3-7 ジャムよりも甘い二人
「やあ、アリシア嬢。今日も会えてうれしいよ。」
グレイス様が馬車から降りる私を見つけて、手を差し出した。
「あ、ありがとうございます。私も...うれしいです。」
手をとってもらい、ちょっと恥ずかしくて小さな声になってしまった。
「全く、今日はカフェの物件を見に来たんだからな。デートじゃないんだから、しっかりしてくれ!」
私の後ろからルシアン様も降りてきた。
「もう分かってますったら...デートだったらもっとちゃんとしたところに行きます!」
私がルシアン様に向かって目を細めて言うと、ルシアン様はからかうような口調で返してきた。
「ちゃんとしたデートって自分の領地の見回りしか行っていないじゃないか?それ本当にデートか?」
「素敵な領地でした。まあ、私はアリシア嬢と二人だったらどこでも最高に幸せですが...」
グレイス様が私の手を離さずに顔を見つめてくる。
「私もグレイス様に会える日はいつも幸せです。今日も、誰が一緒でも、もうデートのようなものです。」
私がグレイス様を見つめて言うと、大きなため息が聞こえてきた。
「ーーー全く。放っておくとすぐに二人だけの世界を作っちまう。今日は仕事だなんて言っておきながら、デートのようなものだって認めちゃって。やりづらいったらありゃしない。」
私たちは、カフェのオープンに向けて王都の物件を見学に来た。
私もこれからは、数日過ごすことも増えてくるだろうということで、王都にグランベル家の屋敷も準備することにした。準備にあたっては、エーレンベルク家とランバート商会が一緒になって、急ピッチで整えてくれた。しかも、領地には一人ずつしかいないからと、こちら用に執事やメイド、料理人まで手配してくれた。本当にありがたかった。
今日は、購入したカフェの物件を見に来た。私の出した条件は王都の学園に近く、3階建ての大きめの建物というものだ。目の前には条件に合った大きくて3階建ての建物が建っている。
「まずは中に入ってみましょう。」
私たちは中に入ってみた。
「ここはお菓子の売り場ね。こんなに広いんだからジャムやポプリを販売してもいいかもね。」
一階を見て、私が思いをはせていると、グレイス様が聞いてきた。
「カフェなのに一階は販売だけにするんだね。二階や三階はどうするんだい?」
「二階はカフェにしてゆっくり軽食、お菓子を食べる場所にしたいの。厨房も必要ね。
そして、三階は食事をする場所にしたいの。貴族の方も使いやすく個室にするのも有りね。」
私は、考えながらグレイス様に答えていった。
「なるほど、目的によって階が違うんだね。
それにしてもアリシア嬢はかわいいだけじゃなくて、アイデアを出す天才でもあるんだね。
そんなアリシア嬢と婚約できて、本当に幸せだ。」
グレイス様は、優しく私の髪を一房手に取り、唇を寄せる。
「う、うれしいですけど、恥ずかしいです...」
私は、顔が熱くなって下を向いて小声になってしまった。
「はい!はい!進まないからね。
全く、人が忙しくメモをしながら歩いているうちに、いちゃいちゃと...」
(なんだか今日のルシアン様は、ちょっと怒りっぽいな~。まあいいけど。)
細かいことは気にしないアリシアだった。
「入り口はどうするんだ?全部同じく一階から階段で上がるのか?」
ルシアン様がメモを取りながら質問してきた。
「外から直接二階に上がれる階段を作れないかな?カフェやレストランを目的に来た人は直接入れるようにしたいの。」
私が、イメージを身振りで表して説明した。
「そうだな。その方がいいな。そうと決まれば外観の工事と内装の工事はすぐに始めるぞ。
店員教育も始まっているし、次はオープンまでの具体的な計画を立てていこう。」
ルシアン様は商会の人に声をかけに行った。
グレイス様が、私に向かって微笑む。
「アリシア嬢はどうしてこの王都にカフェを出そうと考えたんだい?」
「それはですね。私にカフェを作ってほしいと最初に言ってくれた友達にぜひとも何度も来てほしいからです。」
私は、思い出すように上を見つめてから話した。
「それに、カフェの相談に来るたびにグレイス様にお会いできますから。」
恥ずかしくなって、ちょっと下を向いてしまった。
「相談なんてなくても、私はいつでも会いたいな。今日は仕事が終わったらデートしないか?」
グレイス様が私の手をとる。
「こらこら!またちょっと見ない間にデートしようとする。今日はこの後、具体的な計画を立てると言ったじゃないか?」
ルシアン様がため息をついて、手のひらを上に向けて肩をすくめる。
「残念ですが、デートは明日ゆっくりしましょう。そうだ、私、腕によりをかけてお弁当を作っていこうかしら。カフェでも人気になりそうなものも作ります。楽しみにしていてくださいね。」
私が、グレイス様の手を両手で握り返した。
「それは今から楽しみだな。どこに行くかは任せてほしい。」
グレイス様も嬉しそうに私の頭を優しくなでる。
「デートについていくつもりはないけど、カフェの料理となれば気になるな。後で私にも食べさせてくれ。」
ルシアン様が、私を見つめる。
すると、グレイス様が私の前に立ち、ルシアン様が見えなくなった。
「アリシア嬢の手作りは他の男性に食べさせるわけにはいかないな。料理長にでも後日作らせて届けることにしよう。それでもいいだろう?」
グレイス様はルシアン様に向かって声をかけた。
「へいへい。食べられればそれで構いませんよ。全く、私にまで嫉妬するなんて。先が思いやられるな。」
ルシアン様は、投げやりな様子で言い放った。
「二人きりにならないように、これからも私も打ち合わせには参加しますよ。」
(あれ?グレイス様は私が一人では打ち合わせができないと心配してくれた?)
「つまり、これからも打ち合わせのたびにグレイス様とお会いできるんですね。嬉しいです。」
こうして、ジャムより甘い二人の話は続くのだった。
もちろん、その後はきちんとカフェの詳しい計画を立てましたとも。
明日のデートのために、きっちりと。
さあ、明日のデートはーー
お読みいただき、ありがとうございます。
本作品はあと5話で完結となります。
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