第九十八話 私が、やったの?
教会に怒鳴り込んだだけなのに。
なぜか新聞では地方支配の始まりと書かれ、病院の出張所は民衆を守る王妃の拠点に。
領主は怯え、民衆は期待し、側近たちは壮大な計画だったと感心する。
なお、計画を立てた本人だけが。
自分が何をしたのか、まったくわかっていません。
翌日。病院へ行くと。
ドブレが、すでに部屋にいた。
「今日はえらく、はやいわね」
ドブレ「早いね、じゃないですよ。なんで連絡してくれなかったんですか」
「何を?」
ドブレ「何を、って。昨日の件ですよ。あぁ、特ダネがぁぁぁ」
……知らんがな。
最近なぜか心を入れ替えて、まともな記事を書くようになってきたけれど。中身は、クソリプ野郎であることに変わりはない。
あんな危険な騒動を。こいつに教えるわけが、ないでしょ。
下手すれば、病院経営にも王家の威信にも傷がつく、大災厄になりかねない事件だったのだ。
けれど。
わたしの前で。クソリプが地団太踏んで悔しがっているのは。なかなかに、気持ちがいい。
確かに最近は、こいつのおかげで寄付金も増えている。怒りは、かなり収まった。
けれど。クソリプの恨みを、忘れたわけでは、ない。
だから、とっても気分爽快。
まさに、ざまぁ。
あー。爽快痛快。
* * *
ただ。
この話は、これでは、終わらなかった。
なぜか。全国を巻き込む、大きな話へと。発展してしまう。
さらに次の日。新聞を開くと。
「王妃様、悪徳教会を征伐」
……まあ、これは、わかる。
「地方教会が王妃の傘下に」
……え?
「オーストリアからの間接支配が地方から始まる」
……何それ。意味わからない。
正直、びっくりである。
確かに、あの悪徳司祭が青い顔で地面にはいつくばってる姿は。今でも思い出すと笑いそうになる。
けれど。別に、あの地域を支配なんて、してない。
なんなんだ、このヘンテコ異世界。
と、しきりに首を捻っていると。
さらに、どんどんエスカレートしていき。
あちこちで「なんでうちの地域に出張所が作られないんだ」と、抗議運動まで勃発したとか。
うーむ。
そんなに病院欲しいなら、領主や教会が自分で作ればいいのに。
でも、まあ。病院は金がかかる。おかげで、わたしはこの国一の借金王妃だし。住民も、そういうのわからないんだろうなぁ。
などと、お金の大切さをしみじみ感じていると。
シャルティエが、げっそりした顔で、理事長室に入ってきた。
「はぁ……。地方の領主が、血相変えて出張所作ってほしいって。連日請願してきて。断るだけで、大変ですよ」
「ん? 病院作りたいなら、うちじゃなくてもいいんじゃないの?」
と言うと。シャルティエが、なぜか、びっくりした顔で、わたしを見た。
すると、隣で聞いていたヴァロワが。うんざりした顔で。
「先日の件で。わが病院の出張所は、ただの診療所ではなくなりました」
「診療所が、診療以外に何するってのよ」
「はぁ。ただの診療所じゃなくしたの、あなたじゃないですか。もしかして、わかってないんですか?」
と、ジト目で見てきやがった。
「え、いや、わ、わかってるわよ。あたりまえじゃない」
と、目を泳がせながら。助けを求めてシャルティエを見ると。
「私も、当初はあくまで。医療ネットワークと、地方領主とのパイプができれば。よい程度に考えてはいましたが」
「うんうん」
「王妃様がまさか、出張所を使って。全国ににらみを利かし。王家の支配力を強化するおつもりだったとは。思ってもいませんでした。さすが王妃様です」
え。
支配力?
何言ってくれちゃってんの?
わたし、支配なんて、しないよ? 笑顔で手を振ってりゃ支持率なんていちころって。そう思ってやってるだけなんだけど?
* * *
そう考えていると。横で聞いていたロジエが。
「うーん。こうなると。出張所部隊の再教育と、組織再編が必要ですなぁ」
腕を組んで、うなずいた。
「今までは、地域医療を担う専門班として考えておりましたが。今後はそれだけでは、足りません」
「足りないって、何が」
「患者数や病状、栄養状態といった医療情報に加え。物価、寄進、領主や教会の動き。村人たちの不満や噂話まで。定期的に本部へ報告させる必要が、ありますな」
……うーん。
なに言ってくれちゃってんのよ、このじじい。
うち、病院だよ?
諜報機関じゃないよ?
なんか。すごいことになってるな。
わたしの知らないところで。
というか。わたしが、やったのか?
* * *
ただ、それより気になったことがある。
「まぁ、すべてこれは、私の計画通りなんだけど」
嘘である。
「なんで領主は、そんな必死に、うちの病院欲しがるの? 監視されるの、いやでしょう?」
するとヴァロワが。
「これは多少予想外でしたが。あまり評判のよくない領主ほど、切望されているようですね」
「え? 逆じゃない?」
「はい。ただ、今回の騒動で。不満をためていた民衆の一部が、暴徒化するようになり。特に評判の悪いところほど。『マリー・アントワネット記念病院出張所を作れ』と。ものすごい抗議が来ているようなんですよ」
「へぇ」
「領主としては。王妃様に監視されたくはない。けれど、暴動も起こされたくない。という板挟みのようですね。まぁ、自業自得なんですが」
「あらぁ。なんか、すごいことになったわね」
シャルティエが、頷いた。
「はい。今は、急激な物価上昇で。いつ暴動が起きてもおかしくないどころか。あちこちで暴動が起こり始めているタイミングで、あの事件がありましたので」
「うん」
「ある意味。王妃様は、国民の希望なのです」
……え。
まじで?
すごいじゃない。
これってやっと。わたしのチート時代が、やってきたってこと?
シャルティエ「え?? チート? よ、よくわかりませんが。そういうわけで。出張所ができるかどうかで、領主たちの今後の領地運営に、大きな影響が出てきてしまい。領主たちも、必死なようです。ただ――」
「ん? なにか問題が?」
「出張所は赤字運営を前提とし。不足分を設営先の領主や支援者からの寄付で賄う予定なので。設営チームは、もともとそこまで多くの需要を満たせるほど、人員はありませんし。需要予測も、少なく見積もっておりました」
「うん」
「さらに最近は、急激な物価上昇でコストが跳ね上がり。寄付の負担も多くなっており。下手をすれば、本部の運営にまで支障をきたす可能性もでてきており。正直、困っています」
「うーん。まぁ、悪徳領主がどうなろうが知ったこっちゃないけど。うちが被害を食らうのは、ごめんね。じゃぁ、できる範囲で頑張りましょう」
「かしこまりました」
と。その場での話し合いは、終わったのだが。
……なんか。
わたしの知らないうちに。わたしが、とんでもないことをしてしまった、らしい。
ただ、正直。何をどうしたのか。本人が一番、わかっていない。
だって。わたしは、ただ。
ゲロの恨みで、怒鳴り込んだだけなのに。




