1-3 婚約者に会います
「アリシア、ちょっとその恰好はだめよ。」
私がいつも着ている水色のワンピースを見てお母様が声をかける。
「こんなにおしゃれなのに?では、どんな格好をすればいいのですか?」
私は、これでもおしゃれをしたつもりだったので、首をかしげながらお母様に尋ねた。
なんでこんなことをしているのかというと、とうとう私の婚約者のロラン・アシュフォード様に会う日だからだ。
今日は、私にとっても大切な日。アシュフォード家の様子をよく見てこなければ...
あの後、アシュフォード家の経済状態を聞こうと思っても、なんだか聞けない雰囲気になってしまった。
今日はよく見極めないとーー
そして、おうちが大丈夫なら、今度は私を気に入っていただかなくては...
なかなか私にとっても重大な日だ。
「アリシア!聞いているの?今日は、婚約の初顔合わせですよ。貴族同士の婚約にワンピースだなんて...ほら、早くドレスに着替えて。」
お母様にせかされて、部屋に戻る。
うちのたった一人の大切なメイドのサリーに私が持っている唯一のドレスを出してもらう。お母様が少女の頃に着ていたものをいただいた、大切な緑色のドレス。それを着ると、大好きなお母様に近づけたような気がして嬉しくなるからだ。
そうよね。今日は大切な日だものね。
そのドレスを着た途端ーー
なんだかお母様に守られているような気がした。
私、この領地のために頑張ります!
私は、一人拳を握った。
「なんてかわいいんだ。アリシア。まるで妖精のようじゃないか。」
お父様は、目を丸くしてそう言った後、私を優しく抱きしめてくれた。
「私のドレスが似合う年頃になるなんて...着てくれてうれしいわ。あなたは私たちの自慢の娘よ。」
お母様も私の姿を見て、目を細めている。
「シア姉さま。すごくきれい!相手の方もきっと姉さまのこと好きになっちゃうよ。」
エドワードも私の手を取ってエスコートのまねごとをしている。
「お母様のドレスが素敵で、私もうれしいです。今日はよろしくお願いします。」
私は、お父様とお母様にカーテシーをしてみせた。
アシュフォード家は隣の領地だったけれど、馬車で何時間もかかった。私は、初めて連れてきていただいた。お父様とアシュフォード侯爵は、学園時代に仲良くなって、その後も時々連絡を取り合っていたらしい。
馬車が停まったのは、それは大きなお屋敷だった。
「やあ、久しぶりだな。トーマス。遠いところよく来てくれたね。今日は会えてうれしいよ。」
馬車から降りて屋敷に案内されると、アシュフォード侯爵と侯爵夫人が私たちを出迎えてくれた。
「こちらこそ、呼んでくれてありがとう。今日はよろしく頼むよ。」
お父様同士、握手をしながら再会を喜んでいた。
お母様同士も和やかにあいさつを交わしている。
「立ち話もなんだ。まずは座ってくれたまえ。」
私たちは、白を基調とした豪華なテーブルや椅子の並んだ部屋で話をすることになった。
「あの子ったら何しているのかしらね。すぐに来るようにちょっと声をかけてきてくれる?」
侯爵夫人が執事に声をかけ、ロラン様を呼びに行ってもらったらしい。
「まずはお菓子はいかが?とてもおいしいのよ。アリシアさん。」
侯爵夫人が気を遣って私に声をかけてくれた。
テーブルには、見たこともないような立派なお菓子が並んでいる。
「ありがとうございます。それでは、そちらをいただきます。」
私も、お母様に一応淑女教育は習っている。今日は、その実践だ。食べたいからとどんどん手に取って食べてはいけない。
私は、なるべく優雅に見えるようにゆっくり、少しずつを心掛けて食べた。緊張していたからか、甘いだけでそれ以外の味はよく分からなかった。
やはり、私はお母様が作ったお菓子の方が好きだな。そんなことを考えてしまった。
お父様もお母様もそれぞれ話に花が咲いている。
それにしてもロラン様はまだかな?もしかしたら朝の私みたいに、衣装について注意されて着替えているのかな?ということは、私たち似た者同士なのかしら?
そんなことを考えていたら、少し大きめの足音が聞こえてきた。
ガチャッ。扉が開いて、茶色の髪をさらさらと揺らし、緑色の瞳の美しい男性が現れた。
「父上。私はまだ了承していませんからね。今日はとりあえず顔は出しましたから。それでは。」
怒ったように一方的に話し、部屋を出ていった。
「ロランったら。ごめんなさいね。最近ちょっと気が立っているみたいで...」
侯爵夫人は私の方を向いてすまなそうに話した。
「全く!申し訳ない。次までには、きちんと話しておくから...」
侯爵もお父様に向かって謝っている。
「そういう年頃なのかな。もう学園に通っているのだろう。それにしてもロラン君、君に似て素敵な紳士に成長したな。」
お父様が侯爵と話し始めた。
ロラン様の言葉がまるでなかったように、またみんなでお茶をしながら話し出した。
私は一人、ロラン様素敵な人だったな。おうちも素敵だし...よし!これから気に入ってもらえるように頑張ろう!!
最初マイナスから始まったのなら後はプラスになるばかりだ。
どんな作戦でいこうかな?
一人、今後のことに思いをはせた。




