、最高のスパイスになったわね。……ねえ、エンリ。神様もいなくなったし、この純白の空間で……今度こそ、私たちの『新しい世界の初期化(初夜)』を始めましょう?」
ジュリはボロボロになりながらも、その豊かな胸をエンリの顔にムギュゥッと押し付け。
リリスもまた、透けるような身体でエンリの首筋を甘く噛み、自身の熱を分け与えようとする。
「……お前ら。神を倒した直後だぞ、少しは……休ませろ……ッ」
エンリの顔は、勝利の達成感よりも、二人の過剰な愛による「心拍数上昇(熱暴走)」で真っ赤に染まっていた。
世界の物理法則を書き換えたバグの王子様も、この二人の『愛の初期設定』だけは、どんな高度なハッキングを使っても、一生デバッグできない仕様になっているようだった。




