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やまびこカウンター  作者: オオムラサキ


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2/20

第二夜 明太子の熱と冷たさ

次の夜も、俺は九時前に「やまびこ」の扉をくぐった。

 雨はまだ降り続いているが、カウンターの左端の席はもう俺の定位置だ。

「親父、こんばんは」

「おかえり、島田さん。今日は美咲さんが来る頃に、辛いメニューがいいだろうな」

 浩一親父はそう言いながら、すでに準備を始めていた。

 まず明太子チーズ焼き。

 明太子のブロックを包丁で粗くほぐす。フライパンにバターを溶かし、明太子を投入すると、ピリッとした辛さと磯の濃い香りが一気に立ち上がる。そこへピザ用チーズをたっぷりと散らし、予熱したオーブンへ入れる。表面が黄金色に泡立ち、チーズがとろとろと糸を引くまで焼く。取り出す瞬間、香ばしい煙がカウンターまで届いた。

 もう一品はキムチ納豆冷奴。

 木綿豆腐を厚さ二センチに切り、冷たいまま小鉢に盛る。キムチは水分を軽く切り、納豆と一緒にごま油で和える。刻みねぎと刻み海苔を山盛りにのせると、冷たい白と鮮やかな赤のコントラストがとても綺麗だ。

 美咲が少し遅れて入ってきた。二十代後半のOL。今日も肩が重そうだ。

「店長、辛いもの……胃が疲れてるんです」

「はいよ」

 親父が二品を出すと、美咲は熱々の明太子チーズをスプーンで大きく掬った。チーズが伸び、明太子の辛さが溶け出す。すぐに冷たい冷奴を交互に口に運ぶ。

 熱さと冷たさの温度差が、彼女の疲れた顔を少しずつほぐしていくのがわかった。

 俺は横の席で熱燗を飲みながら、自分の焼き鳥をゆっくり味わう。

 今日の鳥はむね肉に塩だけ。皮はパリッ、中はジューシーで、シンプルな味わいが明太子の辛さを引き立ててくれる。

「島田さん、今日も一番乗りですね」

 美咲がチーズを頰張りながら話しかけてくる。俺は軽く笑って返した。

「毎日来てるからな。ここが俺の飯処だ」

 美咲は会社の残業の愚痴を少しだけこぼし、明太子チーズの最後の一口で満足げに息を吐いた。

「この熱さと冷たさのバランス……本当に癒されます」

 彼女が十時十五分頃に帰った後、カウンターにはチーズの香ばしい余韻と、ねぎの爽やかな匂いが残っていた。

 俺はもう少し粘って、親父と二言三言。

 今日の明太子チーズの焼き加減は、チーズが少し多めで最高だった。親父の気遣いが、細かいところで出てる。

 店を出るとき、俺はまた思った。

 明日も、絶対に来よう。

 明日はどんな料理に出会えるだろう。

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