限界同棲ライフと、学習しないポンコツ防壁
新宿の一等地にそびえ立つ、超高級タワーマンションの最上階。
数百兆円の資金にものを言わせて購入したその空間は、ダンジョンの深層よりも遥かに快適で、そして遥かに『危険な領域』と化していた。
「——王子様! 朝のエネルギー補給のお時間ですわ!」
朝の陽ざしが差し込む広大なリビング。
古海縁理がソファでコーヒーを飲んでいると、キッチンから秤珠里が凄まじい勢いで飛び出してきた。
彼女の姿を見て、エンリは思わず飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
ジュリが身に纏っているのは、フリルのついたエプロン……『だけ』だったのだ。いわゆる裸エプロンである。エプロンの横からは、その圧倒的な質量の双丘が、重力に従ってこぼれ落ちそうになっている。
「……ジュリ。お前、その格好はなんだ。服のテクスチャがバグってるぞ」
「バグではありませんわ、究極の最適化です! 室内における私の体温(CPU温度)を一定に保つための、最も放熱効率の良い『冷却装甲』ですの! さあ王子様、私が物理的に愛情を込めて捏ねたハンバーグを、あーんでデバッグしてくださいませ!」
ジュリがエンリの隣にぴったりと座り込み、エプロン越しの素肌と豊かな胸を、エンリの腕にむにゅりと押し付けてくる。
「朝からハンバーグは胃の処理が重すぎる。それに、エプロン一枚で引っ付かれたらこっちの熱が上がるだろうが」
「——その通りよ。朝からそんな脂っこい肉塊を押し付けるなんて、本当に品がないわね」
そこへ、ゆったりとした足取りで真祖リリスが現れた。
彼女が纏っているのは、昨晩と同じく、肌が完全に透けて見える漆黒のネグリジェ。スレンダーな肢体と小悪魔的なプロポーションが、朝の光に照らされて妖しい魅力を放っている。
「エンリ。朝はもっとエレガントに、流動食で済ませるべきよ。……ほら、私の魔力をたっぷり溶かし込んだ『特製のモーニング・ブラッド』よ。グラスなんか使わずに、私の唇から直接、貴方の体内にダウンロードしてあげるわ……♡」
リリスはエンリのもう片方の隣に座り、自身の赤い唇をペロリと舐めながら、魔力を帯びた甘い吐息をエンリの耳元に吹きかけた。
「なっ……! 朝から直接的な粘膜接触を要求するなんて、どっちが下品ですの! 王子様の胃袋の管理は私のタスクですわ!」
「あら、胃袋より魂(本能)を満たしてあげる方が、彼も喜ぶに決まっているじゃない」
右からは、エプロン一枚の有能秘書による物理的圧迫。
左からは、透け透けネグリジェの吸血鬼による魔法的誘惑。
ペントハウスでの同棲ライフが始まって数日。
毎朝、毎晩、この二人の『限界DDoS攻撃(愛の過剰供給)』が繰り返されていた。
「……お前らな」
エンリは、両手に花の状態のまま、ふぅ、と深い溜め息をついた。
「昨晩の『シャットダウン(気絶)』から、何も学習していないのか?」
「「……ッ!」」
エンリの言葉に、ジュリとリリスの肩がビクッと跳ねる。
昨晩の初夜(未遂)。自分たちから盛大に誘惑しておきながら、エンリから直接触れられた途端にキャパオーバーを起こし、気絶してしまったというポンコツすぎる失態。
「そ、それは……! 昨日はたまたま、私の処理能力に一時的なエラーが起きただけで……っ!」
「わ、私だって! 久々の地上の空気に魔力酔いしただけだわ! 今の私なら、貴方にどう触れられようと余裕なんだから!」
強がる二人を見て、エンリの口角が、ハッカー特有の『悪い笑み』の形に釣り上がった。
「……ほう。なら、もう一度『負荷テスト(ストレステスト)』をしてやる。……逃げるなよ」
エンリは手に持っていたコーヒーカップをテーブルに置くと、左右に座る二人の腰を同時に力強く抱き寄せ、ソファの上に押し倒した。
「ひゃっ!?」
「あンッ!?」
エンリは、ジュリの裸エプロンの隙間に直接手を差し込み、その柔らかな素肌をなぞりながら、彼女の耳元を甘噛みした。
同時に、リリスの透けたネグリジェの上からスレンダーな太ももを撫で上げ、彼女の急所であるうなじに熱い吐息を吹きかける。
「お前らがその気なら、朝食より先に……お前らのデータを隅々まで解析してやる」
エンリの低く、熱を帯びた雄の囁き。
そして、同時に繰り出される容赦のない物理的愛撫。
「あ、あぁぁぁっ♡ お、王子様っ、ダメ、朝からそんな直接的なアクセスはっ……! ああっ、私の冷却装甲の意味が……熱い、熱すぎましゅ……ッ♡」
「ひぃッ……! 嘘、やだ、エンリの指、凄っ……! 魔力が、溶け、あァッ……! 好きぃ、もっとハッキングしてぇぇぇッ♡」
バタッ。
ぷしゅぅぅぅゥ……。
ものの数十秒。
強がっていた有能秘書と、余裕ぶっていた吸血鬼の真祖は、エンリの能動的な愛撫の前にまたしても防壁を完全破壊され、だらしない嬌声を残してソファの上で仲良く気絶してしまった。
「…………ええ」
静まり返ったリビング。
朝から完全に『その気』にさせられ、下半身に特大のエラー(熱)を抱え込んだまま、またしても一人取り残されたバグの王子様。
「……おい、起きろ。……ここで強制終了するとか、本当にどういうシステム構成してんだお前ら……ッ!!」
ペントハウスの豪華なソファで、気を失って幸せそうに微笑む二人の絶世の美女。
エンリは、自らの暴走しそうな熱をどうにか冷却させるため、朝から冷水シャワーを浴びに向かうという、最高に理不尽でフラストレーションの溜まる『限界同棲ライフ』の洗礼を浴び続けるのだった。




