第七十八話 寄付という名の、踏み倒し
知らないうちに病院の借金まで背負わされていた妙子。
貴族や教会からの募金が期待できない中、ヴァロワが目をつけたのは、病院に金を貸している商人たちでした。
借金の踏み倒しではありません。あくまで、寄付のお願いです。
借金、王妃である。
国の借金の、弾除けにされたのは――まあ、いい。よくないけど、もう、諦めた。
でも今度は。病院の借金まで、直接、背負わされてしまった。
この病院は、営利目的。しかも、専門家が、わんさか集まってきている。だから、運営のほうは、きっと、誰かが、なんとかしてくれるはず。最悪、病気のふりでもして、責任を全部、ヴァロワかシャルティエあたりに、なすりつけて、逃げる、という手もある。
……あるのだが。
さすがに、借金の額が額だけに。何もせず、見ているだけ、というわけには、いかなくなった。
貴族と教会は、テレー解任の件で、とりあえず、怒りは収まった。けれど、一度できてしまった、確執というのは。そう簡単には、元に戻らない。
募金活動の、再開は。当分、無理そうだ。
「さて、困ったわね……」
理事長室で、頭を抱えていると。ヴァロワが、しれっと、言った。
「貴族、教会は、当面、難しいでしょう。ですが――今回、商人から、かなりの額を、借りています。その商人たちから、寄付を募ろうかと、考えております」
「あ、なるほど」
わたしは、ぽん、と手を打った。
「借金の、踏み倒し、ってことね。それは、いい案だわ」
ヴァロワが、すっと、眼鏡を、かけ直した。
「違います。寄付、です」
「え?」
「王妃様が、借金を踏み倒した、などという噂が流れた瞬間。王族、全員、処刑ですよ」
「……」
「商人というのは。お金を、貸した相手には、強く出られます。ですが――自ら、進んで、寄付をした相手には。弱いのです」
こわい。
しれっと、こわいことを、言う男である。
「じょ、冗談よ、冗談。ほほほほ……ほ」
そんなわけで。
わたしたちは、さっそく。大口の債権を持つ、商人のところへ、ご挨拶に、行くことになった。
通された部屋は、それはもう、豪華だった。
「こ、これは、王妃様が、直々に!? お声がけ、いただければ。すぐにでも、こちらから、馳せ参じましたものを。むさくるしいところですが、どうぞ、ごゆるりと」
そう言って、もみ手で出迎えた商人の、その部屋。
王族のわたしでも、こんなところには、住んでない。
天井からは、ぴかぴかのシャンデリア。壁には、金ぴかの装飾。床には、ふかふかの絨毯。どこを見ても、金、金、金。
……よっぽど、悪いこと、してるに違いない。
そうじゃなきゃ。こんな、成金趣味の極みみたいな部屋に、住めるわけがない。
なんて、失礼なことを考えながら。ふと、横を見ると。
なぜか、ドブレが、いた。
……なんで、こいつが、いるの?
最近、妙に、おとなしい。おとなしいが、こいつは、危険な、クソリプ野郎だ。いつ、暴走して、計画をぶち壊すか、わかったもんじゃない。
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