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不器用なルート指定と、心が通う熱交換

新宿第4ダンジョン最深部——吸血鬼の城、VIP専用の寝室。


「……はぁ。やっと一息つける」


大浴場での激しすぎる「限界デバッグ(いちゃいちゃ)」を終えた古海縁理フルミ・エンリは、ふかふかの天蓋付きベッドに腰を下ろし、タオルで濡れた髪を拭いていた。

彼の傍らでは、当然のように同じベッドに上がり込んだ秤珠里ハカリ・ジュリが、自身の髪を乾かしながらエンリの体調バイタルを満足げにチェックしている。


トントン、と。

静かなノックの音と共に、寝室の重厚な扉が開いた。


「夜の寝心地はいかがかしら、私の特異点バグの王子様」


甘い香りを漂わせて現れたのは、真祖リリスだった。

だが、彼女は一人ではない。その後ろには、透き通るような肌と蠱惑的なプロポーションを持った、絶世の美女と呼ぶにふさわしい吸血鬼のメイドたちが数名、恭しく頭を下げて控えていた。


「……なんだ、その後ろの連中は」

エンリが怪訝そうに眉をひそめる。


「私のクランが誇る、極上の『夜の奉仕係』たちよ」


リリスは優雅に微笑み、メイドたちを手招きした。


「貴方は私たちの世界を理解してくれた、最高の大賓客。パノプティコンの無粋な連中とは違い、私たちは歓待の礼儀というものを知っているわ。……彼女たちは、どんな要求にも完璧に応えるように教育されているの。今夜は彼女たちの『ご奉仕』で、その疲れた頭脳を芯から癒やして頂戴?」


リリスの合図で、メイドたちが妖艶な微笑みを浮かべ、エンリのベッドへと近づいてこようとする。

それを見たジュリが、即座にエンリの前に立ち塞がって威嚇の声を上げた。


「なっ……! 断じて許可できませんわ! 私という完璧な専属秘書がいながら、有象無象の女どもに王子様の夜のケアを任せるなど、言語道断です!!」


「あら、乳牛さん一人の重苦しいお世話じゃ、彼も息が詰まるでしょう? これはクランの長としての、私なりの合理的な『おもてなし』よ。もちろん、彼女たちの技術テクニックは私の保証付き。……ねえ、エンリ? たまにはこういう遊びも——」


「……帰れ」


エンリの、絶対零度のように冷たく、一切の感情を排した声が寝室に響いた。


「え……?」

リリスが驚いて目を瞬かせる。


「君のクランの流儀は勝手だが、僕のパーソナルスペース(領域)に不要なデータを持ち込むなと言っているんだ。……今すぐ全員、部屋から出ろ」


エンリはメイドたちを一瞥することもなく、ただ静かに、しかし絶対的な拒絶の意思を示した。

そのあまりの冷徹さに、メイドたちが怯えたように後ずさる。


「……あら。お気に召さなかった? 彼女たち、見た目もスタイルも地上のアイドルなんかよりずっと——」


「そういう問題じゃない」


エンリは濡れた髪をかき上げ、鋭い視線をリリスへと向けた。


「……感情の伴わない、ただ命令されただけの一方的な処理(奉仕)など、ただの肉体労働タスクに過ぎない。そんな無機質なもので、僕の心拍数が最適化されることはない」


「え……?」


「……誤解するなよ」


エンリはふいと視線を逸らし、少しだけバツの悪そうな表情で、言葉を紡いだ。


「……互いのソースコード(心)を理解し合っている関係なら、そういう行為によるパラメーターの変化スキンシップも……まぁ、悪くはないと思っている」


「……ッ!!」


「だが、それは僕が『アクセスを許可した相手』だから成立する話だ。顔も、心も通い合っていないツール(道具)をあてがわれて喜ぶほど、僕のセキュリティは甘くない。……そういうことだ」


シン、と。

寝室の中に、静寂が落ちた。


エンリの言葉は、ハッカーとしての理屈でコーティングされてはいるものの。

その真意は、明白だった。


『心が通じ合っている相手ジュリやリリスとなら、そういう行為も悪くない』と。

彼なりの、遠回しで不器用な、特大の「デレ(好意の証明)」だったのだ。


「……お、王子……様……ッ!?」


最初に反応したのは、ジュリだった。

彼女の顔が、ゆでダコのように真っ赤に染まり、その豊満な胸が激しい心拍で大きく上下している。


「あ、あああ……っ! 今、王子様は明確に『私とのスキンシップなら悪くない』と、私のアクセス権限(正妻ポジション)を公式に承認してくださったのですね!? そういうことですよね!?」


「……勝手に都合よく解釈するな。一般論の話を——」


「いいえ! これは紛れもないバグの王子様からの愛の告白(ルートコードの開示)ですわ!! ああ、私の愛の質量が、ついに王子様の強固なファイアウォールを突破したのですね!!」


ジュリは歓喜のあまり涙を流し、そのままエンリに凄まじい勢いでダイブして、その首にがっちりと抱きついた。


一方のリリスもまた、メイドたちを下がらせると、スレンダーな身体を微かに震わせ、頬をほんのりと桜色に染めていた。


「……ふふっ。本当に、貴方って人は……。小賢しい理屈を並べるくせに、変なところで真っ直ぐなんだから」


リリスは小悪魔的な笑みを浮かべながらも、その真紅の瞳には、かつてないほど熱く、深い愛情の光が宿っていた。


「……ええ。貴方の言う通りだわ。心も通っていない人形の奉仕なんて、貴方には不釣り合いね。……なら、私が責任を持って、貴方の『心拍数』を最適化してあげる」


リリスはヒールを脱ぎ捨てると、ベッドの上でエンリに抱きついているジュリの横に滑り込み、エンリの空いている方の腕に自らの身体をぴったりと密着させた。


「なっ……! 泥棒猫、ここから先は私と王子様だけのプライベートなデバッグ領域ですわよ!!」

「あら。彼が『アクセスを許可した相手』には、当然この私も含まれているはずでしょう? ね、エンリ?」


リリスの甘い吐息がエンリの耳元をくすぐり、ジュリの豊かな胸がエンリの胸板を圧迫する。


「お、おい! お前ら、話を聞け! 僕はただ、無駄なデータを受け入れないというセキュリティの方針を語っただけで——」


「言い訳は不要ですわ、王子様! さあ、心が通じ合った私たちによる、夜通しの『熱交換』を始めましょう!!」

「ええ、貴方のその特別な血と理性を、私が朝までじっくりとハッキングしてあげるわ……♡」


「……くそっ、お前らの思考回路ロジックはどうなってるんだ……ッ!!」


リリスの用意したご奉仕は回避したものの。

自身の不器用な発言によって二人のヒロインの『愛の暴走モード』のスイッチを完全に押し込んでしまったバグの王子様は、この後、朝が来るまで一睡もできない過酷な「システムテスト(添い寝と密着)」に耐え続けることになるのだった。

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