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ホットリブート(炊き出し)と、事象の地平線の書き換え

「……悪いが、お前たちが持っている食料は、すべてここで吐き出してもらう」


【鉄の心臓アイアンクラッドのレオン】が、義手の指先をギリリと鳴らし、殺気を込めてエンリを睨みつけた。

彼の背後にいるレジスタンス【ラスト・ワン】の面々も、飢えと疲労で血走った目をしている。ここでは食料こそが唯一の通貨であり、命そのものだ。


「力ずくでも奪わせてもらうぞ。……お前らみたいな、浮かれた新入りに食わせる無駄なカロリー(資源)はこのダンジョンにはねえんだよッ!!」


「……奪う、か」

古海縁理フルミ・エンリは、左右から自分に抱きつくジュリとリリスの重みを感じながら、冷淡にレオンを見返した。


「そんなに腹が減っているのか? 演算回路(脳)が正常に機能しなくなるほどに」


「あぁ!? 舐めてんのかてめぇ! この隔離領域じゃあ、腐った魔獣の肉を食うのだって命がけなんだよ! 温かいメシなんて、もう数年拝んでねえッ!!」


「……なるほど。なら、少しばかりリソースを再配分リアロケートしてやろう」


エンリが、右手袋の指先をパチンと鳴らした。


——ピキィィィィンッ!!!


レオンたちの周囲の空間に、数十もの小さな『虚空のヴォイド・ゲート』が出現した。


「なっ……ッ!? 空間転移だと!?」


レオンが身構えた次の瞬間。

その無数のポータルから溢れ出してきたのは、凶悪な魔獣でも、殺傷兵器でもなかった。


漂ってきたのは、食欲を暴力的に刺激する、香ばしいニンニクの香りと、脂の乗った肉が焼ける音。

最高級のサーモンステーキ、揚げたての鶏の唐揚げ、湯気を立てる山盛りの炊き立てご飯、そして芳醇な香りのシチュー。


新宿のペントハウスから『空間座標の固定ハック』によって直接転送された、出来立ての豪華料理の数々が、レオンたちの目の前の瓦礫の上に、まるで宮廷の晩餐会のようにズラリと並べられた。


「……え、あ……?」


「『物理定義・再記述オーバーライド』——温度情報の完全維持。……冷める前に食え。今の僕にとって、この程度の物資データの転送は、バックグラウンド処理(片手間)で十分だ」


レオンとサラ、そしてレジスタンスの連中は、目の前の光景が信じられず、ただ呆然と立ち尽くしていた。

数年、いや一生かかってもお目にかかれないような、温かく、清潔で、完璧な料理。


「ひ、ひぃぃ……ッ! 本物だ! 本物の、温かいメシだ……!!」


一人のメンバーが堪らず唐揚げを口に放り込み、そのあまりの旨さに「あガッ……!」と嗚咽を漏らした。それを皮切りに、飢えた野獣のように、レジスタンスたちは料理にむしゃぶりついた。


「う、うめぇ……! うめぇよ、おい……ッ! 喉が、喉が熱い……ッ!」


「あぁ……っ。死んだ仲間に、一口でも、食わせてやりたかった……っ!」


鉄の男と呼ばれたレオンですら、震える手でシチューを口にし、その温かさに義眼ではない方の目から、大粒の涙をボロボロとこぼしていた。


「……さて。腹が膨れたなら、次だ」


エンリが再び指を鳴らす。

今度は、レオンたちが「二度と出られない」と言い切った、消滅したはずの入り口の座標に向けて。


——ズゴォォォォォンッ!!!


そこに出現したのは、レオンたちがこれまで見たどのポータルよりも巨大で、安定した『光の門』だった。

門の向こう側には、昼下がりの穏やかな新宿の街並みが、はっきりと映し出されている。


「な……ッ!? バ、馬鹿な!? この領域は、外部管理者(真の神)によって座標が完全に隔離されているはずだぞ!? 外へ繋ぐポータルなんて、物理的に不可能なはずだ!!」


「不可能ではない。僕がこの世界の『脆弱性バグ』を、直接ハッキングして書き換えたからな」


エンリは、ジュリの豊かな胸と、リリスの甘い吐息に挟まれたまま、淡々と告げた。


「帰りたければ帰してやる。ここから先は、僕とこの二人の『プライベートなデバッグ(デート)』の時間だ。……邪魔なノイズ(お前たち)は、退場してくれて構わないぞ」


「……あ、ああああ……ッ!!」


レオンは、開かれた新宿への門と、目の前で圧倒的な力を振るうエンリを交互に見た後、その場に深々と膝をつき、額を地面に擦り付けた。


「……オレたちが、間違っていた。……お前は、新入りなんかじゃねえ。……この地獄に現れた、唯一の救世主デバッガーだ……!!」


「王子様! 私たちのハッキング能力にひれ伏すデータたち(レジスタンス)の姿、最高に合理的ですわね! さあ、彼らを外へ放り出したら、この誰もいない渋谷で、改めて私たちの『心拍数同期いちゃいちゃ』を——」


「ええ、そうね。もうお邪魔虫はいらないわ。……エンリ、この絶望の街を、私たちの愛の熱量でドロドロに溶かしてしまいましょう……♡」


「……お前ら、だから重いと言っているだろう。レオン、お前もさっさと立て。……行くぞ、神様へのルートを確定させる」


数年ぶりの温かい料理と、絶対的な帰還の保証。

絶望に震えていた【ラスト・ワン】の生存者たちは、もはやエンリを「舐めている」どころか、神として崇める忠実な下僕ユーザーへと成り下がっていた。


バグの王子様と、愛が重すぎる二人のヒロイン。

彼らの蹂躙劇は、渋谷の生存者たちを圧倒的な「施し」で味方に付け、いよいよこの世界の管理者(神)が潜む、さらに深いディレクトリへと突き進んでいくのだった。

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