第七十六話 借金、王妃
巨大化していく新病院を前に、妙子は当然の疑問を抱きます。
こんな大規模な計画を進めるお金が、いったいどこにあったのか。
その答えは、彼女の想像をはるかに超えるものでした。
「……ちょっと待って。よく、そんなお金、あったわね」
王宮は、火の車。財務局も、火の車。募金活動は、頓挫。貴族も教会も、そっぽを向いた。どう考えても、こんな、バカでかいビルを建てる、金なんて――。
「その点は。心配いりません」
ヴァロワは、しれっと、言った。
「何のための、マリー・アントワネット記念病院だと、思っているんですか。王妃様のお名前を使えば。商人どもから――いくらでも、金を借りられましたよ」
「……は?」
今、こいつ。なんて、言った?
「か、借りた? お金を? わたしの、名前で?」
「ええ」
「い、いくら?」
ヴァロワは。すっと、視線を、逸らした。
逸らしたまま、答えた。
「……まあ、それなりに」
「それなりって、いくらよ!」
「王妃様が、お聞きになると。卒倒なさるかもしれませんので。伏せておきます」
「卒倒する金額なの!?」
「ご安心ください。借りたものは、返せばいいのです」
「だ、誰が、返すのよ……」
「王妃様、です」
にっこり。
ヴァロワが、この上なく、爽やかに、笑った。
普段、ぜんぜん笑わない男が。こういうときだけ、笑う。
「ですので。借金返済のため。今後は――馬車馬のように、働いてくださいね」
「……」
くらり。
今度こそ、本当に、めまいがした。
わたし。
知らない間に。
借金、王妃に、なってる。
借金王。いや、借金、王妃。
ちょっと待ってよ。わたしは、ただ。手を振って、にっこり笑って、貧民のジジババに「頑張ってね」って言って。それで、支持率を上げて。ギロチンを、回避したかっただけ、なのに。
ちょっと、顔を出しただけ、なのに。
気がついたら、病院の経営を、なすりつけられ。増税の、弾除けに、使われ。そして今度は――とんでもない額の、借金まで、背負わされている。
「……とほほ」
わたしは、その場に、へなへなと、座り込みたくなった。
現代知識無双で、異世界を、ひっくり返すはずだったのに。
なんで、わたしばっかり、こんな目に、遭うのよ。
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