第七十九話 金貨を数える、髭
商人への寄付のお願いは、ひとまず成功。
ところが帰り際、ドブレは寄付された金貨を一枚ずつ数え、その金額を手元のメモに記していました。
妙子は彼の意図を疑いますが、その数字が翌日、思わぬ力を持つことになります。
ヴァロワも、いったい、何を考えて。こんなやつを、連れてきたんだろう?
そんなわたしの、内心の警戒など、知ってか知らずか。ヴァロワは、さっそく、商人に向かって。慈善病院の、今後の計画について、説明を、始めた。
商人は。ひたすら、感心したように。「ほー」とか、「素晴らしい」とか、相槌を打っている。
……が。
たぶん、半分も、わかっていない。
だって、時々、目が、泳いでいるもの。
まあ、それも、無理はない。計画の中身を知っている、このわたしですら。ヴァロワが何を言っているのか、半分も、わからないのだ。換気がどうの、動線がどうの、独立採算がどうの。難しい言葉が、次から次へと。
そんな中で。
一人だけ。
やたらと、真剣に、メモを取っている男が、いた。
ドブレである。
……何、メモってんだ、こいつ。
あれか。授業中に、勉強するふりして。ノートの端っこに、落書きでもして、遊んでるやつ。あれと、同じか。
なんて、思っているうちに。いつの間にか、話は、終わっていた。
すると、商人が、ぱんぱん、と手を叩いて。
「おーい。あれを、持ってこい」
従者に、声をかけた。
ほどなく、従者が、運んできたのは。金貨の、詰まった、革袋だった。
……ふむ。
こちとら、貴族や教会の、大きな革袋に、金貨がぎっしり、というのを、何度も見慣れている。だから正直、この程度の額では。たいして、驚かない。
とはいえ。
借金王妃である、このわたしとしては。一文だって、ありがたい。喉から手が出るほど、ありがたい。
「ありがとう。助かるわ」
わたしは、にっこり笑って、お礼を言い。その場を、辞することにした。
——と、そのとき。
ふと、見ると。
ドブレが。
革袋の中の金貨を、一枚、一枚。きっちりと、数えていた。
そして、その数を。手元のメモに、書きつけている。
……は?
なんで?
なんで、記者が。従者でもないのに。人様の寄付金を、数えてるの?
「ちょっと、あんた。何してんのよ」
「いやぁ。ちょっと、気になりましてね」
ドブレは、にやにやと、いつもの胡散臭い笑みで、はぐらかした。
……こいつ。
まさか、後で、ちょろまかす気じゃ、ないでしょうね?
そのときのわたしは。本当に、その程度にしか、思っていなかった。
このメモが、翌日。とんでもない、破壊力を、発揮することになるなんて。
夢にも、思わずに。
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