第八十二話 わたしの、居場所
商人たちの寄付競争に刺激され、今度は貴族や教会まで再び病院へ戻ってきました。
見栄と対抗心と、少しばかりの善意。そのすべてを巻き込みながら、病院は少しずつ軌道に乗っていきます。
そして妙子もまた、この場所が自分の居場所になりつつあることに気づき始めます。
何より、驚いたのが。
つい先日まで。「金返せ!」と、病院の前で、大騒ぎしていた。あの、貴族や、僧侶たちである。
彼らが。
「いやぁ。あれは、不幸な、行き違いでしたなぁ」
などと。
しれっと、したり顔で。のうのうと、やってきて。また、寄付金を、出すと、言い出したのだ。
「……どの口が、言うのよ」
あれだけ、わたしを、親の敵みたいに、睨みつけておいて。
けれど、ヴァロワに言わせれば。これも、計算のうち、らしい。
理由は、いくつか、あるという。
ひとつは。わたしが、テレーに、担がれていただけだった、という真相が。だんだんと、世間に、知れ渡ってきたこと。
ひとつは。この病院が、独立採算制で、回るようになり。国の負担に、ほとんど、なっていない、と、判明したこと。
そして、何より。
商人たちが、寄付のマウント合戦で、盛り上がっているのを見て。
「商人ごときに、いい顔をされて、たまるか」
という、貴族の、プライドが。むくむくと、頭を、もたげてきたこと。
「……人間の見栄って、すごいわね」
「見栄ほど、金を生むものは、ありません」
ヴァロワが、当然のように、言い切った。
この男、本当に。たまに、悪魔みたいな顔を、する。
それにしても。
つい先日まで。資金繰りに、頭を抱え。貴族にも教会にも、そっぽを向かれ。「もう、終わりだ」と、半泣きになっていたのが。嘘のようだ。
今や、お金は、向こうから、勝手に、集まってくる。
クソリプ髭が、記事を書き。商人が、見栄を張り。貴族が、対抗心を燃やす。
その、全部の真ん中に。
わたしの名前を冠した、病院が、ある。
「……ねぇ、ヴァロワ」
「はい」
「これ。もしかして、わたし。すごいこと、やってるんじゃない?」
「いいえ。やっているのは、ドブレと、私です」
「……」
「王妃様は、名前を、貸しているだけです」
ぐさり。
事実だけど。ぐさり。
でも。
まあ、いいか。
増税の弾除けにされた、あの男の。遺した計画が。今、ちゃんと、回り始めている。
クソリプ髭は、メディアの、参謀になり。気難しい眼鏡は、相変わらず、辛辣で。元理事長には、頼もしい孫が、ついて。
そして、わたしは。借金まみれの、お飾り王妃。
……でも、なんだか。
悪く、ない。
この、騒がしくて、胡散臭くて。でも、どこか、あたたかい。わたしの、居場所が。
ようやく、できたのかも、しれない。
そんなことを、思いながら。
わたしは、今日も。新聞の一面に踊る、商会の名前を眺めて。にやにやと、笑うのだった。
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