第七十七話 よくできた、お孫さん
新しい理事長室への引っ越しを終え、いよいよ新体制での幹部会議が始まります。
そこに現れたのは、ロジエの孫娘クレールと、その夫アンリ。
巨大化していく病院に、新たな仲間が加わることになりました。
そんなこんなで、ぼやいているうちにも。開業の日は、刻一刻と、近づいてくる。
わたしたちは、ようやく、新しい理事長室への引っ越しを終え。記念すべき、新体制での、第一回幹部会議を、開くことになった。
例の、白磁の玉座――もとい、最新式の流水厠が完備された、あの理事長室である。
ちなみに、わたしは。あれ以来、用もないのに、何度もあの部屋へ足を運んでいる。だって、二百五十年ぶりの、文明だもの。流していいのよ、流して。何度でも、流していいの。
……まあ、それは、いいとして。
その日、いつもの幹部会議の席に。見慣れない、若い男女が、座っていた。
「……あれ? どなた?」
年の頃は、わたしと同じか、ちょっと上くらい、だろうか。
きりっとした、しっかり者ふうの娘と。その隣で、少し緊張した面持ちの、生真面目そうな青年。
ロジエが、にこにこと、二人を紹介した。
「紹介させていただきます。私の、孫娘の、クレール。そして、その夫の、アンリです」
「いつも、おじいさまが、お世話になっております」
娘――クレールが、しゃんと背筋を伸ばして、頭を下げた。
「このたび、おじいさまの手伝いを、することになりました、クレールと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」
続いて、夫のアンリが、ぺこりと、頭を下げる。
「はじめまして。私は、クレールの夫の、アンリと申します。厚生局管轄の病院で、働いておりましたが――私の師にあたる教授が、こちらの病院に、配属されることになりまして。私も、こちらで、面倒を見ていただけることに、なりました。まだ、医者の卵ですが。妻ともども、よろしくお願いいたします」
ふむ。
医者の卵に、しっかり者の孫娘。
なかなか、良さげな、若夫婦である。
「あ、こちらこそ、よろしくね。……って、ロジエ。あなた、家族、いたの?」
わたしが、何気なく言うと。ロジエが、がーん、という顔をした。
「なっ……。私を、いったい、何だと、思っていたんですか」
「いやだって。あなた、いっつも、夜遅くまで病院にいるじゃない。てっきり、ここに住みついてる、妖精か。あるいは、家族のいない、独り身で。病院に、住んでるものだと、ばかり」
「ひ、ひどい……」
ロジエが、よよよ、と、肩を落とした。
すると、クレールが、くすっと笑って、言った。
「あ、王妃様。おじいさまは、もう結構なお年なのに。いつも、朝早くに出かけて、夜遅くに帰ってくるんです。本当に、心配で。だから、これからは、わたしが、おじいさまのサポートをして。少しでも、楽をさせてあげようと、思っているんです」
……おや。
これは。
なかなか、しっかりした、娘さんである。
祖父を気遣う、優しさもあって。受け答えも、はきはきしている。あのロジエの孫とは、思えないくらい――いや、ロジエに失礼か。
「あらぁ。ロジエのくせに。よくできた、お孫さんだこと」
「ひ、ひどい……」
ロジエが、また、肩を落とす。
でも、その顔は。なんだか、嬉しそうだった。
孫に、心配されて。孫に、支えると言われて。きっと、まんざらでも、ないのだろう。
——ふと。
わたしは、思った。
ロジエも、もう、いい年だ。あの、ぼろ病院の時代から、ずっと、この場所を、守ってきた人。元・理事長で、今は、人事担当。患者のことも、スタッフのことも、誰よりよく知っている。
でも、いつまでも、若いわけじゃない。
いつか――そう遠くない、いつか。この人が、第一線を退く日も、来るのだろう。
そのとき。
この、しっかり者の孫娘が、そばにいてくれるなら。きっと、ロジエも、安心して、肩の荷を、下ろせる。
なんて。
らしくもなく、しんみりした、気分になっていると。
「王妃様? 何か、難しい顔を、なさっていますが」
クレールが、不思議そうに、首をかしげた。
「ううん、なんでもない。……ただ、ちょっと。心強い仲間が、増えたなって、思っただけよ」
「まぁ」
クレールが、ぱっと、顔を輝かせた。
「ありがとうございます。精一杯、務めさせていただきます!」
うん。
いい子だ。
ロジエの後継者として。いや、それ以前に、一人の仲間として。きっと、これから、頼りになってくれるだろう。
「まぁ、いいわ。これからも、よろしくね。二人とも」
「「よろしく、お願いいたします!」」
こうして、わたしたちの、最高幹部会議(自称)に。新しい仲間が、二人、加わったのだった。
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