第八話 ドレス着回し、まさかの国防問題
財政の危うさを知り、ついに現代知識無双を決意した妙子。
まずは身近なところから節約しようと考えますが、王太子妃のドレスはただの服ではありませんでした。
華やかな宮廷衣装の裏にある、意外すぎる仕組みを思い知ることになります。
さて。
財務長官はずいぶん言葉を濁していたけれど、わたしの直感が叫んでいる。あれは全体的にやばい。たぶん、きっと、そうだと思う。
というか、それ以前に、わたしは大事なことに気がついてしまったのだ。
そう。ここは異世界。そして、わたしには現代の知識がある。
これまでは、この世界があまりにも非常識すぎて――おまるだの、入浴禁止だの、着替え痴女プレイだの――ちょっとついていけずにいた。けど、よく考えてみれば、わたしには現代という二百五十年分のアドバンテージがあるのだ。この圧倒的な知識を駆使すれば、わたしの無双が完成するはず。
そうと決まれば、話は早い。
これが夢なのか異世界なのか、ずっとモヤモヤしていた気持ちが、晴れ渡った空のようにスッと澄んでいくのがわかった。やる気がみなぎってくる。こんな前向きな気分は、いつ以来だろう。
さて。では、手始めに。
「ねぇ侍女長。このドレス、毎日新しい新品よね? こんなに高価なドレスを一回しか着ないなんて、もったいないと思うの。だから、洗って何度か着回せないかしら?」
そう聞いたところ、侍女長は、それはもうあからさまに、アホを見るような目でこちらを見てきた。
「王太子妃様。財務長官に何を吹き込まれたのか存じませんが、いいですか。王太子妃が同じ服を着回せば、それは『王家は王太子妃に新しいドレスも与えられぬほど困窮している』と、内外に向けて大々的にアピールするようなものでございます。そうなれば、王家を快く思わぬ国内の諸侯や、我が国の領土を狙う近隣諸国が、王家を侮って攻め込んでまいります。さらには国民からも軽んじられ、税をちょろまかそうとする不届き者まで現れかねません。よろしいですか。王太子妃様のドレスは、国防であり、治安であり、内政の象徴なのです。どうか、余計なことはなさらないでくださいませ」
「服で!?」
「はい。服でございます」
「なんで服一枚で、戦争になるのよ……」
「…………そうっすか……」
言い返せない。
いや、本当にそういうものなの? 服が国防? でも、考えてみれば現代だって、要人の身なりがどうとかこうとか、ニュースでやってた気もする。国の威信がどうとか。うっ、完全には否定できない。
どうしよう。でも、このまま引き下がるのも癪に障る。
「じゃ、じゃあ。この着終わったドレスを売って、少しでも国費の足しにするっていうのはどう?」
すると。
部屋の空気が、一瞬にして凍りついた。
そして、侍女たちが一斉に、こちらをギロッと睨んでくる。
こ、こわい。なんなの。何だっていうの。
侍女長が、またしてもバカを見る目で、ため息まじりに語り出した。
「はぁ。いいですか。この着終わったドレスは、わたくしども侍女に下賜されるのです。そして、わたくしどもはそのドレスを売ったりして、生計を支えているのです。王太子妃様は、これほど一生懸命お仕えしている侍女たちの、給料を取り上げるおつもりですか?」
え。
まじで?
これってそういうシステムだったの? お古のドレスが現物支給のお給料? 物々交換で給与払ってたの? 知らんかった。労務管理の根幹に手を突っ込んでたわ、わたし。
「え、ええっと。それなら、このブローチとかは、どうかなぁ。あ、いや、その、あの……」
「そのブローチは、昨年、国王陛下から賜ったお誕生日の贈り物ですが。本当にお売りになってよろしいので? それを耳にされたら、国王陛下はどうお思いになるでしょうねぇ」
「う……ごめんなさい」
完敗である。
現代知識無双、開始三手で詰み。チートどころか、自分の首をじわじわ絞めにいっている。
「さぁ、バカなことを言ってないで、夕食のお時間です。王族の方々がお待ちですよ」
侍女長に促されるまま、わたしはとぼとぼと食堂へ向かうのだった。
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