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ゴミ箱のリサイクルと、最弱のポーター(元パーティー)

「『物理定義・全置換フル・オーバーライド』——完了。これでこの世界シミュレーション優先権プライオリティは僕に移行した」


純白のソースコア領域。

古海縁理フルミ・エンリが空中に展開した無数のコンソールをパチンと閉じると、荒れ狂っていたデータの奔流が静まり、穏やかな黄金の光へと変わった。

管理AIデミウルゴスは、すでに権限を奪われ、ただの光の球体となってエンリの足元に転がっている。


「さすがですわ、王子様! 世界そのものを自らのフォルダに格納してしまうなんて、もはや全知全能のデバッガーを超えた、唯一無二の創造主クリエイターですわ!!」


「……ああ、心地いいわね。エンリの書き換えたこの世界、魔力の巡りが以前よりずっと『私好み』になっているわ。……ねえ、このままここで、新しい世界の初夜を始めない?」


左右から抱きついてくるジュリの『圧倒的な質量』と、リリスの『妖艶な魔力』。

世界の王になっても、エンリの心拍数(CPU負荷)が二人によってオーバーフローさせられているのは、もはや仕様デフォルトだった。


「……待て。作業のついでに、放置していた『ゴミデータ』の処理を済ませておく」


エンリはふと思い出したように、指先で空中に小さな円を描いた。

昨日、お風呂でそっ閉じした「簡易ブラックホール(ゴミ箱)」へのアクセスポートだ。


「『セクター:カケル』——隔離データの強制排出」


——ボトボトボトッ!!


虚空から、ボロ布のような塊が三つ、床へと吐き出された。

かつてエンリを「無能な荷物持ち」と罵って追放した勇者カケル、聖女ミサ、そして重戦士の男だ。

彼らはブラックホールの超重力で身体を引き延ばされ続けた結果、服はボロボロ、顔は恐怖と苦痛でくしゃくしゃになり、もはやかつての面影など微塵もなかった。


「……あ、ア、アガ……。こ、ここは……?」


カケルが震える手で顔を上げ、眩い光の中に立つエンリの姿を捉えた。


「よお、カケル。……まだ生きていたみたいだな」


「エ、エンリ……!? 貴様、エンリなのかッ!?」


状況が掴めていないカケルは、エンリの無傷な姿と、その左右に侍る絶世の美少女二人を見て、瞬時にかつての傲慢さを取り戻した。


「おい! 何なんだこの場所は! それにその女たちは……! 貴様、今までどこで何をしていた! なぜもっと早くオレたちを助けなかったんだッ!!」


カケルが立ち上がり、エンリに向かって指を差して凄む。


「分かってるのか!? オレたちはこのパーティーのリーダーだぞ! 無能な荷物持ちの分際で、オレたちをあんな地獄に放置しやがって……! 謝罪しろ! 今すぐオレたちを回復させて、持っている宝を全部差し出せッ!!」


「……はぁ」


エンリは眼鏡をクイと押し上げ、心底呆れたように溜め息をついた。

もはや、怒る気すら起きない。あまりにも情報の解像度が低すぎる。


「……不愉快ね」


冷たく、そして絶対的な死を予感させる声が、リリスの唇から零れた。


「え……?」


カケルがリリスの姿を真正面から捉えた瞬間——。


——ドォォォォォォォォォォンッ!!!!!


「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


カケルたちの周囲の空間が、リリスが放った真祖の『魔力のプレッシャー』によって物理的に陥没した。

リリスは一歩も動かず、ただ真紅の瞳でカケルたちを「ゴミを見る目」で見つめただけだ。だが、その一瞥だけで、カケルたちの骨は軋み、魂は恐怖で凍りついた。


「私の王子様に対して、その汚い指を向け、その下劣な声を浴びせる……。貴方たち、自分が今どんな存在に口を利いているか、脳の構造スペックが低すぎて理解できていないのかしら?」


「ひ、ひぃぃ……! た、助けて……っ!」


「命乞いなら、地面を舐めながらしなさい。……もっとも、貴方たちの命に、私の王子様の1秒を消費させる価値なんてないけれど」


リリスの冷徹な殺気に、カケルたちは文字通り「平伏」し、床に額を擦り付けてガタガタと震え出した。

聖女ミサに至っては、あまりの恐怖に腰を抜かして震えている。


「あらリリス様、そんなに怖がらせては効率が悪いですわ。……王子様、ご提案です」


ジュリが有能な秘書らしく、眼鏡をキラリと光らせてエンリに耳打ちした。


「このゴミデータたちをこのまま消去デリートするのは簡単ですが、ソースコア周辺には地上のギルドが高値で買い取る貴重なアーティファクトの残骸が山ほどあります。……せっかくですから、彼らを『本来の役割』に戻してあげてはいかがでしょうか?」


「本来の役割……?」


「はい。彼らが王子様に押し付けていた、あの『荷物持ち(ポーター)』ですわ」


ジュリの言葉に、エンリはなるほど、と口角を上げた。


「……採用だ。カケル、お前たちの命、まだ消去しないでおいてやる」


「……っ、ほ、本当か……!?」


「ああ。……その代わり、これから地上まで、僕たちが回収したこの重いアーティファクトの数々、全部背負って運んでもらうぞ。一歩でも遅れたり、一つでも傷つけたら……またあのブラックホールに戻してやる」


エンリが指を鳴らすと、周囲にあった数トンはあろうかという巨大な宝箱や、超硬度の魔石の塊が、ドサドサとカケルたちの背中の上に強制的にマウントされた。


「ぐ、ぐぅ……ッ! お、重い、重すぎる……ッ!」


「何してる、早く立て。……さあ、地上に帰るぞ。僕たちの『新しい世界』の披露宴(ギルド報告)の準備が必要だからな」


かつての「無能な荷物持ち」は、今や世界の理を支配する唯一神となり。

かつての「傲慢な勇者」たちは、その神の足元で、無様に重荷を背負って這いつくばるだけの家畜へと成り下がった。


「王子様、帰り道も私の『愛のナビゲート(密着)』でしっかりサポートさせていただきますわ!」

「私もよ。地上の寝室まで、貴方の隣は誰にも譲らないわ」


「……お前ら、だから重いって……。荷物はあいつらに持たせてるんだから、少しは離れろ……ッ」


こうして、ダンジョンの完全攻略を果たしたバグの王子様一行は、絶望の絶叫を上げながら荷物を運ぶ元パーティーを引き連れて、堂々と地上への帰還路(凱旋)を開始するのだった。

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