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時間軸のスタック(巻き戻し)と、フレーム固定の算段

渋谷ダンジョン中層、『クロノス・スクランブル』。

ねじ曲がったビル群が万華鏡のように空を覆い、時折、空間そのものが「巻き戻る」ようにノイズを立てる異様なエリアだ。


古海縁理フルミ・エンリは、高層ビルの屋上の端に腰を下ろし、眼下の広場で繰り広げられている『惨劇』を無表情に観察していた。


「……なるほど。あれが【クロノス・バグ】の演算処理(戦い方)か」


視界の先では、数百人の『ホワイト・ナイト』の軍勢が、たった一人の男を取り囲んでいた。

男の名は、【第734巡回ループ・シュプリンゲ】。

ボロボロの時計のぜんまいを背負い、虚ろな目で笑う狂信者のリーダー格だ。


消去デリートを実行します」

天使の姿をしたホワイト・ナイトが一斉に光の槍を放ち、シュプリンゲの心臓を、頭部を、四肢を完璧に貫いた。


致命傷。本来ならそこでデータは消滅するはずだ。——だが。


「……あは、あはは! 『セーブポイント』に戻るよ……ッ!」


——ガガガッ、ピキィィィィンッ!!


シュプリンゲが叫んだ瞬間、世界に激しいノイズが走った。

次の瞬間、ホワイト・ナイトの槍が突き刺さる『5秒前』に、すべてのオブジェクトが強制的に巻き戻されたのだ。

シュプリンゲは傷一つない状態で、あざ笑うかのように槍の軌道をひらりと回避し、逆に天使たちの首を次々と撥ね飛ばしていく。


「……信じられない。完全に死んだはずなのに、一瞬で『なかったこと』にされたわ。……ねえ、エンリ。あんなの、どうやって倒せばいいの?」


エンリの左側にぴったりと膝立ちで寄り添うリリスが、不安げに彼の耳元に囁いた。

彼女はエンリの首筋に自身の細い指先を這わせ、そのまま鎖骨のラインをなぞるように愛撫しながら、魔力を帯びた熱い吐息を吹きかけてくる。


「……ひゃんっ、リリス、そこは……ッ」


「ふふっ。不安な時は、こうして互いのバイタル(鼓動)を密着させて、魂の波長を同期させるのが一番よ……。ほら、もっと私の『熱』を感じて?」


リリスはエンリの耳たぶを優しく唇で食むと、そのまま彼の胸元に自身のスレンダーな肢体をぐいぐいと押し付け、魔法的な多幸感を直接脳内へと流し込んできた。


「王子様、リリスさんの非合理な誘惑にリソースを割いてはいけませんわ! 敵のアルゴリズム解析には、私の『最新式・耳掃除マインド・クリーン』が最適ですわ!!」


右側では、ジュリが自慢の太ももを惜しげもなく晒し、エンリを自身の膝へと優しく引き倒した。

エンリがジュリの柔らかい膝枕に収まると、彼女は極細の綿棒(自作のアーティファクト)を取り出し、エンリの耳の奥を、背筋がゾクゾクするような絶妙なタッチで掃除し始めた。


「……っ、ぁ、あガ……ッ! ジュリ、そこは……脳が、溶ける……ッ!!」


「ふふっ♡ 耳の中の迷走神経を直接ハックして、脳内メモリをクリアにしているのですわ! さあ王子様、最高の快感の中で、あのゴミデータを解析してくださいませ!!」


膝枕による頭部への物理的な癒やし(と、視界を塞ぐ豊かな双丘)。

耳たぶへの魔法的な刺激(と、首筋へのねっとりとした愛撫)。

エンリは、究極の「いちゃいちゃの波状攻撃」によって処理落ち寸前になりながらも、眼鏡をクイと押し上げ、眼下のシュプリンゲを睨みつけた。


「……解析完了だ。あいつがやっているのは『時間の支配』なんて高尚なものじゃない。……単なる『メモリの書き換え(ロールバック)』だ」


エンリは、ジュリの太ももの弾力を感じながら、空中に座標データを展開した。


「あいつは自分の周囲の空間情報を、5秒おきに一時メモリ(キャッシュ)に保存している。そして自分が『死亡』というエラーを吐いた瞬間に、そのメモリを強制的にロードして、現在の状態ステータスを上書きしているんだ」


「ロールバック……? じゃあ、何度攻撃しても無駄ってこと?」

リリスがエンリの指先をペロリと舐めながら、不思議そうに首を傾げる。


「いいえリリスさん。データには必ず『書き換え不能な領域』が存在しますわ。……そうですわよね、王子様?」


「……ああ。あいつがロールバックできるのは『空間内のオブジェクト』だけだ。……なら、僕があいつの『時間ID』そのものをハッキングして、物理的に『フリーズ(固定)』させてやればいい」


エンリの瞳が、ハッカーとしての冷徹な光を帯びる。


「あいつが巻き戻る前の『死んだ瞬間』に、その座標の時間を固定ロックする。そうすれば、どれだけメモリをロードしようとしても、あいつは『死んだ状態』から一歩も動けなくなる。……いわゆる、無限ロードの地獄だ」


「……あはっ! さすが私の王子様、残酷で最高だわ……♡」

「ええ! 王子様の『絶対停止ハック』の前では、死すらも永遠のループに閉じ込められるバグに過ぎませんわ!!」


二人のヒロインは、エンリの無慈悲な解決策に陶酔し、さらに激しく彼に肌を擦り付けた。


「……よし、対策は決まった。行くぞ。……あいつの持っている『時間鍵タイム・キー』、僕のフォルダに強制的にぶっこ抜いてやる」


最強の有能秘書と、最凶の吸血鬼。

そして、時間のシステムすらもデバッグするバグの王子様。

三人は、終わらないループに囚われた狂信者たちを『完全フリーズ』させるため、静かに屋上から舞い降りるのだった。

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