第七話 財政やばいって、本当ですか
日々の王宮生活に振り回される中、妙子の頭から離れなくなったもの。
それは、史実で待ち受ける最悪の結末でした。
未来を変えるため、彼女はまずフランス王国の財政状況を確かめようと動き出します。
さて、そんな毎日にも、多少は慣れ――いや、慣れはしないけれど、なんとか我慢できるようにはなってきた、ある日のこと。
日を追うごとに、わたしの中でどんどん存在感を増していくものがあった。
ギロチンのイメージである。
最近では、窓の向こうからギロチンがこっちを覗いているんじゃないかと、つい窓の外を確認してしまう始末。違う、ここは異世界、異世界、と呪文のように唱えてみても、不安は募るばかりだ。むしろ唱えるたびに、首のあたりがスースーする。
このままではいけない。
まずは現状をもっと正確に把握しなければ。
そう思い立って、今日は財務長官の執務室までやってきた。
執務室に入ると、財務長官のテレーが、にこやかな笑顔で出迎えてくれた。
「ようこそお越しくださいました。お呼びくだされば、こちらから参りましたものを。こんなむさくるしいところですが、どうぞごゆっくり。お力になれることがあれば、何なりとお申しつけください」
歓迎の言葉。
ただし、顔は笑っているけれど、目はまったく笑っていない。「くそ忙しいのに、王族が何しに来やがった。また無理難題を押しつける気か?」と、その目にはっきり書いてある。営業スマイルというか、塩対応を全力で取り繕った顔というか。
そこで、わたしは単刀直入に切り出した。
「お忙しいところ、ごめんなさい。ちょっと教えてほしいことがあるの。今、この国の財政って、危険水準なのかしら?」
すると、テレーは少し驚いた顔をした。
「……そのお話は、どちらから?」
あ、いや、ギロチンされたくないんで――とは、さすがに言えない。
「あぁ、その。侍女たちが、なんだか不穏な噂をしていたものだから。ちょっと気になったというか、なんというか」
そう言うと、テレーは驚きつつも、ふむふむと頷いた。そして、ちらりと背後の書類棚に目をやってから、急に真面目な顔つきになった。
「危険水準、というのはさすがに穏やかではありませんが。確かに、順調とも言いかねますね。別に、国が今日明日にも消滅するというわけではありません。ですが、先の戦争の後遺症で、民も国もすっかり疲弊しております。戦費を賄うために発行した国債、その返済も、かなり切迫してきているのが実情です。できることなら、王族貴族の方々にもご助力を願いたいところなのですが……何かと難しいことも多く、頭を悩ませているところでございます」
「ってことは、やっぱりきついのね。国民はどうなの? 革命とか、起きそうなの?」
「いや、さすがにそこまで差し迫ってはおりません。とはいえ、よい状況とも言えませんな。まあ、そこはやりよう次第ですよ」
なるほど。
「ありがとう、わかったわ。やっぱり、やるしかないわね。こうなったら、出してやろうじゃないの――現代知識無双ってやつを。チートで世界をひっくり返してやるわ」
「は? やるって、何をやるんですか? というか、なんですかその、げんだいちしきむそう、というのは」
「大丈夫。ぜーんぶ、わたしに任せなさーい」
そう言い残して、テレーが制止する間も与えず、わたしは意気揚々と宮殿に戻ったのだった。
――王族が国の財政を気にかけてくださるのは、それ自体は喜ばしいことだ。だが、頭を打って以来どうも奇行が目立つと噂の、あの外国人王太子妃様。本当に大丈夫なのだろうか。
そうひとりごちる、財務長官テレーであった。
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